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中等部
出会った少年:後編
しおりを挟む満月は明日。
エイン学園の裏庭はここからそんなに遠くない。
病み上がりだけど、もう十分に元気だ。
だけど兄に知られれば必ず止められてしまう。
なら夜中にこっそり病室を抜け出して行くしかないよね。
もし見つかったら……素直に怒られよう。
そうして次の日の夜、静まり返った病室で、私はベッドから起き上がりそっと扉を開けた。
人がいない事を確認し外へ出ると、抜き足差し足で進んでいく。
巡回する看護師たちに注意しながら、慎重に慎重に進んでいくと、病院の出入り口が見えてくる。
しかしそこには二人の警備員らしき人物が、楽しそうに話をしていた。
私は彼らから見えない位置で立ち止まりその場で様子を覗っていると、突然肩を叩かれる。
体を大きく跳ねさせ恐る恐る振り返ると、日華 亮がそこにいた。
彼は口元へ人差し指を当てると、私の耳元へ顔を寄せた。
「こんなところで何してるの?もしかして夜這いにきてくれた?」
軽口に私は頬を膨らませると、今はそれどころではないとバシッと彼の手を叩いた。
彼を無視するように顔を戻すと、グィッと体を後ろへ引き寄せられる。
「……本当にどうしてこんなところにいるの?」
彼の息がかかる距離で囁かれると、私は思わず身をよじらせる。
「離して下さい、俊くんを助けられるかもしれないんです」
声を潜めそう伝え、私は体を起こし日華へと振り返った。
彼と視線が交わると、真剣な私の様子にゴクリと唾を飲み込む。
「何を……言って……」
「詳しいことはあとです。急いでいかなければいけない場所があるの、だから見逃してください」
彼に頭を下げると、深いため息が耳にとどく。
すると彼は立ち上がり警備員の元へ向かって行った。
何をするのかと様子を窺っていると、日華は彼らを連れそのまま別室へと入って行く。
その刹那彼と視線が絡むと、彼は首を入口の方へ軽く振った。
私は軽く頭を下げ、受付の下を這うように進み、静かに病院を後にした。
薄暗い夜道を記憶を頼りに進んでいると、後ろから日華先輩がやってくる。
「待って待って、どこへ行くつもりなの?女の子一人じゃ危ないよ」
「エイン学園の裏庭です。近くなので一人で大丈夫です、日華先輩に迷惑はかけられません」
足を止め彼を見つめると、私の前をスタスタと歩いていく。
「弟を助けるんだろう、なら俺も一緒に行くよ」
彼は私の手を取ると、満月の光が照らす夜道を進んで言った。
無事にエイン学園の裏庭へとたどり着くと、満月がちょうど真上に差し掛かる。
確か裏庭の天辺にあったような気がする。
長く急な石段に目を向けると、せっかく完治しかけていた脚に鈍い痛みが走った。
ここを登るのか……よし、頑張るぞ。
気合を入れると、階段を一歩一歩上がっていく。
後ろから日華先輩の足音が耳に届くと、私は前へと踏み出した。
どれぐらい上っただろうか……次第に息が切れてくると、脚の痛みがひどくなる。
満月は先ほどよりも近く感じ、頂上が近いのだとわかった。
もう少し、もう少しと足を踏みしめていると、ようやく石段が途切れる。
乾いた土を踏みしめた刹那、後ろからドサッと大きな音に慌てて振り返る。
石段につまずいたのだろうか、膝を付き肩を揺らす日華先輩の姿。
「はぁ……ごめん……はぁ、はぁ……ちょっとだけ……ここで休むよ……」
月明かりに照らされた彼のTシャツいはビッショリ濡れ、どうも様子がおかしい。
思わず駆け寄ろうとすると、彼はそれを手で静止し上を指さした。
彼の様子が気になるが、私は踏みとどまると、すぐに戻りますと声をかけ頂上へ向かった。
痛む足に活を入れながら一気に駆け上ると、月明かりに照らされた小さな広場があった。
ゆっくりと広場の中へ足を進めていくと、なぜか脚の痛みが消える。
導かれるように中心へやってくると、そこに小さな小さな蕾を見つけた。
その場にしゃがみ込み目を凝らすと。タンポポのような葉が風に揺れる
その風景がゲーム画面で見た丸つき草と重なった。
あった……ッッ!
私は震える手で丸つき草へ触れると、蕾が開きが小さな光を放つ。
真っ白な花が月明かりを反射し幻想的に輝く姿に、私はそっと摘み取ると、壊れないよう両手で包みこんだ。
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