運命の落とし穴

恩田璃星

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深まる落とし穴8

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 足立さんが、コーヒーを啜りながらしみじみ語り始めた。

 「お前のこういうところ、本当に重宝してんだよな。仕事早いし、正確だし、俺のシゴキに泣き言一つ言わずに付いてくるし。なんつーか、呼吸いきが合うっていうか、空気読んでくれるっていうか」

 え?

 これ、まさかいつも鬼みたいな足立さんが私を褒めてる?

 勘違いとは思うけど、なんとも居心地が悪くて背中がゾワゾワする。

 「今回のプロジェクト、榎本部長の話だと相当規模もデカいらしいし?なんせ一課との共同案件だし??俺、常盤が補佐に就くって聞いたから二つ返事で受けたんだけどー」

 けど?

 けど、何!?

 「今回は辞退する」

 「え、ええっ!?本気ですか!?」

 「本気も本気、大マジ。俺、お前とじゃないとこのプロジェクト乗り切れる気ぃしないし」

 そんなまさか…!

 私が補佐に就かないってだけでこんなことになるなんて。

 「ま、ま、ま、待ってください!私より遥かに経験豊富な両角さんのほうが適任じゃないですか!?」

 「…両角女史はダメだ」

 「何でですか?」

 「…一課と二課の確執を作った張本人だからだ」

 「それってどういう…!?」

 極秘だぞ、と釘を刺された上で聞かされたのは、私が入社するずっと昔の、両角さんと一課の営業マンとそのメイン補佐のドロドロぐちゃぐちゃの三角関係話。

   しかも全員現役で働いてるそうな。

 「それは…絶対無理ですね」

 青い顔をした私の相槌を聞くと、足立さんの目が光った。

 「だろ?だから、今回のプロジェクトは常盤が補佐に就かない限り、俺には無理なわけ。でも、いくら見合い結婚とはいえ、手塩にかけて育てた可愛い可愛い後輩の人生の門出を、邪魔するわけにはいかないもんな?」

 ぽん、と軽く肩に置かれたはずの足立さんの手が、信じられないほど重く感じる。

 「例えこのプロジェクトの成功が俺の昇進に関わってるとしても、な。な?」

 もう一度肩に置かれた手の重みが、倍増した。

 ああ、やっぱり私には断るなんて無理だった。

 「や…やらせていただきます」

 「常盤なら絶対そう言ってくれると思った」

 足立さんは悪びれもせずに、白い歯を見せて笑った。
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