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訪問者
しおりを挟む「えっ?! 九州行けないかもしれないの?」
寧々に、会社を辞めて、とてもボンビーになること、それに伴い、九州の旅行がてらのライヴ参戦を諦めなければいけないことを電話で告げた。
「それにしても、そんな職場のオッサンに楯突くなんて、晶らしくないねー。あんたって普段は控えめでメルヘンで無難に生きてく方じゃん?」
「メルヘンは余計」
確かにそうだ。
私が誰かにあんなに憤りを感じたり、刃向かったりしたことなんて、過去にはなかった。
なのに、どうしても耐えられなかった。
「じゃ、晶の分のチケット、誰か買わないかTwitterかなんかで拡散しとくね」
「え、」
「きっと高値で売れるよ! ホールじゃないんだからさ。定価で売るより生活の足しになるでしょ?」
そう言われると急に惜しくなる。
「……あ、拡散は 待って」
見ず知らす間の他人に譲る位なら、どうにかして行けないかと考えてしまうのだ。
「まだ辞表出してないんでしょ? あんたが辞めるのはオカシイんだから、思い止まりなさいよ。辞めるならその新しく来たオッサンの方でしょ?」
「そうだよね?」
寧々の力強い言葉に心は揺れる。
いっそのこと、月山さんに百万円位で売り付けてやろうかと思ってしまった。
電話を切って、ため息。部屋を見回す。
独り暮らし。
1DKのアパート。
狭くて、けして新しくはない部屋だけど、ここは私だけの世界。
高校卒業を機に、口うるさかった親元を離れて、 やっと手に入れた空間。
部屋の壁は【Virtue】のポスターで埋め尽くされている。
トイレにだって、ヨシ様の写真が飾ってある。
こんな部屋なので、寧々以外は招き入れたことはなかった。
きっと、これからも、誰も入れることはない。
そう思っていた。
――――
欠勤三日目。
休む旨の連絡をすると、さすがにオペレーターの中の長である本山さんが嫌味を言い始めた。
「何があったか知らないけど、この繁忙期に風邪くらいで何日も休めば他の皆に迷惑かかると思わないの?? 自分の担当の仕事さえ間に合えばいいって話じゃないのよ?」
わかってる。
わかってるんですよ、先輩。
だけど、どうしてもあの失礼な美中年と顔を合わせたくない。
また、変な劣等感を味わいたくないんです。
「あの、私……」
電話しながら、テープルの上の書き留めていた退職願いを見つめる。
「なに、来る気になった?」
「いえ、会社を……」
「会社を?」
″ 辞めようと思うんです ″
……そう言おうとした時だった。
ピンポーーン。
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