126 / 172
また、タコ
しおりを挟む何となく、シ……ンとしてしまった席の背後で、
「ワハハハ!」
と、男達の笑い声が響き渡る。
個室ではないので、いつの間にか埋まっていた、後ろの席の宴会の様子が丸見えだった。
スーツ姿の男たちのうち、一人が何気にこちらを振り返った。
「あれ?! 後藤さん!?」
げげっ!!
チャラいバーマの茶髪、ふざけた眼鏡、派手なスーツ。
「おや、月山さんまで?!」
大嫌いな加納だった。
「……な、なんでここに?」
鳥肌が立つ。こんな奴と業務時間以外に会いたくないのに。
月山さんも、少し困ったような顔をして、「お疲れ」と、会釈していた。
「俺は、本部の皆様とミーティングを兼ねた飲み会だよ!」
「お、月山じゃないか!」
スーツの塊の宴会。良く見たら、うちの本社のお偉方達だった。
うわー!
タコもいるー!
「なんと後藤まで! やっぱり二人デキてたのか!」
タコ課長と専務が、偉そうに手招きして月山さんを呼び寄せた。
「……あー、しかし、大事なミーティングを邪魔しては悪いので」
どうやら呼び寄せて、交じって飲めと言っているらしい。専務の隣でタコ課長が月山さんと私を忌々しそうに睨んでいる。
「福岡から離島に飛ばされたくないだろ?うちは広告代理店だが、下請けには色んな職種があるんだ、上司に楯突けば様々な職種を体験させられることになるんだぞ?」
完全な脅し。
課長もゲスだけど、専務もゲス。
本部って、月山さん以外、まともな人材居なかったのね。
「まあまあ専務!、月山さんのお陰で、この俺はゲーム会社から移って来れたんだし、しっかり踏み台になってくれた人材なんですから、楽しく今夜は飲みましょうよ! ね、ほら! 後藤さんも!」
″ 踏み台 ″……。
それ、本人の前で言うか?
加納の失礼な発言に、大人の月山さんは眉をひそめながらも、キレたりはしなかった。
調子に乗った一番のゲスが、グイッと私の腕を引っ張って、宴会の席に強引に混ぜようとしている。
「うちのマドンナ、課長、宜しくお願いしますね♪」
とことん嫌味な加納は、私を差し出すように課長の横に座らせようとした。
イヤだったけど、月山さんの離島行きは阻止したくて仕方なく腰を落とす。
「後藤……」
見かねた月山さんがそれを止めようとしたのが分かり、私は再び課長にビールを注いだ。
今度は、頭にではなく、ちゃんとコップにだ。
「来月から、……宜しくお願いします」
言った。
セクハラ男だけど、嫌味な男だけど、ちゃんと大人の挨拶をした。
こいつの下で仕事する以上、必要なことだった。
それなのに、
「は?」
このタコときたら、
「お前みたいな無能な女子社員、宜しくしたくねーよ」
「……!……」
専務達がいるにもかかわらず、子供みたいな返しをしてきた。
月山さんが固まる一方で、本部の人間達はウケて大爆笑している。
……屈辱だ。こいつ、なんなの?
「課長、そんなこと言わないでくださいよー、後藤さんも悪いところばっかりじゃないんですよ?」
加納も笑いを堪えて、フォローの形を取る。
「普段スッピンですけど、クライアントと会う時はメイクして、それなりになってるんで、わりかし気に入られるし、世間知らずの大胆さで男の心をくすぐるのは上手いし、使える場面はそれなりにありますよ」
それ、全然、いいところじゃないじゃん!
私と同じように感じたのか、加納にもビールを注がれた課長は、ペッ!と唾を吐く仕草をして見せて、
「若いだけが取り柄の女なんか、シュレッダー係かゴミ捨ての用務しかさせないし、そのうち冴えない男達に手ぇ出されて、退職する運命なんだよ」
行く前に、絶望させるようなことを言ってのけた。
「おいおい、酔ってるのかー?」
流石に本部のお偉方も課長の口を止めようとする。
だけど、けして酔ってはいないタコの暴言はまだ続いた。
「月山の女なら尚更だ。絶対にまともな業務は回さねーよ! 一日中シュレッダーとお見合いしてろ」
なに、こいつ。
とうとう月山さんが、立ち上がる。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
23
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる