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後編 魔法学園での日々とそれから
143.レイモンド誘惑作戦
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というわけで、その日の夜私は考え込んだ。
このままの状態で過ごすのかと。
本当にそれでいいのかと。
ソフィが前に自然なことだって言ってくれたからもう、認めてしまおう。
女にもね、性欲があるの! あんな軽いキスをたまにするだけで満足できるわけがないでしょ! レイモンドのせいで、そっちのスイッチがオンになったのに小出しにすらできない……物足りなさ過ぎて我慢が限界だ。それなのにレイモンドは我慢できているというのも納得がいかない。
それに、フルールを慰めるのに邪な思いを抱いてしまうのは……レイモンドとの間に距離があるのも原因の一つだと思う。
色々ごちゃごちゃ考えてはいるけど、これをたぶん一言で表すなら、アレだアレ。レイモンドが前に言ってたやつ。
ムラムラする……っ!
これもそれも、レイモンドが悪い。こっちに私が来たばっかりの時よりもベタベタしてくれていないんじゃないの!? これが、押して駄目なら引いてみる作戦だとしたら、うっかり怒りで岩とか出して潰してしまいそうだ。
この悶々とした感じをどうにかするには、もう……!
――という葛藤を経て、私は怖いながらも受け入れることに決めた。どう考えてもそれしかない。
しかし、受け入れるとしても……もうレイモンドは我慢すると決めてしまったようで、これっぽちも深いキスをしてこないし、しようとすればスッと引かれそう。
私が分かりやすく誘惑するしかないんじゃないかという結論に……あー……しんどい。
深く考えないことにしつつ、翌朝から私は仕込みを始めることにした。
一つ目は肝心のレイモンドだ。
「ちょっとこっちに来て」
朝食が終わってから、皆がくつろぎモードになっている時に隅に呼び出す。ニコールさんとソフィも食器を片付けている。
隅とはいえ……声は聞こえる距離だ。
「どうしたの? アリス」
「明日、デートする予定だけど……」
「そうだね」
「今日の夜もしたい。ホタル見に行きたい。前にソフィに聞いたの。農業公園区の池の近くで、初夏になったら飛び交うらしいって。そろそろ時期が終わっちゃう」
「ああ……俺も聞いたことはあるけど」
「夜は隠れ家の方に泊まりたい」
「え……」
今のレイモンドなら……それはやめとこうよって言うよね。皆に聞こえる位置だからこそ、私を拒否できない。
「もっと、ちゃんと話がしたい」
私たちの間にある溝……レイモンドだって自覚はあるはずだ。
「……分かったよ。農業公園区の方にも確認はしておく」
迷っている表情のまま、そう答える。
何を考えているのかな。隠れ家の二階にも寝室はあるし、分かれて寝ることもできるとか、そーゆーことかな。
「ありがと」
背中に皆からの視線の集中豪雨を浴びている気配を感じながら、ソフィを追いかけるように厨房へ……。
「ソフィ」
「はい、アリス様!」
そんなキラキラした目で見ないで。
「たぶん直で夜に三階に行く」
「分かりました。あの……もしかしたら夜ですと分からないようにハンスがつくかもしれませんが……」
「言わなくても大丈夫。察してる」
「ありがとうございます」
こんなところは貴族感覚が身についてきているなと感じる。白薔薇邸では着替えもお風呂も手伝ってもらっていたし護衛もね……使用人サイドの人に見られたり知られることに嫌悪感はもう持たない。側にいるニコールさんに聞かれていても、まぁいいやと思える。
「それから、洗濯物カゴにあっちの寝室に置いておいてほしいものもたくさん入れちゃった」
「はい、分かりました。中身の見えないケースを用意しますか?」
「んー、二種類に分けて大きめの紙袋に入れておいて」
「はい、ご武運をお祈りしますね」
ご武運……?
ソフィもたまによく分からない言い方をするよね。私の影響?
「当たって砕けるね」
「え……砕けないでくださいね?」
「砕けたら糊でくっつけておいて」
「アリス様はアリス様ですね」
今のことわざは通じなかったかなぁ。
ラウンジに戻ると、皆で何かを話していたはずなのに会話がピタッと止まった。
もー、恥ずかしいからやめてほしいよね。
レイモンドはいない。農業公園区への確認のために部屋に準備に戻ったのかもしれない。夜の一般開放もこの時期はしていると聞いたものの、具体的な日付までは分からない。学園生徒でも普段の夜は入れない。門前払いを食らってもそれはそれで残念だったねと言いながら隠れ家に行けばいいと思っていたものの……今から確認しに行くのかな。もし無理だったら、話し合いのためとか言って隠れ家になんとか泊まれるように促そう。
ジェニーとユリアちゃんの顔を見て、スッと上に手をあげる。
「はーい、私と一緒に朝のお散歩をしてくれる人ー!」
二人が破顔して手をあげてくれた。
「やったぁ! それなら、用意してくるねー」
きっと、何かを聞きたそうで聞きにくそうな顔をされるんだろうなぁ。「今夜、キメようと思う。駄目だったら慰めて」とかアホなことを言っちゃおうかなぁ。レディらしくないし、どうしようかなぁー。
一人で部屋で夜までドキドキなんてしたくない。午後は……二階ラウンジで勉強に付き合ってもらおうかな。
ジェニーの解説、分かりやすいしね。
このままの状態で過ごすのかと。
本当にそれでいいのかと。
ソフィが前に自然なことだって言ってくれたからもう、認めてしまおう。
女にもね、性欲があるの! あんな軽いキスをたまにするだけで満足できるわけがないでしょ! レイモンドのせいで、そっちのスイッチがオンになったのに小出しにすらできない……物足りなさ過ぎて我慢が限界だ。それなのにレイモンドは我慢できているというのも納得がいかない。
それに、フルールを慰めるのに邪な思いを抱いてしまうのは……レイモンドとの間に距離があるのも原因の一つだと思う。
色々ごちゃごちゃ考えてはいるけど、これをたぶん一言で表すなら、アレだアレ。レイモンドが前に言ってたやつ。
ムラムラする……っ!
これもそれも、レイモンドが悪い。こっちに私が来たばっかりの時よりもベタベタしてくれていないんじゃないの!? これが、押して駄目なら引いてみる作戦だとしたら、うっかり怒りで岩とか出して潰してしまいそうだ。
この悶々とした感じをどうにかするには、もう……!
――という葛藤を経て、私は怖いながらも受け入れることに決めた。どう考えてもそれしかない。
しかし、受け入れるとしても……もうレイモンドは我慢すると決めてしまったようで、これっぽちも深いキスをしてこないし、しようとすればスッと引かれそう。
私が分かりやすく誘惑するしかないんじゃないかという結論に……あー……しんどい。
深く考えないことにしつつ、翌朝から私は仕込みを始めることにした。
一つ目は肝心のレイモンドだ。
「ちょっとこっちに来て」
朝食が終わってから、皆がくつろぎモードになっている時に隅に呼び出す。ニコールさんとソフィも食器を片付けている。
隅とはいえ……声は聞こえる距離だ。
「どうしたの? アリス」
「明日、デートする予定だけど……」
「そうだね」
「今日の夜もしたい。ホタル見に行きたい。前にソフィに聞いたの。農業公園区の池の近くで、初夏になったら飛び交うらしいって。そろそろ時期が終わっちゃう」
「ああ……俺も聞いたことはあるけど」
「夜は隠れ家の方に泊まりたい」
「え……」
今のレイモンドなら……それはやめとこうよって言うよね。皆に聞こえる位置だからこそ、私を拒否できない。
「もっと、ちゃんと話がしたい」
私たちの間にある溝……レイモンドだって自覚はあるはずだ。
「……分かったよ。農業公園区の方にも確認はしておく」
迷っている表情のまま、そう答える。
何を考えているのかな。隠れ家の二階にも寝室はあるし、分かれて寝ることもできるとか、そーゆーことかな。
「ありがと」
背中に皆からの視線の集中豪雨を浴びている気配を感じながら、ソフィを追いかけるように厨房へ……。
「ソフィ」
「はい、アリス様!」
そんなキラキラした目で見ないで。
「たぶん直で夜に三階に行く」
「分かりました。あの……もしかしたら夜ですと分からないようにハンスがつくかもしれませんが……」
「言わなくても大丈夫。察してる」
「ありがとうございます」
こんなところは貴族感覚が身についてきているなと感じる。白薔薇邸では着替えもお風呂も手伝ってもらっていたし護衛もね……使用人サイドの人に見られたり知られることに嫌悪感はもう持たない。側にいるニコールさんに聞かれていても、まぁいいやと思える。
「それから、洗濯物カゴにあっちの寝室に置いておいてほしいものもたくさん入れちゃった」
「はい、分かりました。中身の見えないケースを用意しますか?」
「んー、二種類に分けて大きめの紙袋に入れておいて」
「はい、ご武運をお祈りしますね」
ご武運……?
ソフィもたまによく分からない言い方をするよね。私の影響?
「当たって砕けるね」
「え……砕けないでくださいね?」
「砕けたら糊でくっつけておいて」
「アリス様はアリス様ですね」
今のことわざは通じなかったかなぁ。
ラウンジに戻ると、皆で何かを話していたはずなのに会話がピタッと止まった。
もー、恥ずかしいからやめてほしいよね。
レイモンドはいない。農業公園区への確認のために部屋に準備に戻ったのかもしれない。夜の一般開放もこの時期はしていると聞いたものの、具体的な日付までは分からない。学園生徒でも普段の夜は入れない。門前払いを食らってもそれはそれで残念だったねと言いながら隠れ家に行けばいいと思っていたものの……今から確認しに行くのかな。もし無理だったら、話し合いのためとか言って隠れ家になんとか泊まれるように促そう。
ジェニーとユリアちゃんの顔を見て、スッと上に手をあげる。
「はーい、私と一緒に朝のお散歩をしてくれる人ー!」
二人が破顔して手をあげてくれた。
「やったぁ! それなら、用意してくるねー」
きっと、何かを聞きたそうで聞きにくそうな顔をされるんだろうなぁ。「今夜、キメようと思う。駄目だったら慰めて」とかアホなことを言っちゃおうかなぁ。レディらしくないし、どうしようかなぁー。
一人で部屋で夜までドキドキなんてしたくない。午後は……二階ラウンジで勉強に付き合ってもらおうかな。
ジェニーの解説、分かりやすいしね。
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