[R18] 異世界は突然に……

あみにあ

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第五章

閑話:変わりゆく世界(エヴァン視点)

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彼女の姿が消えゆく中、私は必死に手を伸ばしてみるが……彼女に触れることは出来ない。

また……また私は救えなかった。

彼女をようやく見つけることが出来たのに……。

彼女との大切な記憶を、取り戻すことが出来たのに……。

どうして、どうして、私は……

「あああああ”ああああ”ああああああ”あ”あ”あ”」

声にならぬ声が暗闇に轟く中、意識が徐々に遠ざかっていく。
すると彼女に出会った事実、彼女の姿、それに彼女への想いも朧げになっていった。
ダメだ、嫌だ、忘れたくない。
嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だあああああああああ
彼女の姿を刻むように頭の中に描いていくと、体は深い深い闇の中へと落下していく。
先の見えない闇が、静寂が続く中、私の抵抗も虚しくそのまま意識を失うと、が頭の中から消えていった。


冷たい床の感触を頬に感じ、徐に目を開けると、そこは異世界の姫が暮らしていた城の一室だった。
どうして私は……?
今までの記憶、それに彼女の事を忘れていない事実に困惑する中、私は慌てて顔を上げる。
そのまま急いで体を起こし、部屋を見渡してみるが……やはり彼女の姿はどこにもない。
窓には大きな満月が映り、薄暗い部屋の中に明るい光が差し込んでいる。
満月に、この魔法陣……彼女が時空移転魔法を使ったあの夜。
彼女が光の中へ消えゆく姿が頭をよぎると、私はローブへ手を伸ばした。
いつも大事に持ち歩いていたシルバーのリングを探してみるが……どこを探しても見つからない。
リングが無ければ、あの時のように、彼女を追う事は出来ない。
床には見覚えのある魔法陣が描かれ、私はその場に膝をつくと、頬に涙が伝っていった。

彼女は戻って来ていない。
私は救えなかったのだと改めて実感すると、魔法陣に雫がポタポタを落ちていく。
視界が涙で霞む中、ふと魔法陣が視界に映ると、それが以前見た物と少し異なっている事に気が付いた。
驚きのあまり開いた口がふさがらない中、急いで涙をぬぐうと、私は描かれた陣を慎重に目で追っていった。
これは……時空移転魔法ではない。
必死に陣を解読していくと……どうやらこの陣は大掛かりな移転魔法の様だ。
しかしどこへ向かったのかは、魔法陣から読み取る事が出来ない。
一体これは……どういうことでしょうか……?

呆然と立ち尽くす中、バタバタバタと足音が耳に届くと、私は音のする方へと徐に振り返る。
開け放たれた扉の前にアーサー、ブレイク、レックス、ネイトの姿が現れると、彼らは驚愕した表情を浮かべていた。

「エヴァン、これは……一体何があったんだ?説明しろ」

「アーサー殿下、姫の姿がどこにも見当たりません」

「おい、エヴァン、これは……この魔法陣はどういうことだ?」

「まさか……姫が攫われたのか?それなら私が……」

ネイトは聖獣の姿になると、鼻を鳴らしながら彼女の部屋へと入ってくる。
彼女の匂いを追跡しているのだろうか、ウロウロと部屋を一周すると、私の前で立ち止まった。
するとネイトは人型へ戻り、私を鋭く睨みつける。

「魔導師エヴァン、何か話せ。この魔法陣から彼女の魔力を感じる。彼女は自分自身で、移転魔法を使ったのだろう。姫はどこへ行ったのかを答えろ」

その言葉に私は言葉を詰まらせると、どう説明していいのか戸惑っていた。
時空移転魔法を使ったはずだが……今ここに描かれている魔法陣は只の移転魔法だ。
それに……彼女の存在を皆が認識している。
あの世界では、誰も……もちろん私も彼女の存在すらしらなかったはず。
当事者のはずだが、このわけの分からない現状に脳の処理が追いついていかない。

狼狽する中、私はそのまま口を閉ざしていると、不穏な空気が漂い始める。
ネイトは苛立った様子を見せる中、満月が照らす夜空に、ふと蝶のシルエットが浮かび上がった
シルエットは次第に大きくなると、部屋の中へ漆黒の蝶が羽ばたきながらに、私の元へ降りてくる。
その姿に私はネイトを押しのけ蝶へ手を伸ばすと、黒蝶は私の肩へ羽を休めた。
初めて自分の元へ届いた黒蝶に胸が熱くなる中、この不可思議な状況に、さらに混乱していく。
黒い蝶……これは……まさか……ですが……。
信じられない思いで、震える手を恐る恐る羽へ伸ばしてみると、愛しい彼女の声が部屋に響き渡った。

「あー、エヴァン。助けに来てくれてありがとう。私はちゃんとこの世界で生きているわ。ただ……ちょっと遠いところに飛ばされてしまったみたいでね、そこへ戻るのに時間がかかりそうなの。でも必ず戻るから待っていて。今度は私があなたへ会いにいくわ。あなたが迎えに来てくれたように……。あなたの元へ戻ったら、ちゃんと約束を果たすわ。じゃぁ、またね」

彼女の黒蝶はそう話し終わると、私の前から泡となって消えていく。
先ほどの声は……紛れもなく彼女だった。
彼女が生きている。
彼女はこの世界へ戻ってきたんだ。
その事実が……歓喜となって、また涙が零れ落ちていく。
早く会いたい、待っているぐらいなら私があなたに会いに行く。
そう思うが……先ほどの彼女のメッセージではどこへいるのかわからない。
加えて私は彼女の名前を知らない為、伝書蝶を送ることも出来ない。

あぁ、もうっ!!!
どうして彼女は場所を言わないのでしょうか。
場所さえわかれば、今すぐにでも迎えに……いえ会いに行くのに。
もどかしい気持ちと、彼女が生きている事実が胸に溢れ出す中、扉の前に佇んでいた彼らが説明を求めるように私の傍へとやってくる。
そうして私は彼らから質問攻めにされていると、気が付いた時には夜が明けていたのだった。



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