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過去形
しおりを挟む……このままで……と言われても、
「私みたいなぺーぺーがどう足掻いたって、人事は覆らないし、与えられた仕事こなすしか出来ません。転職も生活があるから簡単にはいかないし……」
加納が言うように、元々長けたものが無くて、燻っていたような社員だったから。
「なんだよ、俺が来て直ぐに、喧嘩腰に ″ 短い間でしたけどお世話になりました!″ って言ってた後藤はどこに行った?」
「……はは」
これをいいキッカケだと前向きに考える事も出来ない。
葱や水菜も豪快に入れる月山さんを見ながら、こんな自分が少し恥ずかしくなった。
「ほら、若いんだからどんどん食え、ゴマしゃぶ美味いぞ」
私の皿にばかり肉を入れていく。
「月山さんも食べてよ」
「俺は酒が飲めたら、あとは少しでいいんだよ」
「……」
やっぱり、大人は、お酒が好きなんだな。
「俺、本当はな……」
「え?」
お酒と野菜をたしなむ月山さんは、ゆっくりと私の目を見て話し出す。
「俺が左遷される身じゃなくて、もう少し若かったら、″ 一緒に九州に来てくれ ″ って言いたかった。会うギリギリまでそのつもりだった」
私の欲しかった言葉を、過去形で話し出す。
私の ″ 欲しかった″ も、さらに過去形だ。
この前、ヨシに会うまでは月山さんから必要とされる言葉を待っていた。
何も無かった振りをして、月山さんと再びセックスをする機会があったとして……。
その時に、すでに処女じゃないことが分かったら、月山さんは絶対に相手をヨシと疑うはずだ。
私は、やっばりいい加減な女だと思われてしまう。
それがイヤで、不本意な行為だったと告げたなら、
二人の親子関係は、ますます壊れたものになってしまわないだろうか?
「だから、後藤がもしDTPオペレーターやデザイン企画の仕事に拘るのなら、こっちにいる間、東京でも、移ってから福岡にでもツテで探しておいてもいい。そう伝えたかった。規模はかなり小さくなるけどな……」
「規模なんて……」
だけど、私の心配なんて無用で、月山さんは元上司として私の仕事の今後だけを考えてくれている。
「……庶務で、頑張れるか?」
立場や年齢の負い目から、私を九州には連れて行ってはくれないようだ。
「庶務も立派な仕事ですから」
じゃぁ、なんで、あの飲み会の夜、私を抱こうと思ったの?
酒の力?
とりあえず、やれそうだったから?
それとも、ヨシよりも先に手をつけておきたかっただけ?
わからない。
好きとか、言ってくれないから、
恋愛経験ゼロの私には、わからない。
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