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高等部

気づいた事実(日華視点)

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サクベ学園に編入して数か月、俺は平和な学園生活を送っていた。
歩は相も変わらず氷のように冷たい目をしているが……まぁ~それはデフォルトだな。
編入早々歩と同じクラスになると、女子生徒達がここぞとばかりに俺らの周りに集まってきた。
俺が女の子には優しく接している中、歩は煩わしいと言わんばかりの態度で彼女たちを冷たくあしらっている。
そんな歩の周りでワイワイガヤガヤと女子達と会話を楽しんでいると、歩にちょっかいを出そうとした女子生徒の手が払い落とされるのを横目に眺めていた。

俺は気ままに学園生活を楽しんでいるが、歩はサクベ学園に編入するにあたり、一条家当主からある条件を言い渡されていた。
それはエイン学園で得たパイプを継続させることだ。
だから歩は日々開催される催し物や名家のパーティーに積極的に参加し、エイン学園の生徒達と交流を深めるよう努めている。

今日も歩は名家である五条家主催のパーティーに参加する為、学園を欠席していた。
俺はそういったパーティーへ積極的に参加する必要がない。
歩のいない学園で味気ないな~と思いながらも、適当に過ごしていた。

そうしてお昼休みがおわり5限目。
教師が休みで自習になると、女子生徒達は自習なんてそっちのけで、ここぞとばかりに俺の周りへと集まってきた。
満月が近く、いつもより鼻が利き、女たちの香水の香りに頭痛がしてくる。
俺は適当に言い訳をつけ、軽やかに教室から抜け出した。

ようやく女たちから解放され胸をなでおろしていると、俺は誰の姿もない校庭へとやってきた。
外へ出ると、心地よい風を胸いっぱいに吸い込み、ゆっくりと吐き出した。
目的もないままふらついていると、ふとほっとさせるような甘い花の香りが鼻にかかり、その匂いに誘われるように足を向ける。

校庭裏には花壇が並び色とりどりの夏花が元気よく咲き乱れ、生き生きとしている。
そんな中、ふと顔を上げると、花壇の向こう側に見える丘に、漆黒の長い髪が静かに靡いていた。
あれは、彩華ちゃん?
俺はそっと近づいてみると、彼女は天を仰ぎ芝生に座り込んでいた。

声をかけると、驚いた様子で振り向いた彼女の姿に俺は目を見張った。
髪が濡れている、それに服まで……?
彼女の傍へ寄り、じっと上から下まで彼女を眺めると、髪だけではなく、制服、スカートまでも湿った様子だ。
疑問をそのまま口にすると、彼女は目を泳がせながら、花壇の方を指さした。
花壇にホースで水をあげていたら濡れてしまったと言うが、さすがにここまで濡らすことはないだろう。

彼女にもう一度目を向けると、ブレザーの中にあるワイシャツまで濡れ、薄っすらと下着が透けていた。
まるで水遊びをしていたような……まだ真夏というわけでもないのに、そんな事をするやつはいないだろう。
なら……誰かに水を掛けられた?
俺は自分のブレザーを素早く脱ぐと、彼女の肩にそっとかける。
彼女が濡れてしまうからと脱ごうとするのを静止すると、彼女は萎れたように大人しくなった。

彼女は目を伏せ俺から逃げるように後ずさると、口を閉ざす。
そんな彼女は何かを必死に隠すように、ビクビクとしていた。
誤魔化すような笑みに、意気消沈したような姿。
長い沈黙中、ゆっくりと口を開くと、彼女が徐に立ち上がった。

彼女は笑みを浮かべると、逃げるように俺の前から去っていく。
その姿に俺は立ち上がると、今一度彼女の指さしたホースへ視線を向け、ゆっくりと目で追っていった。
ホースは花壇をつたい、蛇口とは反対の方へ伸びている。
ホースの先端まで来ると、それは土の上に投げ出されていた。

俺はそれを一瞥すると、すぐにスマホを取り出し、歩にメッセージを打った。

[最近彩華ちゃんに変わった事ない?]

メッセージを打ち終わると、すぐに歩から焦った様子の返事が返ってくる。
可愛い妹のことになると態度がガラリと変わる。
歩らしい態度に笑いながらも、詳しく彩華ちゃんについてあれやこれや質問を投げた。

[そういえば、先月ぐらいからか……予習したいからと、早くに登校するようになったな]

そのメッセージに俺はそっとスマホを閉じると、彼女の去っていた校庭へ目を向けた。


翌日、いつもより早く学園に登校してみると、彼女はそれよりも早く学校へ来ていた。
こっそり彼女の教室へ向かうと、彼女はすでに教室に一人、教科書を広げペンを走らせている。
俺は小さくため息をつくと、階段を静かに下りて行った。

翌日さらに早く学園に登校してみると、彼女はまだ教室にはいなかった。
俺は急いで入口へと戻ると、誰もいないエントランスに一人佇む彼女の姿に、そっと身を隠した。
こっそり彼女の様子を覗っていると、彼女は下駄箱へは向かわず、カバンから上履きを取り出すと、廊下へと足を進める。
俺がいる方とは逆の方角へ歩き出す彼女の背中を追うと、軽い口調で彼女に声をかけた。

彼女はビクッ肩を跳ねさせると、気まずげに視線を逸らせる。
そそくさと去ろうとする彼女の後ろをついていくと、チラチラと彼女が俺を覗う様子に、俺は笑みを深めた。
そんな俺の様子に戸惑った様子をみせる彼女に、4階にある図書室へ向かうと伝えると、彼女はあからさまにほっとした表情を浮かべた。

3階へ到着し、俺は別れたふりをすると、彼女が教室に入って行く姿を、遠くからじっと見つめていた。
誰もいない廊下で、足音を殺しながらA組に近づいていくと、そっと窓から彼女の姿を覗う。
彼女はカバンから何かを取り出すと、机に強くこすりつけていた。
何をしているんだ?

体を前にだし目を凝らしてみると、彼女の机の上にはマジックで罵倒する言葉が書きなぐられていた。
彼女は泣きもせず、傷ついた様子もなく、只々無心に落書きを消す姿。
あまり光景にその場で立ち尽くしていると、彼女はゆっくりと顔を上げた。
その姿に俺は慌てて隠れると、彼女はゴミ箱へ何かを捨て、ゆっくりと自分の席へ座ると、徐に教科書を広げ始めた。

こんな嫌がらせを……一体いつから?
彼女が早く学校へ登校するようになってからだと考えると、一ヶ月以上前になる。
歩にも、二条や華僑にも気づかれず、彼女はずっと耐えていたのか?
嘘だろう……どうして誰にも言わないんだ?
もしかして俺たちに気が付かれないようにしているのか?
誰にも気が付かれないように、いつも早くに登校してこの落書きを消していた?
俺はすぐにスマホを取り出すと、教室から離れ、歩へと電話を掛けた。

歩にこの事を話すと、電話越しに彼の怒りが伝わってくる。
彼女が嫌がらせを隠しているようだと、歩に伝えてみると電話越しに舌打ちが聞こえてきた。

「まったく、彩華は優しすぎる、きっと僕に知られて潰される事を気にしているんだろう。それよりもだ亮、こういった陰湿な虐めは、元を潰さないとダメだ。下手に彩華を助けると、嫌がらせが過激になる恐れがある。だから亮、あの煩い女どもから彩華の情報を聞き出せ」

「わかったよ、そっちはどうする?」

質問の答えが返ってくる事無くプチっと電話が切られると、俺はスマホを見つめながらも急いで教室へと戻って行った。
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