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奇襲

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そうだ。
そうだった。

どうして忘れていられたんだろう。

私が高校時代いじめられたのは、うちのお母さんと高嶺くんのお父さんがそういう・・・・関係だったことだったことがきっかけの一つだったのに。

直接確かめた訳じゃない。
でも、母が突然「もうこの町にはいたくない」と言い出し、母子二人だけで逃げるように引っ越した先で、母が泣きながら寝言で呟いた言葉は『高嶺さん…』だった。

森永さんの話が本当なら、高嶺くんは何で私なんかと付き合ってるの?
本当に私の事が好きなの??

急に足元がグラつき始める。
座っていても気持ちが悪い。

「そんなの…高嶺サンももういい年だし、親とか関係なくないですか?どっからどう見てもあの人、静花さんのことめちゃくちゃ好きそうでしたけど」

それまで黙って聞いていた東海林くんが見かねて助け舟を出してくれた。
少しだけ、呼吸が楽になる。
でも、それはほんの束の間。
火に油を注いでしまったらしい。

「そんなことあるはずない!!」

森永さんが立ち上がって叫んだ。

「あの母親の娘なのよ?景だって体目当てに決まってる!!」

今度は瑞希が立ち上がって、鬼の首を取ったように反論した。

「お生憎様!うちの静花はついこの間までキスもしたこともないほどウブだったのよ?それがどうやってあんな、いかにも経験豊富そうな男を体で落とすっていうのよ?」

まずい話の流れだ。
そう気付いたときには、森永さんはお腹を抱えて笑い始めていた。

「何がおかしいのよ?」

「だって!『ウブ』って。こんな、高校のころからビッチって噂のあった女を…アハハハッ!!」

ああ、やっぱり。
森永さんも『あの噂』を知っていたんだ。
高嶺くんの言っていたとおり、本当にそんな噂が流れていたんだ。

どうしよう。
まだ『噂』であって、真実ではないけれど。
森永さんが、当時の私と高嶺くんの関係に気付いていたら─

「は!?そんなの噂でしょ!いい加減黙デタラメ言うの止めなさいよ!!名誉毀損で訴えるわよ!!」

「み、瑞希、もういいから…」

辛うじて絞り出した言葉は、ヒートアップした瑞希の声に掻き消されてしまった。

「良くないわよ!静花も好き勝手言わせてないで、ちゃんと否定しなさいよ!!」

さっきまで高笑いをしていた森永さんの顔から、フッと笑みが消えた。
鬼気迫るという言葉そのものの表情に、彼女が何を言おうとしているかすぐに分かった。

でも、私にはどうすることもできなかった。

「否定できるわけないわよね?景とだって、学校でもシてたの、私知ってるんだから」
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