美獣と眠る

光月海愛(こうつきみあ)

文字の大きさ
125 / 172

過去形

しおりを挟む

 
 ……このままで……と言われても、

「私みたいなぺーぺーがどう足掻いたって、人事は覆らないし、与えられた仕事こなすしか出来ません。転職も生活があるから簡単にはいかないし……」

 加納が言うように、元々長けたものが無くて、燻っていたような社員だったから。

「なんだよ、俺が来て直ぐに、喧嘩腰に ″  短い間でしたけどお世話になりました!″ って言ってた後藤はどこに行った?」

「……はは」

 これをいいキッカケだと前向きに考える事も出来ない。

 葱や水菜も豪快に入れる月山さんを見ながら、こんな自分が少し恥ずかしくなった。


「ほら、若いんだからどんどん食え、ゴマしゃぶ美味いぞ」

 私の皿にばかり肉を入れていく。

「月山さんも食べてよ」

「俺は酒が飲めたら、あとは少しでいいんだよ」

「……」

 やっぱり、大人は、お酒が好きなんだな。

「俺、本当はな……」

「え?」
 お酒と野菜をたしなむ月山さんは、ゆっくりと私の目を見て話し出す。

「俺が左遷される身じゃなくて、もう少し若かったら、″ 一緒に九州に来てくれ ″ って言いたかった。会うギリギリまでそのつもりだった」

 私の欲しかった言葉を、過去形で話し出す。

  私の ″ 欲しかった″ も、さらに過去形だ。

 この前、ヨシに会うまでは月山さんから必要とされる言葉を待っていた。
 何も無かった振りをして、月山さんと再びセックスをする機会があったとして……。

 その時に、すでに処女じゃないことが分かったら、月山さんは絶対に相手をヨシと疑うはずだ。
 私は、やっばりいい加減な女だと思われてしまう。

 それがイヤで、不本意な行為だったと告げたなら、
二人の親子関係は、ますます壊れたものになってしまわないだろうか?


「だから、後藤がもしDTPオペレーターやデザイン企画の仕事に拘るのなら、こっちにいる間、東京でも、移ってから福岡にでもツテで探しておいてもいい。そう伝えたかった。規模はかなり小さくなるけどな……」

「規模なんて……」

 だけど、私の心配なんて無用で、月山さんは元上司として私の仕事の今後だけを考えてくれている。

「……庶務で、頑張れるか?」

 立場や年齢の負い目から、私を九州には連れて行ってはくれないようだ。

「庶務も立派な仕事ですから」

 じゃぁ、なんで、あの飲み会の夜、私を抱こうと思ったの?

 酒の力?
 とりあえず、やれそうだったから?
 それとも、ヨシよりも先に手をつけておきたかっただけ?

 わからない。
 好きとか、言ってくれないから、

 恋愛経験ゼロの私には、わからない。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

6年分の遠回り~いまなら好きって言えるかも~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
私の身体を揺らす彼を、下から見ていた。 まさかあの彼と、こんな関係になるなんて思いもしない。 今日は同期飲み会だった。 後輩のミスで行けたのは本当に最後。 飲み足りないという私に彼は付き合ってくれた。 彼とは入社当時、部署は違ったが同じ仕事に携わっていた。 きっとあの頃のわたしは、彼が好きだったんだと思う。 けれど仕事で負けたくないなんて私のちっぽけなプライドのせいで、その一線は越えられなかった。 でも、あれから変わった私なら……。 ****** 2021/05/29 公開 ****** 表紙 いもこは妹pixivID:11163077

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

こじらせ女子の恋愛事情

あさの紅茶
恋愛
過去の恋愛の失敗を未だに引きずるこじらせアラサー女子の私、仁科真知(26) そんな私のことをずっと好きだったと言う同期の宗田優くん(26) いやいや、宗田くんには私なんかより、若くて可愛い可憐ちゃん(女子力高め)の方がお似合いだよ。 なんて自らまたこじらせる残念な私。 「俺はずっと好きだけど?」 「仁科の返事を待ってるんだよね」 宗田くんのまっすぐな瞳に耐えきれなくて逃げ出してしまった。 これ以上こじらせたくないから、神様どうか私に勇気をください。 ******************* この作品は、他のサイトにも掲載しています。

処理中です...