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息子 娘
しおりを挟む髪も急いで洗い、いつものタンクトップと短パンを着て、
「月山サーん、いいですよぉ」
髪をバスタオルで拭きながら、恩人を呼ぶ。
「あー……」
と返事をしたものの、月山さんは部屋中に飾られたVirtueのポスターを食い入るように見ていた。
前に、熱狂的ファンとしての視線だと思っていたそれは、親の愛として だった。
それなのに、息子の方は、
「どうして、あんなにヨシは不機嫌だったんですか?」
男の子だから、女よりも、多少なり父親に反発するものかもしれないけれど、
″俺は確かにこの人の精子の一部だった″
あの言葉には恨みさえ込められていたような気がする。
「……アイツは、俺が高校の時に出来た子供なんだよ」
「え……」
はやっ。
ちょっぴり寂しそうな顔をした月山さんは続けて、良く有りがちな、高校生の、早すぎた性体験の
結末を話してくれた。
「どっちの親からも猛反対されて、将来的に結婚どころか、俺はヨシノリを認知することも許されなかった。勿論、俺もガキだったから、親や家を捨ててまで、あいつの母親と一緒になろうとかは思わなかったしな」
「じゃ、ヨシのお母さんとも、ヨシとも一緒には暮らしてもいないんですね?」
「あぁ。大学に通ってる間も、就職してからも会いに行ったこともなかった」
……それならば、親子関係が成立しないのは分かる。
「……その、聞きにくいんですけど、お金はどうなってたんですか?シングルマザーとして生きていくには、甘い世の中ではないじゃないですか」
お母さんが苦労してきたのなら、ヨシが月山さんを恨むのも分かるような気がする。
「さすがに仕事を始めてからは、彼女の実家へ現金書き留めで仕送りしてた、口座も知らないしな。だけど、必ずといっていいほど返金されてきてた」
「……そうなんですか」
どうして、ヨシのお母さんの親は、そこまで月山さんの事を拒絶したんだろうか?
話をしているうちに、濡れた髪から落ちてくる滴が、ひどく冷たく感じた。
「でもヨシは知ってたわけですよね?もう、余計な事をするなって、怒ってましたもんね?」
「お前、興奮してたくせに良く覚えてるな」
「人の泥々した話って吸収しやすいみたいで」
「意味わからん、……まぁ、今まで拒否されて俺も大人しく引っ込んでたわけだけど、ちょっとあちらの事情が変わってな。会えるようになったんだ」
「え、ヨシのお母さんにですか?」
「そう……」
「どうして?」
「今日はここまで」
「えー、気になるっ」
「今は話したくないんだ」
「……誰にも話しませんよ?」
「それでも、だ」
「…………」
そこまで話した月山さんは、私の髪を見て、
「早く乾かさないと、痛んじまうぞ」
まるで、父親みたいなことを言い始めた。
「ここも、濡れてるじゃん」
「え」
「鎖骨のところも」
「あ……」
雑な拭き方したから……。
「というか、首も……」
月山さんは、私の肩にかけられていたバスタオルを手に取って、恐らく、髪から滴り落ちてきた滴が残る首や、鎖骨部分を丁寧に拭き取り始める。
「……だ、大丈夫ですよ、今はまだ寒くないし」
「季節の変わり目が一番風邪を引くだろ? ほら、背中も」
私の半乾きの髪まで持ち上げて、濡れてべっとりしてる私の頸椎あたり、そして、Tシャツの襟からタオルを入れてくるからくすぐったくて、
「あ、あとは自分でやります」
月山さんの手の体温が心地よくて、なんか、妙にドキドキした。
「手のかかる娘だ」
「ほっといてください。それに……」
「ん?」
「さっきから月山さん、めっちゃクサイです! 早くシャワー浴びてきたらどうですか?」
「誰のせーだ?」
へんなの。
こんなオジサンにドキドキするとか……。
「じゃ、風呂借りるぞ」
「はい、どーぞ」
「げ、風呂場っ、汚なっ!! お前、ちゃんと掃除してるのかよっ?」
「文句あるならそのままゲロ臭いお体で電車に乗ってください」
普通ならあり得ないんだろうけど…。
「入ったついでに掃除しておいてやる」
きっと、この人が、あの ″ ヨシ ″ のお父さんだからだね。
絶対、そう。
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