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鬼
しおりを挟む日本における、V系バンドは、90年代をピークにその存在感は少しずつ薄れていき、今現在も第一線で活躍しているのは、その頃にデビューした実力派の大御所ばかり。
V系バンドの高齢化が確実に進む中で、二年前、彗星のごとく現れた、完璧な美形バンド(V系)【Virtue】―ヴァーチュ―。
その中でも、ボーカルの″ヨシ″の美貌は飛び抜けていて、V系人気が沸騰中の海外に、多くのファンを持つ。彼のまたの名を【謎多き美しき獣】。
その彼が、やり手の営業部長、またの名を【歩く経常利益】月山 理 (39)の、私の直属の上司の息子だった――――
案外、世話好きで優しいと分かった月山さんも、やはり仕事の時は社員に怖がられたりもしている。
「小山田!Kanedo化粧品のFacebookにちゃんとアクセスしとけって言っただろっ?!」
「あー、すんません。関連のTwitterではフォローしてたんですけどね。それにFacebookはあんまり更新してなくて…」
「フォローだけなら誰だって出来るんだよ、ちゃんと向こうのパーソナリティー把握しとけって言っただろ?」
「やり取り面倒ですもん」
「プレゼンする前にSNSでも、会話出来てた方が耳に入れて貰いやすくなるだろうが? 何年営業やってるんだ? いつもいつもその場しのぎのパフォーマンスばかりしてんじゃねぇぞ!」
「す、すみません!」
クライアントとの繋がりを大事にし、念入りに計算されたプレゼンで、確実に企画にのってもらうテクニックを持つ月山さん。
だから彼が企画したものの受注率が、いつも75%を越えると言う数字が、彼の有能さをはっきりと表している。
やはり、凄い人なのよ。
「おい、後藤」
「は、はい」
ピリピリした空気の中で突如名前を呼ばれて、声は上ずる。
「後藤は企画書作ったことあるのか」
「え」
「企画書だよ」
「まだありません」
「そうか、じゃ作ってみろ」
「え?! Kanedo化粧品のですかっ?!」
こんなぺーぺーに何てこと言うの??
本山さんをはじめ、他のオペレーターや営業の方々が驚いて私を見ている。
「そう、美しいモノが好きな女らしいヤツを提案してみろよ」
「む、ムリです……そんな大手の企画書なんて……」
美しいものが好きと言っても、ライヴの時にしかメイクしない女だよ?
「無理なことないだろ? Illustrator、Photoshop、HTML、CSSは使えるんだろ?」
「……何となく」
「何となくってなんだ? とりあえずマーケティングデータも渡すから、時間かけてやっとけ」
「時間かけて、いいんですか?」
「と言っても来週の水曜日までだけどな」
「は」
ちょ、ちょっと待って。
来週の水曜日って、
「他のヤツにも作って貰って比較するから、渾身こめて作れよ」
【Virtue】の九州ライヴ初日じゃないの??
無理よ! あなたの息子に会うためにお金つぎ込むんですよ?!
連休取って休むつもりだったのに!
「ちょっと待ってくださいっ、お父さん!」
「誰がお父さんだ」
「今回はご遠慮させてください」
「何がご遠慮だ、遊びじゃないんだぞ。首になりたくなかったらちゃんと遂行しろ」
鬼―――――!
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