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高等部
花蓮の弟:後編 (奏太視点)
しおりを挟むそれからはよく覚えていない。
「ねぇ、ねぇ、〇×△◆〇を探してきてくれない?」
さくらの願いに俺は……名家の集まるパーティーに参加して……。
それで……見つけたんだ。
その後サクベ学園に何度か足を運び……俺は一体何をしていたんだろうか。
あの時の俺は魅了されたかのように、毎日毎日立花さくらの事を考えていた。
勉強にも身が入らず、姉や両親の心配する声も聞き流す。
成績が次第に落ちていき、彼女に会う時間を増やす為、学校にも行かなくなった。
さくらは気まぐれだから、いつでも会えるようしておかないと……だから俺はずっと彼女を待っていた。
顔を見れば嬉しくて、心が幸せで満たされる。
会いたい、会いたい、早く、早く、もっと……もっと……。
さくら、さくら、さくら、さくら。
そんなある日、いつものようにさくらに呼び出され、俺は学校へ行かず、彼女の元へ向かった。
そのままさくらに導かれるようにどこか……山地のような場所へ連れてこられると、ひっそり佇む古家に入る。
「奏太君、今までありがとう。君はもう役に立たないからね、あとはあなたのお姉さんに頑張ってもらう事にするよ」
真っ赤な瞳が間近に迫ると、俺の意識はプツリと途切れた。
次に気が付くと、俺は街の中心街に佇んでいた。
あれ……ここは……?
俺はこんなところで何をしているんだろう……?。
頭がぼうっとして、何も考えれない。
記憶がとても曖昧で……今が何時で……俺は……。
意識が朦朧とする中、ピカピカと光る電光掲示板が視界を掠め顔を上げると、信じれない日付が表示されていた。
我に返り慌てて近くのコンビニへ駆け込むと、新聞を手にする。
そこには記憶にある日付から一ヶ月経過していた。
訳が分からず急いで家に戻ると、なぜか両親が玄関前で泣いていた。
その姿俺はすぐに父と母に駆け寄ると、両親は苦しそうな声で話し始める。
居なくなった俺を取り戻すために、サクベ学園で絶対に盾突いてはいけない人物の怒りを買い、北条家に強い圧力がかかってしまったのだと。
信じられない現状に頭の中が真っ白になった。
裕福だった生活から一変し、窮地に追いやられた俺たち一家は、社長である俺の父が毎日のように銀行を駆け回り金を集め、資金繰り苦しんでいた。
家にある金目の物を全て売り払って、姉も俺も学園へ通う事も出来ない。
姉は毎日毎日どこかへ出かけたかと思うと、意気消沈した様子で家に帰ってくる。
母は名家から破断され、頼るところもないと絶望していた。
そんな様子を目の当たりにし、俺はようやく夢から覚めた。
俺は今まで何をしていたんだろうか。
立花さくら、あんな女にどうして俺は会いたかったのだろうか。
最初に会った時おかしいと思っていたのに……どうしてこんなことになってしまったんだと。
自分を責めるが時すでに遅し。
住んでいた家も抵当として差し押さえられ、もう後がない。
このままだと一家路頭に迷うだろう、どうすればいい……。
絶望の淵に立たされる中、どんどん状態は悪化していった。
そんなある日、姉が初めて笑顔で家に帰ってきた。
姉は俺に目もくれず、失望の念を禁じ得ない両親の元へ駆け寄ると、何やら嬉しそうに話をしかけている。
そうして翌日、家の抵当は外され、会社は倒産の危機を逃れた。
劇的な変化に唖然とする中、俺は両親に謝り姉の部屋へと向かった。
数か月ぶりに姉に話しかけると、姉は冷たい瞳で俺を見据えていた。
「姉貴、その……今まで悪かった。俺どうかしてたんだ……自分でもよくわからないけど、もう大丈夫だから……今度は俺が頑張るから……」
その言葉に姉は涙を流すと、俺の頬を思いっ切り抓る。
「いひゃぃっ!!姉貴ッッ痛いって……ッッ」
「もう二度と立花さくらには関わらないで」
姉の迫力に圧倒されながら、俺は何度も頷いた。
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