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コント?
しおりを挟むタコ課長の前に立ちはだかった月山さんの顔が、めっちゃ怖かった。
「な、なんだよっ!? 別に俺は規則に反したことはするつもりはないぞっ!? 能力に見合った仕事しかさせないって言ってるんだ!」
綺麗な顔だけに、怒ったら冷淡に見える。
課長だけじゃなく、一度、殴られたことのある加納もビビってる。
……お願い、月山さん、こんな最低な奴のために、手を汚したりしないでーー
「無能なのか、有能なのか、ちゃんとまともに仕事回してから判断したらどうだ?」
月山さんは、手を上げないかわり、ごもっともな事を言う。
「は、はぁ?! なに偉そうな事言ってるんだよ?? 過去の女癖のせいで自滅していく顔だけの男がよっ! そうだ!! お前が一番無能なんだよっ!そんな奴の指図なんか絶対に聞かねぇ!」
負けじと課長が声を張り上げるものだから、店の店員も、他の客もシンとして、こちらを注目していた。
もう、酒の場の笑い話じゃすまない雰囲気。
照明は点いているのに、この宴会の席だけ暗くなったような気がした。
「指図じゃない、元部下のことを同期のお前に頼んでるんだよ。普通のことだろ?」
見下ろす月山さんの目が、本気だった。
「頼んでる? は? つったったままか? お願いするときは、頭下げるのが普通だろ?」
それなのに、タコはまだ悪態をつき続ける。本当に最低。だから、こいつ、いつまでも庶務の課長止まりなのよ。本部の人間も、なんでこんな奴に役職付けてるのよ?
これ以上我慢できなくて、立ち上がって月山さんの腕をとった。
「月山さん、あの、もういいですから……私、そろそろおいとましま……」
なのに、月山さんは、言われた通り、深々と頭を下げてしまった。
その瞬間フワリ、と良い匂いがした。
こんな状況なのに、うっとりする私がいる。
ヨシに受け継がれた、しなかやで艶のある黒髪が、課長の前でサラリと揺れて、
「…あ、…頭を下げるってのはなぁ、そういうことじゃないんだよ?!」
それがハゲ課長のカンに触ったのか、ますます調子付いてきた。
「土下座!! それが会社の人間の姿だろぉがっ! 無能な社員を使って欲しかったら、それくらいやれっ!!」
「は??」
頭、おかしいんじゃないの!? 思わず大きな声が出た。
さすがの月山さんも、頭をあげて顔を歪ませる。
「お、おい、もうやめとけって」
ざわつくお偉方と店内。加納はそれを楽しそうに見ていた。
「……分かった。だけど、土下座したら理不尽な業務分配や命令はやめてくれ。ここにいる本部の人間全員が証人だ」
「月山さん! ほんとにもうっ……」
屈辱的なはずなのに、それでも、月山さんが言われるまま床に膝を落としたその時だった。
「なんだ? こんな大衆の店で人情コントでもやってるのかよ?」
別の低い美声が響き渡った。
「……ヨシ?」
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