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「本っ当―に今から矢吹さんと外回りに行くんですか?」
「しつこいな。仕事なんだから仕方ないでしょ?」
放心状態の矢吹を残し、羽立くんと宮本くんを見送りに行く途中のエレベーターには不穏な空気が漂っている。
「…俺としてはあの場で辞表叩きつけて欲しかったぐらいですけど」
「そんな無責任なことできません!」
このまま私がシノノメとのアポをすっぽかすだけでなく、いきなり会社を辞めたりしたら…。
怖い。
怖すぎる。
明日の朝、荒れまくる足立さんを想像して胃がキュッとなった。
「本来の提案額で羽立コンサルティングと契約が取れてたら、それもできたかもしれないけど。売り上げ的に良い置き土産になるだろうし」
「どうせ俺のところに永久就職決まってるんだから、この会社がどうなったって別に関係ないじゃないですか」
「え」
心のどこかでいつも思っていた。
偽物の関係は、いつか終わりが来る。
だからこそ、羽立くんにとっては何気なく言ったであろう「永久」という言葉に、涙が出そうなほど心を揺さぶられる。
「奏音さん?」
俯いて必死に涙を堪えていると、羽立くんが私の肩を引き寄せた。
「どうしました?」
私の顔を覗き込む羽立くんの口元は、少し…いや、かなり意地悪く弧を描いている。
前言撤回。
全然何気なくなんてない。
この男、完全に私の反応を楽しんでる。
「…何でもない」
プイッと顔を背けると、わしゃわしゃと頭を撫でられた。
二人してほとんど存在を忘れかけていた宮本くんが、自分の存在をアピールするかのように咳払いをした。
「何だよ、邪魔すんなよ、晃」
宮本くん、今度は深いため息を吐いている。
「…言っとくけど、アレ、あの親子だけに言ったんじゃないからな」
「「…アレ?」」
羽立くんと私は同時に問いかけ、顔を見合わせた。
「『側から見てりゃすぐ分かることなのに、なんで当人同士は分かんないんだろうな』ってヤツ」
「あー、そんなこと言ってたな。で、誰のこと…」
「お前たちだよ!!」
宮本くんが、ややかぶせ気味に鋭くツッコミを入れる。
「常盤奏音はともかく、昴、お前、自分が常盤奏音の前だと完全にキャラ崩壊してるの、自覚してないのか?」
キャラ崩壊だなんて大袈裟な。
羽立くんは今も昔もずっとこんな感じなのに。
羽立くんも心外そうに顔を顰めている。
「…俺の知ってる昴は、誰にも本気にならないし、フラれた相手にもう一回結婚を申し込むなんてあり得ない」
「そう…かもしれないけど…」
「それに、ちょっと家からいなくなったからって、血相変えて家の周り探し回るなんて絶対しない」
そう言えば、同居開始してすぐ、そんなこともあったな。
「余計なこと言うなよ」と、ちょっと恥ずかしそうな羽立くんは、捜索先の宮本くん宅のバスルームに私が隠れていたことを知らない。
その時に、私のことを好きだなんてありえないと羽立くんが言ったのをはっきりと思い出し、少しだけ胸を痛めていると、宮本くんと目が合った。
「あの時も散々言ったけど、お前は自分はゲイだっていう分厚いレッテルを自分自身で貼ってたせいで認められなかったただけで、常盤奏音と再会したときから…いや、多分、それよりもずっと昔から常盤奏音のこと好きだったんだよ」
お前が聞き逃していたのはここだと、宮本くんがアイコンタクトを送ってくる。
再会したときから?
それよりずっと昔から??
私は一人密かに嬉しさと気恥ずかしさでパニックになっていた。
「それなのに、俺含め何人もの幼気な男たちをこっちの道に引き摺り込みやがって…」
「本っ当―に今から矢吹さんと外回りに行くんですか?」
「しつこいな。仕事なんだから仕方ないでしょ?」
放心状態の矢吹を残し、羽立くんと宮本くんを見送りに行く途中のエレベーターには不穏な空気が漂っている。
「…俺としてはあの場で辞表叩きつけて欲しかったぐらいですけど」
「そんな無責任なことできません!」
このまま私がシノノメとのアポをすっぽかすだけでなく、いきなり会社を辞めたりしたら…。
怖い。
怖すぎる。
明日の朝、荒れまくる足立さんを想像して胃がキュッとなった。
「本来の提案額で羽立コンサルティングと契約が取れてたら、それもできたかもしれないけど。売り上げ的に良い置き土産になるだろうし」
「どうせ俺のところに永久就職決まってるんだから、この会社がどうなったって別に関係ないじゃないですか」
「え」
心のどこかでいつも思っていた。
偽物の関係は、いつか終わりが来る。
だからこそ、羽立くんにとっては何気なく言ったであろう「永久」という言葉に、涙が出そうなほど心を揺さぶられる。
「奏音さん?」
俯いて必死に涙を堪えていると、羽立くんが私の肩を引き寄せた。
「どうしました?」
私の顔を覗き込む羽立くんの口元は、少し…いや、かなり意地悪く弧を描いている。
前言撤回。
全然何気なくなんてない。
この男、完全に私の反応を楽しんでる。
「…何でもない」
プイッと顔を背けると、わしゃわしゃと頭を撫でられた。
二人してほとんど存在を忘れかけていた宮本くんが、自分の存在をアピールするかのように咳払いをした。
「何だよ、邪魔すんなよ、晃」
宮本くん、今度は深いため息を吐いている。
「…言っとくけど、アレ、あの親子だけに言ったんじゃないからな」
「「…アレ?」」
羽立くんと私は同時に問いかけ、顔を見合わせた。
「『側から見てりゃすぐ分かることなのに、なんで当人同士は分かんないんだろうな』ってヤツ」
「あー、そんなこと言ってたな。で、誰のこと…」
「お前たちだよ!!」
宮本くんが、ややかぶせ気味に鋭くツッコミを入れる。
「常盤奏音はともかく、昴、お前、自分が常盤奏音の前だと完全にキャラ崩壊してるの、自覚してないのか?」
キャラ崩壊だなんて大袈裟な。
羽立くんは今も昔もずっとこんな感じなのに。
羽立くんも心外そうに顔を顰めている。
「…俺の知ってる昴は、誰にも本気にならないし、フラれた相手にもう一回結婚を申し込むなんてあり得ない」
「そう…かもしれないけど…」
「それに、ちょっと家からいなくなったからって、血相変えて家の周り探し回るなんて絶対しない」
そう言えば、同居開始してすぐ、そんなこともあったな。
「余計なこと言うなよ」と、ちょっと恥ずかしそうな羽立くんは、捜索先の宮本くん宅のバスルームに私が隠れていたことを知らない。
その時に、私のことを好きだなんてありえないと羽立くんが言ったのをはっきりと思い出し、少しだけ胸を痛めていると、宮本くんと目が合った。
「あの時も散々言ったけど、お前は自分はゲイだっていう分厚いレッテルを自分自身で貼ってたせいで認められなかったただけで、常盤奏音と再会したときから…いや、多分、それよりもずっと昔から常盤奏音のこと好きだったんだよ」
お前が聞き逃していたのはここだと、宮本くんがアイコンタクトを送ってくる。
再会したときから?
それよりずっと昔から??
私は一人密かに嬉しさと気恥ずかしさでパニックになっていた。
「それなのに、俺含め何人もの幼気な男たちをこっちの道に引き摺り込みやがって…」
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