悪役令嬢はお断りです

あみにあ

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最終章

黒の教団 (其の四)

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毒が抜けたといってもすぐに元通りの生活とはいかない。
数週間は王都の病室で安静にする毎日。
だけどベッドで寝ているだけでは、体も脳もなまってしまう。
ノア王子の護衛騎士からは外されたが、まだ彼やトレイシーのために出来ることはある。
私はこの機会を利用して、小説の世界と現状を改めてまとめてみることにした。

過去に書いたメモを見直しながら、起こった事実を年表のように並べて書き記す。
思い出せるもの全て。
その結果わかったのは、小説で書かれた事件は起こるのだという事実。
そして結末は変わらない。

私やピーター、エドウィンにノア王子、そしてトレイシー。
関わる人間が変われど、終わってみれば変わっていない。
現にノア王子とトレイシーが親密な関係だと城内で密やかに噂され始めている。

ノア王子も小説ほど心を閉ざしていないが、母親の事件は十分心の傷になった。
冷たい印象を受ける王子ではないにしろ、小説同様に男色と噂され、令嬢とあまり関わっていない。

エドウィンについても同じ。
私が王子の代わりに誘拐されたが、私が主となったことで王都へやってきた。
そして騎士学園へ入学し護衛騎士になり、ピーターとエドウィンが王子の傍についている。

トレイシーも中身は男性だが、ノア王子と親しい関係で、今回の事件にも巻き込まれた。
巻き込まないようにするはずだったんだけれども……。
事件を起こす前に捕えようとしたが、終わってみれば小説と何も変わっていない。
ガブリエルは捕らえられ、牢獄へ入れられた。
それは即ち、小説のストーリーに関わってくる大きな出来事は変わらないということだろう。
黒の教団が物語を修正しているという憶測は置いといて、次の事件も必ず起こる。

小説のストーリー最後の事件は、ノア王子の17歳の誕生祭。
誕生祭は来週。
黒の教団の件もあり中止も囁かれたが、憶測や脅威に屈するわけにはいかないと、開催することが決定した。
物語も架橋、この事件で全てが終わる。

今回ガブリエルの件で、私は取り返しのつかない大きな失敗をしてしまった。
事件を起こさないようにと、とった行動の結果が大惨事。
怪我をするはずのなかったエドウィンを巻き込んで……。
巻き込みたくないと独りよがりな考え、そして軽率な行動が招いたもの。
未来を知っているからと自分を過信しすぎていた。
過去に起こったどの事件も、一人で解決できるものはなかった。
守りたい人を守るためにも、話すことをためらったり、協力を惜しんではいけない。

起こる前に止めるのではなく、起こる先を見越してみんなを救う。
そのまま物語通りに進めば、主犯を捕らえられるはずだから。
後はけが人を出さぬよう対処をしなくては……。

小説の中での誕生祭では、ノア王子が婚約者であるリリーをパートナーに選ばず、トレイシーを誘う。
その出来事がきっかけで、リリーはプライドをズタズタに切り裂かれ、トレイシーを生誕祭で殺そうと動くのだ。
私がトレイシーを殺そうと動くことなんてありえない。
黒の教団が城内に侵入している話が本当だとしたら、実行犯はきっと黒の教団になるだろう。

ずっと捕まえらえなかった教祖をここで必ず捕らえる。
トレイシーが危ないと伝えておいたほうがいい。
後はどうやって襲撃してくるのか思い出さないと……。

ノートを広げペンを持つと、カリカリと滑らせていく。
場所は確か……誕生祭の会場で、王の挨拶が終わった後……。
トレイシーをかばったノア王子を助けて、エドウィンが負傷する。
切り傷……いや、えーと、どうだったかな……。
うーんと考え込むが、なかなか思い出せない。

状況から考えて正面から剣で切りつけるのは無理だろう。
夜会は厳重な警備が敷かれるだろうし、剣を持ち込むのも困難
一番可能性が高いのは弓矢などの遠隔だけれども、リリーのような生粋な令嬢が人ごみの中狙いを定め弓を打てただろうか?
ぺらっとページを戻り読み直してみると、ふとノア王子の言葉が頭を過った。
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