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タコ
しおりを挟む―――PM18:00
残業することもなく、月山さんとの待ち合わせ場所に向かっていると、
Ririririri♪
久しぶりに寧々から電話が……。
「Virtueの延期になってたアルバム、やっと発売日決まったねー♪」
「う、うん」
ファンを辞めたわけではないけど、もう会報も公式のブログも見てはいない。
というか、見れない。
ヨシをアーティストとして見ることなんてもう無理……。
「なのに、なんでそんなに声、沈んでるのよー? 私よりもヨシにハマってたくせに! プライベートで知り合いになるとアルバムなんてどうでもよくなるわけ?」
「……そうじゃないよ」
リア充の寧々と違い、ライヴが全てだった頃がもはや懐かしい。
「CMもめっちゃキレイやし、短期間だけど、干されてたのも何かしら意味があったと思うわー! あ、それより、また晶のウワサ聞いたんだけど!」
寧々の声を聞きながら、歩道橋の上から高層ビルの電子広告を見上げる。
「噂って……?」
タイミング良く、Kanedoのkシリーズ、白バージョンが流れていた。
今まで見たこともないくらいの、美しいヨシの顔のドアップ。足を止めて眺める女の子が沢山いた。
「あんたさー、ヨシのマンションに入って行かなかった? 張ってるバンギャが晶のこと見たって」
細くも、色濃く、凛とした眉、鼻筋を際立たせる、奥ばった瞳。
その憂いを含んだ流し目は、本当に″ 罪 ″ーー
「今度見かけたら、殺すって、また挙げられてたよーTwitterでさ!」
その目を見ていたら、あの夜の痛みを思い出してしまう。
「遅くなって悪い」
「いいえ」
待ち合わせ場所にやって来た月山さんは、厚手のコートを羽織っていた。
「相変わらず薄着だな、後藤は」
「まさか、こんな急に冬っぽくなるなんて思ってなくて」
「明日からはもっと冷えるって、コートとか出しておいた方がいいぞ。……こんな寒いは鍋食いたいな」
「あぁ、そうですね」
鍋……。
しゃぶしゃぶ。
また、ヨシとの事思い出しちゃった。
しかも、
「中華料理の店でしゃぶしゃぶが絶品のところがあるんだよ」
「……そうなんですか」
この方角、まさか……。
「個室も宴会場も駐車場もある人気の店なんだ、さっき予約しておいた」
着いたお店は、この間、ヨシと入った店だった。
「いらっしゃいませー♪」
別に店員も私なんか覚えてはいないはずだけど、なんだか気まずい。
「春巻きとか点心も頼んどくか」
しゃぶしゃぶのセットが来るまでお酒を軽く飲みながら、話は、私の異動のことになった。
「悪かったな、人事に関しても巻き込んでしまって」
「え」
「俺が、まだ本社の人間なら理不尽な異動も阻止出来たかもしれないのに……」
「月山さんとタコワカメ課長って、仲悪いんですか?」
職場ではないので、遠慮なく悪口を言わせて貰おう。
「タコワカメって……酢の物みたいに言うな、タコだけにしとけ」
月山さんはビールを吹き出しそうになりながら笑っていた。
「同期だからな、ライバル心は常に持っていたと思う。俺は営業や経理を管轄していたけど、奴は主に人事と庶務を管轄してる。役職こそ違うけどアイツはいつも俺と競いたがってた。仕事だけでなく社の行事やブライベートまで」
け。
タコなんて、はじめっから月山さんに相手にされてないじゃん。飲み会の時にやけに卑屈だったもんね。
元々器が、ふたり全然違うのよ。
それなのに、ヨシの不祥事や、出生の暴露のせいで、立場が逆転しちゃったんだ。
月山さんは悪くないのに。
「俺が撒いた種だから、今、こうなってるのも仕方ないと思ってる」
「東京には戻ってこれるんですか?」
「さぁ、でも、そんなことはもうどうでもいい。後藤のことが心配なんだ」
「え? 私?」
「お待たせしましたー、和牛しゃぶしゃぶセット二人前でーす」
店員により、テーブルに火がつけられる。
席の周りが、一気に暖かくなってきた。
「後藤には、まだいろんな可能性があるのに、タコの下で庶務の仕事をさせるのは勿体ないと思ってる。後藤、お前自身はこのままでいいのか?」
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