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第二章
064 ご挨拶
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王都東にある城塞都市イルクナーの更に東へ。多くの村々を越えて、人の手の入らない、むき出しの自然が広がる僻地へと進んで行く。いつの間にか石畳の敷かれた立派な道は姿を消し、今はもはや道とは呼べない背の高い草の生えた地面を踏みしめて歩いていく。
レベル7ダンジョンなんて、滅多に挑戦する冒険者が現れないから、『ゴブリンの巣窟』や『コボルト洞窟』のように道なんて整備されていない。未開の道無き道を森を左手に迂回するように進んでいく。
森の中を真っ直ぐ突っ切っていった方が早いだろうけど、森の中は天然のダンジョンと言っていいほど別世界だから注意が必要だ。ダンジョンレベルも分からなければ、出てくるモンスターも不明。どんな天然のトラップがあるかも分からない。そんな厄介な場所に敢えて入る必要は無い。
しかし、僕たちが避けても、向こうから寄ってくる場合もある。
「伏せて!」
「わぶっ!?」
ルイーゼの鋭い声が響いた瞬間、僕はなにかに躓いたような感じと背中を押されたような感覚と共に、気が付いたら草原の上に転がっていた。自分が転ばされたのだと把握するのと同時に、僕の頭上を鋭い風切り音が通り抜けていく。いったい何が!?
何が起きているのか把握しよう。転がったまま前方を見上げると、僕の前を歩いていたイザベルとリリーがラインハルトに押し倒されていた。その向こうでは、立ったままのルイーゼがバックラーを構えながら腰の剣を抜き放つ。
白。どこまでも穢れを知らない白。陽光に照らされて輝くのは、まるで清純な乙女を思わせる白い長剣。新しくルイーゼの愛剣になった、手折られぬ氷華ヴァージンスノーだ。
ルイーゼはヴァージンスノーを抜き放つと、鋭い目つきで森を睨みつける。
ルイーゼが剣を抜いたということは、敵が居る……? 敵襲!? さっきの鋭い飛翔音は!? 今、何が起こっている!?
「クルトを!」
疑問だらけの僕の頭にイザベルの言葉が響いたことで、僕の中の疑問は確信へと変わる。やっぱり敵襲だ! イザベルが“僕を守るように”と指示を出している。
イザベルの声が響き終らないうちに、僕の前に人影が現れて日の光が遮られた。
見上げると目に入るのは、陽光を受けてキラリと輝く銀の鎧とサラリと靡く黄金の髪。アイアンアーマーに身を包んだルイーゼだ。ルイーゼが僕を森から守るように立ち塞がっていた。森に敵が居るのかな?
森は木々が鬱蒼と生い茂り、日の光を完全に遮って深い闇が広がるばかりで、中を見通すことができない。敵の姿が見えない。どうする……?
「GAAAAAAAAAAA!」
「GARURURURURURU!」
「UHOUHOUHOUHOU!」
森の中から獣の雄叫びのような声が響き、森の闇の中から赤い肌をした大きな人影が飛び出してきた。筋骨隆々とした体。未開の地の蛮族のような腰ミノと骨のアクセサリーでその身を飾り立てている。最大の特徴は頭部から生えた2本のツノ。ハイオークとも呼ばれることもあるオーガだ。オーガたちが7体、先を争うように僕たちへと殺到する。
「迎撃よ! 護衛任せた!」
ルイーゼが号令を飛ばすと同時に、オーガの群れに向かって駆け出した。強さも分からない野生のオーガ7体を相手に突っ込んでいける胆力は、称賛されるべきものだ。
「リリーは護衛に! イザベルは指示を!」
そう叫ぶと、ラインハルトも立ち上がってルイーゼに続くように駆ける。
こちらに駆け寄るオーガの内2体が、走る勢いを落とし、弓を構えたのが見えた。おそらく、最初に聞こえた風切り音の正体は、矢だったのだろう。2体のオーガアーチャーは、熟練の動作で瞬く間に矢を放つ。
聞き覚えのある風切り音を奏で、2本の矢が放たれ、甲高い金属音が2回響いた。ルイーゼとラインハルトの2人が、それぞれ矢を剣で弾いた音だ。放たれた矢を剣で弾くなんて滅多にない神業だけど、これぐらいのことを普通にやってのけるのが【勇者】だ。
「GA!?」
「GUGA!?」
オーガアーチャーが思わず動きを止めて驚きを露わにした。その瞬間、1体のオーガアーチャーが、まるで顔面を殴られたかのように、もんどりうって倒れるのが見えた。遅れて響くのは、先程より何倍も重苦しい聞き慣れた風切り音だ。
「しっ!」
その風切り音の射手、マルギットが短く喜びの声を上げるのが聞こえた。マルギットがオーガアーチャーをヘヴィークロスボウで仕留めたのだろう。
マルギットが扱うヘヴィークロスボウは、かつて『コボルト洞窟』で僕らを襲ってきたレッドパーティーからの戦利品だ。偏に威力を追求した作りのクロスボウで、連射性は最悪だけど、その威力はきっと高レベルダンジョンでも通用すると思う。
そうだ! 僕もへヴィークロスボウを出して援護射撃しないと!
「アインス! ドライア! 放ちなさい、フォイアボルト!」
腰のマジックバッグから大きなへヴィークロスボウを取り出すと、黒のドレスを着たイザベルも立ち上がるのが見えた。契約している火と雷の精霊に呼びかけ、イザベルの指先から稲妻のようにカッと焔が迸る。焔は瞬く間もなく残ったオーガアーチャーへと吸い込まれるように命中し、その姿を業火へと飲み込んだ。雷の効果なのか、オーガアーチャーはビクッと直立不動となり、麻痺して動くこともままならないまま倒れ、まるで火の付いた薪のように炎を噴き上げていた。
レベル7ダンジョンなんて、滅多に挑戦する冒険者が現れないから、『ゴブリンの巣窟』や『コボルト洞窟』のように道なんて整備されていない。未開の道無き道を森を左手に迂回するように進んでいく。
森の中を真っ直ぐ突っ切っていった方が早いだろうけど、森の中は天然のダンジョンと言っていいほど別世界だから注意が必要だ。ダンジョンレベルも分からなければ、出てくるモンスターも不明。どんな天然のトラップがあるかも分からない。そんな厄介な場所に敢えて入る必要は無い。
しかし、僕たちが避けても、向こうから寄ってくる場合もある。
「伏せて!」
「わぶっ!?」
ルイーゼの鋭い声が響いた瞬間、僕はなにかに躓いたような感じと背中を押されたような感覚と共に、気が付いたら草原の上に転がっていた。自分が転ばされたのだと把握するのと同時に、僕の頭上を鋭い風切り音が通り抜けていく。いったい何が!?
何が起きているのか把握しよう。転がったまま前方を見上げると、僕の前を歩いていたイザベルとリリーがラインハルトに押し倒されていた。その向こうでは、立ったままのルイーゼがバックラーを構えながら腰の剣を抜き放つ。
白。どこまでも穢れを知らない白。陽光に照らされて輝くのは、まるで清純な乙女を思わせる白い長剣。新しくルイーゼの愛剣になった、手折られぬ氷華ヴァージンスノーだ。
ルイーゼはヴァージンスノーを抜き放つと、鋭い目つきで森を睨みつける。
ルイーゼが剣を抜いたということは、敵が居る……? 敵襲!? さっきの鋭い飛翔音は!? 今、何が起こっている!?
「クルトを!」
疑問だらけの僕の頭にイザベルの言葉が響いたことで、僕の中の疑問は確信へと変わる。やっぱり敵襲だ! イザベルが“僕を守るように”と指示を出している。
イザベルの声が響き終らないうちに、僕の前に人影が現れて日の光が遮られた。
見上げると目に入るのは、陽光を受けてキラリと輝く銀の鎧とサラリと靡く黄金の髪。アイアンアーマーに身を包んだルイーゼだ。ルイーゼが僕を森から守るように立ち塞がっていた。森に敵が居るのかな?
森は木々が鬱蒼と生い茂り、日の光を完全に遮って深い闇が広がるばかりで、中を見通すことができない。敵の姿が見えない。どうする……?
「GAAAAAAAAAAA!」
「GARURURURURURU!」
「UHOUHOUHOUHOU!」
森の中から獣の雄叫びのような声が響き、森の闇の中から赤い肌をした大きな人影が飛び出してきた。筋骨隆々とした体。未開の地の蛮族のような腰ミノと骨のアクセサリーでその身を飾り立てている。最大の特徴は頭部から生えた2本のツノ。ハイオークとも呼ばれることもあるオーガだ。オーガたちが7体、先を争うように僕たちへと殺到する。
「迎撃よ! 護衛任せた!」
ルイーゼが号令を飛ばすと同時に、オーガの群れに向かって駆け出した。強さも分からない野生のオーガ7体を相手に突っ込んでいける胆力は、称賛されるべきものだ。
「リリーは護衛に! イザベルは指示を!」
そう叫ぶと、ラインハルトも立ち上がってルイーゼに続くように駆ける。
こちらに駆け寄るオーガの内2体が、走る勢いを落とし、弓を構えたのが見えた。おそらく、最初に聞こえた風切り音の正体は、矢だったのだろう。2体のオーガアーチャーは、熟練の動作で瞬く間に矢を放つ。
聞き覚えのある風切り音を奏で、2本の矢が放たれ、甲高い金属音が2回響いた。ルイーゼとラインハルトの2人が、それぞれ矢を剣で弾いた音だ。放たれた矢を剣で弾くなんて滅多にない神業だけど、これぐらいのことを普通にやってのけるのが【勇者】だ。
「GA!?」
「GUGA!?」
オーガアーチャーが思わず動きを止めて驚きを露わにした。その瞬間、1体のオーガアーチャーが、まるで顔面を殴られたかのように、もんどりうって倒れるのが見えた。遅れて響くのは、先程より何倍も重苦しい聞き慣れた風切り音だ。
「しっ!」
その風切り音の射手、マルギットが短く喜びの声を上げるのが聞こえた。マルギットがオーガアーチャーをヘヴィークロスボウで仕留めたのだろう。
マルギットが扱うヘヴィークロスボウは、かつて『コボルト洞窟』で僕らを襲ってきたレッドパーティーからの戦利品だ。偏に威力を追求した作りのクロスボウで、連射性は最悪だけど、その威力はきっと高レベルダンジョンでも通用すると思う。
そうだ! 僕もへヴィークロスボウを出して援護射撃しないと!
「アインス! ドライア! 放ちなさい、フォイアボルト!」
腰のマジックバッグから大きなへヴィークロスボウを取り出すと、黒のドレスを着たイザベルも立ち上がるのが見えた。契約している火と雷の精霊に呼びかけ、イザベルの指先から稲妻のようにカッと焔が迸る。焔は瞬く間もなく残ったオーガアーチャーへと吸い込まれるように命中し、その姿を業火へと飲み込んだ。雷の効果なのか、オーガアーチャーはビクッと直立不動となり、麻痺して動くこともままならないまま倒れ、まるで火の付いた薪のように炎を噴き上げていた。
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