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社長と初デート 6
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私に歩調を合わせつつも、迷いのない足取りで進んでいた唯人の足が止まった。
「え…?ここ??」
「そう、今日の目的地はここ。来たことある?」
「ハ◯ズには来たことありますけど、このコーナーは初めてです」
つい目を輝かせて辺りを見回してしまう。
だってここは、キッチングッズコーナー。
深夜のテレビショッピングで見かける便利グッズから本格的な調理器具までが綺麗にディスプレイされているのだ。
料理が楽しくなって来た私には、光り輝く場所に見える。
しかも家にある調理器具はどれも古く、母が使っていたものだったので、ちょうど色々買い揃えたいと思っていたところだったのだ。
「気に入った?」
いつの間にか繋いでいた手を離し、商品に魅入っていた私の後ろから、唯人が声を掛けてきた。
ニヤけるのを抑えられないまま振り返り、こくこくと頷く。
「さっき中野さんから葵が料理にハマってるって聞いて。意外だったけど」
「…最後の一言、余計じゃないですか?」
「ハハハ、ごめん。あ、それ、こっちの方が使いやすいよ」
唯人は、私が手にしていたのとは別のピーラーを手渡して来た。
「…もしかして、料理するんですか?」
「うん。だから今日は何か一緒に作ろうと思って」
ハ◯ズでの調理器具選びはすごく楽しかった。
結構長時間見て回ったのに、唯人は嫌な顔をするどころか、ピーラーの時と同様、色々アドバイスしながら付き合ったくれた。
お陰で気になっていたものからそうでないものまで、ほぼ一式リニューアルできた。
今すぐ使ってみたくてウズウズする。
その気持ちが顔に出ていたのか、百貨店内のカフェで軽めのランチを食べていると、食材を買ってそのまま唯人の家に行くことになった。
前回唯人の家に行った時は、まだ料理に目覚めていなかったからどんなキッチンだったか全然記憶に残っていない。
確か、マンション自体まだ新しかったはず。
どんなキッチンだろう?とウキウキしながら唯人のマンションの近くのスーパーで一緒に食材を選んだ。
そして、遂に唯人の家の玄関、というところで一月前に味わった「とんでもないところに来てしまった」感が急に蘇って足が止まった。
なぜ気づかなかった、私?
このまま部屋に入ったら、唯人の家に二人きり。
「…どうかした?」
鍵を開けながら唯人が振り返る。
その左手は私の調理器具と食材とで塞がっていた。
ここまで来て「やっぱり帰る」とはとても言えない。
「…いえ、何でもありません」
「そう?じゃ、どうぞ」
扉を開けた唯人の笑みが、ギクリとするほど妖艶だった。
私が室内に入ってすぐに唯人がこちらを向いたので、思わずドアに張り付いた。
単に施錠しただけなのに。
「そんなに意識しなくても何もしないから安心して?」
唯人はスッと身を引いて笑った。
…何やってるんだろう。恥ずかしい。これじゃまるで何かを期待しているみたいだ。
できるだけ意識しないように、努めて冷静に振る舞おうとしていると、唯人は今日買ったものの入った袋の中から見慣れない包みを寄越してきた。
「…これ?」
「そ。エプロン。昨日中野さんと夜中まで一緒に選んでくれた服、汚さないように」
美和め。あの短時間でそんなことまで話したのか。
今更だけど、気合いを入れて来たみたいで、また恥ずかしさが込み上げる。
でも、いちいち否定するとムキになっていると思われそうだったので、俯きながらお礼を言って受け取ろうと手を伸ばした。
ところが、包みを受け取ったはずが、掴んだ包みごと唯人の方に引き寄せられた。
「そのワンピース、今すぐ脱がせたいくらいよく似合ってる」
耳元で囁かれて背中にゾクッと痺れが走る。
「…ちょっ!!」
慌てて体を押し返す。
「意味分かんないんですけど!意識しなくてもいいって言ったくせに!!」
「あ、そうだった。つい」
唯人は両手を挙げて無実を主張する痴漢みたいなポーズをとった。
ほんとに一体何なのか。
ただ一つだけ分かっているのは、自分が昨夜から、すっかり唯人のペースに巻き込まれているということだけだった。
「え…?ここ??」
「そう、今日の目的地はここ。来たことある?」
「ハ◯ズには来たことありますけど、このコーナーは初めてです」
つい目を輝かせて辺りを見回してしまう。
だってここは、キッチングッズコーナー。
深夜のテレビショッピングで見かける便利グッズから本格的な調理器具までが綺麗にディスプレイされているのだ。
料理が楽しくなって来た私には、光り輝く場所に見える。
しかも家にある調理器具はどれも古く、母が使っていたものだったので、ちょうど色々買い揃えたいと思っていたところだったのだ。
「気に入った?」
いつの間にか繋いでいた手を離し、商品に魅入っていた私の後ろから、唯人が声を掛けてきた。
ニヤけるのを抑えられないまま振り返り、こくこくと頷く。
「さっき中野さんから葵が料理にハマってるって聞いて。意外だったけど」
「…最後の一言、余計じゃないですか?」
「ハハハ、ごめん。あ、それ、こっちの方が使いやすいよ」
唯人は、私が手にしていたのとは別のピーラーを手渡して来た。
「…もしかして、料理するんですか?」
「うん。だから今日は何か一緒に作ろうと思って」
ハ◯ズでの調理器具選びはすごく楽しかった。
結構長時間見て回ったのに、唯人は嫌な顔をするどころか、ピーラーの時と同様、色々アドバイスしながら付き合ったくれた。
お陰で気になっていたものからそうでないものまで、ほぼ一式リニューアルできた。
今すぐ使ってみたくてウズウズする。
その気持ちが顔に出ていたのか、百貨店内のカフェで軽めのランチを食べていると、食材を買ってそのまま唯人の家に行くことになった。
前回唯人の家に行った時は、まだ料理に目覚めていなかったからどんなキッチンだったか全然記憶に残っていない。
確か、マンション自体まだ新しかったはず。
どんなキッチンだろう?とウキウキしながら唯人のマンションの近くのスーパーで一緒に食材を選んだ。
そして、遂に唯人の家の玄関、というところで一月前に味わった「とんでもないところに来てしまった」感が急に蘇って足が止まった。
なぜ気づかなかった、私?
このまま部屋に入ったら、唯人の家に二人きり。
「…どうかした?」
鍵を開けながら唯人が振り返る。
その左手は私の調理器具と食材とで塞がっていた。
ここまで来て「やっぱり帰る」とはとても言えない。
「…いえ、何でもありません」
「そう?じゃ、どうぞ」
扉を開けた唯人の笑みが、ギクリとするほど妖艶だった。
私が室内に入ってすぐに唯人がこちらを向いたので、思わずドアに張り付いた。
単に施錠しただけなのに。
「そんなに意識しなくても何もしないから安心して?」
唯人はスッと身を引いて笑った。
…何やってるんだろう。恥ずかしい。これじゃまるで何かを期待しているみたいだ。
できるだけ意識しないように、努めて冷静に振る舞おうとしていると、唯人は今日買ったものの入った袋の中から見慣れない包みを寄越してきた。
「…これ?」
「そ。エプロン。昨日中野さんと夜中まで一緒に選んでくれた服、汚さないように」
美和め。あの短時間でそんなことまで話したのか。
今更だけど、気合いを入れて来たみたいで、また恥ずかしさが込み上げる。
でも、いちいち否定するとムキになっていると思われそうだったので、俯きながらお礼を言って受け取ろうと手を伸ばした。
ところが、包みを受け取ったはずが、掴んだ包みごと唯人の方に引き寄せられた。
「そのワンピース、今すぐ脱がせたいくらいよく似合ってる」
耳元で囁かれて背中にゾクッと痺れが走る。
「…ちょっ!!」
慌てて体を押し返す。
「意味分かんないんですけど!意識しなくてもいいって言ったくせに!!」
「あ、そうだった。つい」
唯人は両手を挙げて無実を主張する痴漢みたいなポーズをとった。
ほんとに一体何なのか。
ただ一つだけ分かっているのは、自分が昨夜から、すっかり唯人のペースに巻き込まれているということだけだった。
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