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ギャップ

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  ニンニク臭も煙草臭もないし、アブラギッシュでもない。
 髪も短目ながらサラサラ艶々で、つむじが薄くなったりとかもしてない。

  この人、きれいな歳の取り方してるなー……。

 元々、美しいモノが大好きな私は、掃除しながら部署の一人一人に挨拶して回る月山部長に、こっそりと、しばらく見とれていた。



「月山さん、芸能人みたいよねー」

 休憩時間は、デスクに珈琲とお菓子を並べて女子トーク。
  オペレーターの女子の中でも、今までの下品な上司とは違う月山さんの事で話題は持ちきり。

「もう少し若かったらなー」
「確かに。39歳だって」

  おー、同じ意見がいた。
  いくらイケメンでも、歳が10以上離れると、ぐんと恋愛対象からは程遠くなってしまう。私だけではなかったな。

 「でも、独身みたいだよね」

 「え、その年でそれは引くー」

 「バツイチとかじゃないの?」 

  皆の会話を聞きながら、一人、違う妄想を始める私。

  ヴィジュアル系バンドのスタンディングライヴに一人参戦する独身中年……。

  今日1日見てきたけれど、我々女子社員に対し、一度も厭らしい、好奇な視線は向けなかった。

  チラリ、ともだよ?

  ね、もしや。

  月山さんって、そっち、なのでは? 

  リアルでボーイズラブ、いや、メンズラブは初めて見たかも。
  これは、何かと目が離せないぞ。

  
「後藤さん、何ニヤニヤしてんの?」

ハッ!
  
 同僚に不気味がられ、我にかえる。


「別に」

  妄想に浸ると、どうしても口元が緩んでだらしない顔になってしまう。

「男に免疫のない後藤さんなら、ああいう年上で包容力がある大人の男性がいいんじゃないの?」

「あー、本当!全て受け入れてくれそうだしね」

  ″ あー本当 ″……じゃない。

  私以外、それなりに経験のあるお姉さま達は適当な事を言ってたけど、私だってもう少し若い男の方がいいです。
  それに、月山さんが、受け入れないかもしれない、″ 女 ″ を。
  そこへ、


「いつまで喋ってるんだ? もう三時半だぞ」

  
 噂の的の月山さんが登場。
 お得意様回りから早めに帰社してきた。


「休憩遅かったので!  月山部長、早かったですねぇ!」

 そもそも3時にオヤツ付きの休憩する会社ってどうよ? 今までの揺るーい勤務体制あらわにしつつ、みんな、どこかで月山さんを甘く見ていた。
  見た目が甘いから、ね。


「昼休みちゃんと取ってるんなら、みんなまとまって3時に休憩する必要あるか? お茶したいなら、定時に上がってアフターにやれ、ほら、電話鳴ってるぞ!」

 Ririririri!

やり手だと言われる月山さんは、電話のワンコール取りを徹底したり、事務所の動きの停滞を厳しく指摘。

「時間を無駄にするな。会社はお前らの交友の場じゃないんだ。利益をあげる人材として給料払ってるんだよ」


″ 経常利益 ″ と呼ばれるにふさわしい渇を入れてきた。

  ……やっぱり本社の人間は苦手だなぁ。


























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