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第三章 紫都と恋の風
えぐられる
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韓国語はさっぱりだけど、中国語と英語なら少しは聞き取れる。
「 ー京的ー菜是更第一流 ( 東京の料理はもっと一流だった)」
どんなに ″ 体験型 ″ のツアーを好む富裕層が増えてきたとはいえ、彼等は、″ 優遇″ されることに慣れている。
地方のお手頃ホテルの食事は、物足りないはず だ。
「冷ー食品也使用着ー( 冷凍食品でも使ってるのか)?」
見ていて、従業員の方が気の毒になった。
確かに豪華ではないし、メニューもイマイチだけど、この料理は値段なり、なのだから。
いくらで客を募ったのかは知らないけれど、悪いのはATB南京支店の企画だと思う。
「あ!おいっ俺の親父に何すんだ?」
木下さんの息子の声がした。
見ると、マイペースなお父様に苛ついた中国の方が、列に強引に割り込んでいた。
私は、駆け寄って順番を守るようにお願いをした。
「 与其他一?的那??排? ( 他の方と同じように列に並んでください) 」
すると、木下さんに一言謝り、後ろに並び直してくれた。
中国人は、メンツを守る性格の方が多いだけに、他と違うことを言い示すと、すんなり受け入れて貰えることが多いのだ。
やれやれ。
今日はいつもに増して神経を使う。
南條さんや赤石さん、そして三宅くんの席は何事もなく食べているだろうか?
離れた所から見守っていると、
「おい」
背後から、低く、怒った声が聞こえてきた。
「はい?」
振り返ると、ムスッとした岡田が立っていた。
「……どうしたんですか? こちらで夕食を?」
くつろいでいたんだろう、今日もスウェットにティシャツという部屋着姿だ。
「どうした? じゃない、お前がその年になっても独身な理由が分かったよ」
「は?」
何なのよ、いきなり。失礼な男……と思ったら、
「あっ」
岡田が手にしていたシャツを見て、乾燥機に入れっぱなしだった事を思い出した。
「どのくらいかけてたんだ? しわっしわっじゃないか」
言葉の通り、制服が悲惨な状態になっていた。
「ご、ごめんなさい!」
しまった。
つい、いつもの感じで時間を設定してしまった。
ここ、アイロンの貸し出しあったかな?
「それ、貸してください。帰ったらアイロンかけます! もしくはクリーニングに……」
「もういい。それじゃ、このツアー終わってからもあんたに会わなきゃいけないだろ? 」
岡田の冷たい顔よりも、その言い方に傷ついた。
そして。
何より、傷ついた自分に驚いた。
何で、こんなに、胸がえぐられたみたいになってるの?
まるで、失恋したみたい。
「じゃあな、今日は客を部屋に入れるなよ」
鼻でため息をついた岡田が、宴会場から出ていこうとした時だった。
「お。岡田じゃないか?」
その背中を、一人の男性が呼び止めた。
ゆっくりと振り返った岡田が、とても嫌そうな顔をしているのが印象的だった。
「お前、こんなところで何してるんだ?」
胸にぶら下げているネームプレートを見て、呼び止めたのが、【ATB南京支店】の添乗員だとわかった。
「 ー京的ー菜是更第一流 ( 東京の料理はもっと一流だった)」
どんなに ″ 体験型 ″ のツアーを好む富裕層が増えてきたとはいえ、彼等は、″ 優遇″ されることに慣れている。
地方のお手頃ホテルの食事は、物足りないはず だ。
「冷ー食品也使用着ー( 冷凍食品でも使ってるのか)?」
見ていて、従業員の方が気の毒になった。
確かに豪華ではないし、メニューもイマイチだけど、この料理は値段なり、なのだから。
いくらで客を募ったのかは知らないけれど、悪いのはATB南京支店の企画だと思う。
「あ!おいっ俺の親父に何すんだ?」
木下さんの息子の声がした。
見ると、マイペースなお父様に苛ついた中国の方が、列に強引に割り込んでいた。
私は、駆け寄って順番を守るようにお願いをした。
「 与其他一?的那??排? ( 他の方と同じように列に並んでください) 」
すると、木下さんに一言謝り、後ろに並び直してくれた。
中国人は、メンツを守る性格の方が多いだけに、他と違うことを言い示すと、すんなり受け入れて貰えることが多いのだ。
やれやれ。
今日はいつもに増して神経を使う。
南條さんや赤石さん、そして三宅くんの席は何事もなく食べているだろうか?
離れた所から見守っていると、
「おい」
背後から、低く、怒った声が聞こえてきた。
「はい?」
振り返ると、ムスッとした岡田が立っていた。
「……どうしたんですか? こちらで夕食を?」
くつろいでいたんだろう、今日もスウェットにティシャツという部屋着姿だ。
「どうした? じゃない、お前がその年になっても独身な理由が分かったよ」
「は?」
何なのよ、いきなり。失礼な男……と思ったら、
「あっ」
岡田が手にしていたシャツを見て、乾燥機に入れっぱなしだった事を思い出した。
「どのくらいかけてたんだ? しわっしわっじゃないか」
言葉の通り、制服が悲惨な状態になっていた。
「ご、ごめんなさい!」
しまった。
つい、いつもの感じで時間を設定してしまった。
ここ、アイロンの貸し出しあったかな?
「それ、貸してください。帰ったらアイロンかけます! もしくはクリーニングに……」
「もういい。それじゃ、このツアー終わってからもあんたに会わなきゃいけないだろ? 」
岡田の冷たい顔よりも、その言い方に傷ついた。
そして。
何より、傷ついた自分に驚いた。
何で、こんなに、胸がえぐられたみたいになってるの?
まるで、失恋したみたい。
「じゃあな、今日は客を部屋に入れるなよ」
鼻でため息をついた岡田が、宴会場から出ていこうとした時だった。
「お。岡田じゃないか?」
その背中を、一人の男性が呼び止めた。
ゆっくりと振り返った岡田が、とても嫌そうな顔をしているのが印象的だった。
「お前、こんなところで何してるんだ?」
胸にぶら下げているネームプレートを見て、呼び止めたのが、【ATB南京支店】の添乗員だとわかった。
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