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後編 魔法学園での日々とそれから
153.帰宅報告
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「お帰りなさいませ、アリス様」
「メイリア! 半年ぶりだね。元気にしていた?」
「ええ、お陰様で。それでは早速……私の娘をご紹介させていただいてもよろしいでしょうか」
「ええ、お願い」
メイリアが連れてきてくれたのは、同じく紺の髪を後ろで留めた賢そうなお嬢さんだ。姿勢からして戦術学科に入りそうなピシッとした感じ。
こっちの魔法学園の戦術学科も、王都と同じで要人警護だったり武器開発だったり戦術や戦略を覚えたり考えたり……といった具合らしい。メイド養成学校でもそっち系の特殊訓練の講義も選択で受けられると聞いた。ソフィのような護衛兼メイドのような仕事を将来的に希望しているのかもしれない。
「私の娘のブレンダです。まだ未熟者ですがお願いしますわ」
「よろしく、ブレンダ。夏季休暇中に申し訳ないわね。同じ学年だと聞いているわ。とても身近に感じるし、たまに顔を見せてくれると嬉しいわ」
「は、はい。ブレンダ・スコットです。お優しい言葉をありがとうございます。まさか、アリス様とこんなに近くで直接お会いさせていただくとは思いもよらず、光栄です」
あー……手が震えている。
これが前の世界なら身分の差もなく、ただの友達になれただろうに。
「そんなに固くならないでいいのよ。同じ学生でしょう? 戦術学科だなんてとても尊敬するわ」
「そ、そんな……もったいないお言葉で……」
「それから、私に専属でついてくれるメイドの前では……実はさっきみたいにご令嬢らしくない言葉遣いをしてしまっているの。無理したくないもの。あなたの前でもそうしていいかしら」
「もちろんです。え……と、ご無理はされないでください」
「よかった」
そう言って、震える彼女の手をそっと握った。
「…………!」
「友達と離れちゃって、休みの間だけではあるけれど寂しいの。私の友達代わりになると思って、たまに雑談に付き合って」
「あ、はい」
「学園ではどう? 素敵な男の子は見つけた?」
「え……」
「なんて、母親の前では言いにくいよね。意地悪言っちゃった」
目を白黒させながらメイリアに助けを求め、メイリアが母親らしい温かい表情で頷いた。
「ソフィも、恋の話をアリス様にしていたらしいわ」
「えっ……」
「同い年だもんね。あっちではたくさん楽しいことをしたの。時間がある時に話を聞いて? 今はね、後期に学園図書館でひっそりと隠れんぼでもしちゃおうかなぁって企んでいるところ」
「か、くれ……?」
「これから面白い話、たくさんしようね」
「――はい!」
少しは打ち解けたかな。
「アリス様につくもう一人のメイドは、よく知る者だとは思いますよ」
「まだ決まっていないの?」
ブレンダと毎日会って話したいけれど、学園から課題なんかも出ているだろうしね。無理は言うまい。
「アリス様はよく使用人部屋に来ていただいていたので仲のよいメイドも多く……」
そう、入り浸りそうだと思った使用人部屋、たまにお邪魔させてもらっていたんだよねー。
「レイモンド様が候補にあげられたメイドの中で誰がつくかを巡って討論の末、ジャンケン大会が繰り広げられそうな雰囲気ではありました。今日は娘に担当させるからと言って先に来ましたが、明日ご報告があると思いますよ」
「ジャンケン大会! 見たかったぁ~」
嬉しいなぁ。私を巡ってとか……は!
「私が嫌だからじゃないよね……」
「あるわけないですよ。皆、アリス様ともっと話したいんです」
「よかったぁ」
「それでは、遅くなりましたが髪を整えさせていただきますね」
「ええ、お願い」
久しぶりに会うなぁ、ご両親にも!
◆◇◆◇◆
すっかり貴族のご令嬢っぽく身支度を整えられ、レイモンドとご両親の部屋の前に来た。
なぜか緊張する……!
「ノックするね」
「うん」
――コンコン。
「入れ」
この世界に来た時を思い出すよね。
久しぶりのご両親だ。
「失礼します」
でも……全然違う。
私を迎えてくれる二人の顔は、あの時よりもずっと柔らかい。
「アリスちゃん! 元気だった?」
お母様が急ぎ足で来て、手を握ってくれた。
お父様も執務机の前に座ったままだけれど、にこやかだ。
「はい、無事戻ってきました」
「学園はどう? 楽しい?」
「とっても楽しいです。たくさん話したいことがあるんです。お母様にいただいた指輪にも、とても助けられていますわ」
「ですって、あなた! やっぱりあげてよかったじゃない」
……そういえば、酔狂な人しかつけないんだっけ……。
「引くと思ったんだがな……」
「そういえば、父上は当時引いていたらしいですもんね」
あれ?
お父様のこと、父上って呼んでたっけ?
まぁいっか。
「まったく、余計なことを覚えているな……大丈夫なのか。結構レイモンドに追跡されるんじゃないか」
お父様はお母様に追跡されまくったのかな。粘着質でしつこいのはお母様からの遺伝?
「大丈夫です。愛されているって感じます。私もいつでも呼べるという安心感があるので助かっていますわ」
「それならよかった……」
なんか疲れた表情をしていない?
二人の過去の恋愛も地味に気になるよね。
「友達はできたのかしら。何も問題は起きていない?」
「ええ、ジェニファー様とより仲を深め、新しくクラブまでつくってしまいましたわ」
「あら、素敵! 行動的ね」
「健康増進クラブって名称なんです」
「面白いわね。もう一度学生になりたくなってしまうわ。ねぇ、あなた。もう少し話をしてもいいかしら」
「そうだな。そこのソファに座るか」
こうしてお母様主導でお昼までここで過ごし、昼食もご一緒した。
前よりもずっと、親子になれた気がした。
「メイリア! 半年ぶりだね。元気にしていた?」
「ええ、お陰様で。それでは早速……私の娘をご紹介させていただいてもよろしいでしょうか」
「ええ、お願い」
メイリアが連れてきてくれたのは、同じく紺の髪を後ろで留めた賢そうなお嬢さんだ。姿勢からして戦術学科に入りそうなピシッとした感じ。
こっちの魔法学園の戦術学科も、王都と同じで要人警護だったり武器開発だったり戦術や戦略を覚えたり考えたり……といった具合らしい。メイド養成学校でもそっち系の特殊訓練の講義も選択で受けられると聞いた。ソフィのような護衛兼メイドのような仕事を将来的に希望しているのかもしれない。
「私の娘のブレンダです。まだ未熟者ですがお願いしますわ」
「よろしく、ブレンダ。夏季休暇中に申し訳ないわね。同じ学年だと聞いているわ。とても身近に感じるし、たまに顔を見せてくれると嬉しいわ」
「は、はい。ブレンダ・スコットです。お優しい言葉をありがとうございます。まさか、アリス様とこんなに近くで直接お会いさせていただくとは思いもよらず、光栄です」
あー……手が震えている。
これが前の世界なら身分の差もなく、ただの友達になれただろうに。
「そんなに固くならないでいいのよ。同じ学生でしょう? 戦術学科だなんてとても尊敬するわ」
「そ、そんな……もったいないお言葉で……」
「それから、私に専属でついてくれるメイドの前では……実はさっきみたいにご令嬢らしくない言葉遣いをしてしまっているの。無理したくないもの。あなたの前でもそうしていいかしら」
「もちろんです。え……と、ご無理はされないでください」
「よかった」
そう言って、震える彼女の手をそっと握った。
「…………!」
「友達と離れちゃって、休みの間だけではあるけれど寂しいの。私の友達代わりになると思って、たまに雑談に付き合って」
「あ、はい」
「学園ではどう? 素敵な男の子は見つけた?」
「え……」
「なんて、母親の前では言いにくいよね。意地悪言っちゃった」
目を白黒させながらメイリアに助けを求め、メイリアが母親らしい温かい表情で頷いた。
「ソフィも、恋の話をアリス様にしていたらしいわ」
「えっ……」
「同い年だもんね。あっちではたくさん楽しいことをしたの。時間がある時に話を聞いて? 今はね、後期に学園図書館でひっそりと隠れんぼでもしちゃおうかなぁって企んでいるところ」
「か、くれ……?」
「これから面白い話、たくさんしようね」
「――はい!」
少しは打ち解けたかな。
「アリス様につくもう一人のメイドは、よく知る者だとは思いますよ」
「まだ決まっていないの?」
ブレンダと毎日会って話したいけれど、学園から課題なんかも出ているだろうしね。無理は言うまい。
「アリス様はよく使用人部屋に来ていただいていたので仲のよいメイドも多く……」
そう、入り浸りそうだと思った使用人部屋、たまにお邪魔させてもらっていたんだよねー。
「レイモンド様が候補にあげられたメイドの中で誰がつくかを巡って討論の末、ジャンケン大会が繰り広げられそうな雰囲気ではありました。今日は娘に担当させるからと言って先に来ましたが、明日ご報告があると思いますよ」
「ジャンケン大会! 見たかったぁ~」
嬉しいなぁ。私を巡ってとか……は!
「私が嫌だからじゃないよね……」
「あるわけないですよ。皆、アリス様ともっと話したいんです」
「よかったぁ」
「それでは、遅くなりましたが髪を整えさせていただきますね」
「ええ、お願い」
久しぶりに会うなぁ、ご両親にも!
◆◇◆◇◆
すっかり貴族のご令嬢っぽく身支度を整えられ、レイモンドとご両親の部屋の前に来た。
なぜか緊張する……!
「ノックするね」
「うん」
――コンコン。
「入れ」
この世界に来た時を思い出すよね。
久しぶりのご両親だ。
「失礼します」
でも……全然違う。
私を迎えてくれる二人の顔は、あの時よりもずっと柔らかい。
「アリスちゃん! 元気だった?」
お母様が急ぎ足で来て、手を握ってくれた。
お父様も執務机の前に座ったままだけれど、にこやかだ。
「はい、無事戻ってきました」
「学園はどう? 楽しい?」
「とっても楽しいです。たくさん話したいことがあるんです。お母様にいただいた指輪にも、とても助けられていますわ」
「ですって、あなた! やっぱりあげてよかったじゃない」
……そういえば、酔狂な人しかつけないんだっけ……。
「引くと思ったんだがな……」
「そういえば、父上は当時引いていたらしいですもんね」
あれ?
お父様のこと、父上って呼んでたっけ?
まぁいっか。
「まったく、余計なことを覚えているな……大丈夫なのか。結構レイモンドに追跡されるんじゃないか」
お父様はお母様に追跡されまくったのかな。粘着質でしつこいのはお母様からの遺伝?
「大丈夫です。愛されているって感じます。私もいつでも呼べるという安心感があるので助かっていますわ」
「それならよかった……」
なんか疲れた表情をしていない?
二人の過去の恋愛も地味に気になるよね。
「友達はできたのかしら。何も問題は起きていない?」
「ええ、ジェニファー様とより仲を深め、新しくクラブまでつくってしまいましたわ」
「あら、素敵! 行動的ね」
「健康増進クラブって名称なんです」
「面白いわね。もう一度学生になりたくなってしまうわ。ねぇ、あなた。もう少し話をしてもいいかしら」
「そうだな。そこのソファに座るか」
こうしてお母様主導でお昼までここで過ごし、昼食もご一緒した。
前よりもずっと、親子になれた気がした。
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