美獣と眠る

光月海愛(こうつきみあ)

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勘違い

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  なんでいきなり私みたいな新人に…?。

  取り敢えずその日は通常の業務を終えて帰宅することにする。

  水曜日に休みたければ、火曜日までにOK貰えるものを作成しなきゃいけない。

  しかし、これって私の仕事なのかな?

 それにさ。
  一昔前のトレンディドラマじゃないんだから、無能だと思っていた新人OLがイケメン上司によって能力も私生活も華やいでいく、……というパターンにはなりませんよ?

  仕事に生き甲斐感じるタイプでもないしな…。

 それでも、帰りの電車では化粧品会社の電子広告やビルの大きな広告に自然と目がいく。

  今までのイベント系のチラシとはわけが違うからなぁ。

  でも、ヨシ……。
  あなたに九州で会うために頑張るからね。


  駅へ向かう足取りも心なしか軽くなる。


  お、珍しく座席が空いてる。

  電車の中ではほぼ立っていることが多いのだけど、今日は珍しく座れた。
 スマホで【Virtue】のWeb情報をチェック。

  更新されてる……。

  どれどれ。へー、今度 音楽番組に出るんだ。

  国内では無名だと思っていたけれど、だんだん一般的にも知名度上がってきてるな。
  嬉しいようで、ちょっと寂しい複雑な心境だ。

  いや、ちょっとじゃない。めちゃくちゃ寂しい。
  みんなの ″ ヨシ ″ 様になるなんて、かなり、悔しい。

  ファン心理とは複雑なもので、メンバーが売れるように応援はするけれど、熱心なら熱心なだけ、独占欲が湧いてくる。

 あー。

 もう一度。

 素のヨシに、会いたい。


   一度、プライベートなヨシを見たことで、勝手に親近感を持ってしまった。
  そのうえ、彼の父親を知ったことで、更にそれが強まったのか分からないけれど、


『あの冷たい氷のような目をしたヨシを、間近で見たい』


  私を衝動的行動へ走らせた。

  最近知った月山さんの電話番号。
 (社員みんな知らされている)

  電車から降りて、仕事以外の用件で、彼に電話をかけようとしているのだから。


  トゥルル―――トゥルル―――


  まだ、会社だろうか?

 ヤバい。ドキドキする。

 まるで告白する前みたいだ。(したことはないけど)

  トゥルルー…トゥルル――

  お願いします。

  月山さん、出て。

  なるべく機嫌良く出て――――。



「はい、月山ですが……」


 私の願いもむなしく、超不機嫌な声で電話を取った月山さん。

「なんだ、後藤か。どうした?  企画書の件か?弱音なら受け付けないぞ」

 パチパチ…と、事務所の電気を消す音が聞こえてきたので、そろそろ帰るのだろう。


「いえ、そうではなくて、お願いがあるんです」

 弱音なら心で吐きまくってますが、そうではない。


「お願い?」

「あ、あの、私にやる気を湧かせて貰えないでしょうか?」

 ズバリ、私を、ヨシに会わせて貰えないでしょうか?

 「……やる気?」

 電話の向こう、月山さんの声はとても不可解そうだ。

 ……わかってください。
  
 いえ、知ってるでしょ?

 私が何のために仕事をしてるのか、何が生き甲斐なのか、だから、恋愛も結婚も望まない生き方が出来てるってこと。

  わかってるなら、


「断る」


 え?

 まだ、ちゃんと伝えてないのに、″ 断る ″ って言った?


 「私のお願い、わかったんですか?」
 
 こういっちゃ卑怯かもしれませんけど、あなたの言う通り、私は誰にもヨシのこと話してませんよ?

  そりゃ、ライヴや飲み会でちっとばかり世話にはなったけど、それでは足らないくらいの秘密を私は抱えてしまったのですよ?

  それなら、ちょっとくらい、夢見させてくれても……


「俺を誘うなんて10年早いんだよ」


   って、


「だ、誰がですか?!!」

「緊張した声で、業務外に ″ やる気をくれ″ なんて電話してくるとか、誘ってるとしか思えないだろ?」


  そ、


「そんなんじゃやる気なんて出ませんっ」  


  アホか―――――

 失礼だとわかってはいても、あのヨシに一目会う価値と、39才のイケオジとただならぬ関係になる価値なんて、雲泥の差があるっつーの。


「あ、そ。何にしても断るわ。家に帰ってからもボンヤリ過ごすなよ、意識してアイデアを湧かせろよ」


  ブツっ――ーー!







  





 





















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