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バイバイ、りっちゃん 3
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席に戻ったら課長にスーツケースのこともスカーフのこともあれこれ聞かれるかもと覚悟していたけれど、意外にもスルーだった。
ホッと胸を撫で下ろしていると、社長や他の役員達が出社して来て、一気に課の空気が引き締まった。
昨日とは別人のように、黒いワンピースにジャケットを合わせた姿の社長は、社長室に入るとすぐに、
「天澤課長、ちょっと」
と言って課長と二人で社長室に消えた。
ドアが完全に閉じる前、隙間から課長がタレ目の端に線を引きながら私に視線を投げたように見えたのは、気のせいじゃないと思う。
さも「早く俺のこと誘惑しないと目の前でイチャイチャするぞ」と心の中で言ってそうな目。
噂の二人が、密室で二人きり…。
いやいや、もう気にしないって決めたんだ。
生活かかってるし。
後でちゃんと課長に話そう。
律のことも、社長と課長のことも考えたくなくて、私はひたすらメールのチェックと返信に没頭した。
メールの返信作業に没頭していても聞こえて来る。
超絶楽しそうな社長の笑い声。
女子高生が恋バナしてる時のテンションだよ、これ。
扉の向こうからピンク色のオーラが漏れ出て来て、もうじきお花の香りまで漂ってきそう。
たまに課長の低音がボソボソと響いて、また社長がキャッキャ言う、の繰り返しがしばらく続いた後、何となく気恥ずかしそうな顔で課長が出てきた。
「真田さん」
課長が声を掛けて来たけど、集中しているフリして一回無視してみる。
「アオ」
「へ?ーーーあぁっ!?」
突然名前を呼び捨てにされてビックリしたせいで、作成途中のメールを間違って送信してしまった。
「ちょ、課長!何ですか!!いきなり!!」
「ちゃんと聞こえてるじゃん。今日から俺と一緒に社長に付いてね」
うわぁ。
予想はしてたけど、一番キツいパターン。
出来れば遠慮させてもらいたい。
「顔に全部出てるよ」
「すみません」
「今日遅くなるから、家に連絡入れといて」
「…」
間違いない…。
「課長、昨日…見てたんですか?」
「見てないよ。真田さんが、仕事帰りにすっごい綺麗な男に怒られながら車に乗って行ったところなんて」
ニコニコと笑いながらとんでもない爆弾をみんなの前で落としてくれた。
「えぇっ!?真田さん、そんな綺麗な彼がいるの!?」
さっき社長と課長が密室でキャアキャア言ってた時は完全スルーだった御三方が、激しく喰いついて来て、その勢いに押される。
「誤解です。あの人はただのー」
事情を知らない周りの人達と、こんなやり取りは昔から何度となくやってきた。
でも、この時の私は律のことを
「ただの同居人」
と詰まらずに言える程、昨日のことと、今朝知った事実を吹っ切れてなかった。
浅く息を吸って、今しがた支えて上手く言えなかった言葉を絞り出した後、誤送信してしまったメールを打ち直す作業に無言で取り掛かると、有難いことにそれ以上の追求は受けなかった。
ホッと胸を撫で下ろしていると、社長や他の役員達が出社して来て、一気に課の空気が引き締まった。
昨日とは別人のように、黒いワンピースにジャケットを合わせた姿の社長は、社長室に入るとすぐに、
「天澤課長、ちょっと」
と言って課長と二人で社長室に消えた。
ドアが完全に閉じる前、隙間から課長がタレ目の端に線を引きながら私に視線を投げたように見えたのは、気のせいじゃないと思う。
さも「早く俺のこと誘惑しないと目の前でイチャイチャするぞ」と心の中で言ってそうな目。
噂の二人が、密室で二人きり…。
いやいや、もう気にしないって決めたんだ。
生活かかってるし。
後でちゃんと課長に話そう。
律のことも、社長と課長のことも考えたくなくて、私はひたすらメールのチェックと返信に没頭した。
メールの返信作業に没頭していても聞こえて来る。
超絶楽しそうな社長の笑い声。
女子高生が恋バナしてる時のテンションだよ、これ。
扉の向こうからピンク色のオーラが漏れ出て来て、もうじきお花の香りまで漂ってきそう。
たまに課長の低音がボソボソと響いて、また社長がキャッキャ言う、の繰り返しがしばらく続いた後、何となく気恥ずかしそうな顔で課長が出てきた。
「真田さん」
課長が声を掛けて来たけど、集中しているフリして一回無視してみる。
「アオ」
「へ?ーーーあぁっ!?」
突然名前を呼び捨てにされてビックリしたせいで、作成途中のメールを間違って送信してしまった。
「ちょ、課長!何ですか!!いきなり!!」
「ちゃんと聞こえてるじゃん。今日から俺と一緒に社長に付いてね」
うわぁ。
予想はしてたけど、一番キツいパターン。
出来れば遠慮させてもらいたい。
「顔に全部出てるよ」
「すみません」
「今日遅くなるから、家に連絡入れといて」
「…」
間違いない…。
「課長、昨日…見てたんですか?」
「見てないよ。真田さんが、仕事帰りにすっごい綺麗な男に怒られながら車に乗って行ったところなんて」
ニコニコと笑いながらとんでもない爆弾をみんなの前で落としてくれた。
「えぇっ!?真田さん、そんな綺麗な彼がいるの!?」
さっき社長と課長が密室でキャアキャア言ってた時は完全スルーだった御三方が、激しく喰いついて来て、その勢いに押される。
「誤解です。あの人はただのー」
事情を知らない周りの人達と、こんなやり取りは昔から何度となくやってきた。
でも、この時の私は律のことを
「ただの同居人」
と詰まらずに言える程、昨日のことと、今朝知った事実を吹っ切れてなかった。
浅く息を吸って、今しがた支えて上手く言えなかった言葉を絞り出した後、誤送信してしまったメールを打ち直す作業に無言で取り掛かると、有難いことにそれ以上の追求は受けなかった。
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