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第五章
新章4:旅の頁
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若干気まずい雰囲気が流れる中、私は咄嗟に口を開くと、向けられるエメラルドの瞳を覗き込んだ。
「ところで、つかぬ事を伺うんだけれど……ここはどこなのかしら……?」
「はぁっ!?まさかそこからか……まぁいい。ここは西の国、最西端にあるランギと言う街だ。それでお前はどうやってこの街へ来たんだ?答えられる範囲で良い、話せ」
「あーそれは……本当にわからないの。さっきも言ったと思うのだけれど、気がついたら捕らえられていて……。どうも私は森の中に倒れていたらしいのよね」
そう言葉を返すと、カミールは考え込む素振りを見せながらに、ブツブツと何かを呟き始める。
そんな彼を横目に私はほっと胸をなでおろすと、いつの間にか太陽が真上に差しかかっていた。
ふぅ……記憶喪失の件は信じていないようだけれど、何とか切り抜けたわね。
「ねぇ、地図を持っていないかしら?」
そう問いかけてみると、カミールはゴソゴソとポケットの中を探し始めた。
そうして2枚の使い古された紙を取り出すと、私の前へ広げて見せる。
「この小さい方がランギ街の地図で、俺たちは今この辺りに居る。こっちが……世界地図だ」
カミールは地図を指さしながらに説明してくれる中、ランギという街は思ったよりも広いようだ。
彼の案内を聞きながらに、街の地図をゆっくりと眺めていくが、見覚えのない街の姿に、やはりここは私の知っている場所とは全く違うのだと、改めて実感する。
彼の説明を聞き終え、次に世界地図を眺めてみると、大きな大陸の中央に長い直線が描かれ、地図全体を真っ二つにしていた。
二つにわかれた大陸の一番西端に、ランギと小さな文字が書かれている。
そうして大きな大陸の南側には、別の島が存在し、大陸北側にも同じく海を隔てて大きな島が描かれている。
地図全体を分断しているなぞの直線は、西の国と南の島、東の国と北の島と分けられていた。
この地図の中央にある長い直線は、一体何のかしら……?
何かの印……?
不思議に思いながらも世界地図をじっと目で追っていくと……ふと王宮の図書館で見た地図が頭を掠めた。
この北の国……もしかして……。
地図を食い入るように見つめていると、北の国の港町付近の形が、私の見た地図と類似している。
その地の上には……小さな文字でキジャニと記載されていた。
「ここ……ここかもしれないわ」
そう一人こちると、カミールは地図を覗き込んだ。
「どこだ?」
「この北側にあるキジャニって言う場所よ。この地形に……見覚えがあるの」
そう言葉にすると、カミールは信じられないと言わんばかりに大きく目を見張り私へと視線を向けた。
「お前……まさか……。いや……お前国について、他に何か覚えている事はあるか?」
そう焦った様子で口を開くと、詰め寄るように体を寄せてくる。
「えっ、あー、そうねぇ。真っ白なお城が港の近くにあって、緑がとても豊かで、この街のように大きな建物はなかったわ」
「白い城……そんなものどこにでもある。……他にはないのか?」
「あと……森の中に迷宮の屋敷があって、そこに魔女がいるの。それと……あっ、聖獣の森に……」
聖獣の森という単語に、ネイトの姿が頭の中に浮かぶと、懐かしい記憶が思い起こされる。
彼は元気かしら……、それに今の私は……彼の想いの実をまだ持っているのかしら……?
「魔女……それに聖獣だと……。そんなもの西の国には、存在しない……。まさかお前は、本当に壁の向こうから来たのか……、いや……そんな事はありえない……だが……魔法が使える……。なぁ、一体どうやってきたんだ?何とか思い出せ!」
「どうやってって……、だからそれはわからないわ!それよりも……壁の向こうってどういう意味なの?この地図にある直線と関係があるの?」
「はぁっ、お前……壁の存在も忘れているのか?この世界で壁を知らない奴なんていないだろう」
そんなに有名なの壁が……?
私は城で過ごした日々を思い返し、壁という単語を探してみるが……思い当たらない。
うんうんと考え込んでいると、カミールからまた大きなため息が漏れた。
「はぁ……壁と言うのは、この国の最東端にある……東の国と西の国を隔てているでかい壁の事だ。壁はもう何百年もそこにあり、今だ誰もその壁を通る事は出来ていない。物資の輸入、輸出は軍を通して出来るようになったが、人の行き来は無理だ。もし仮に本当にお前が壁の向こう側から来たのだと言うのなら……歴史的大事件なるぞ」
「もしかして……この地図の中央にある線が壁のことなのかしら?」
カーミルは深く頷くと、指先で線をなぞっていく。
「この壁は越えられないほどに高く、頑丈に出来ている。海の上にも壁が立ち、世界の果てまで続いている。物資の移動も実際どうやっているのか知らないが……手のひらサイズの小さい物が限界だ」
そっ、そんな壁が大陸にあるの!?
一体誰が何のために……どうやって……。
呆然とする中、カミールは真剣な表情を浮かべながらに、こちらへ顔を向けると、エメラルドの瞳と視線が絡む。
彼の話が本当だとすると……壁がある以上エヴァンのいる国へ帰れないって事じゃない。
嘘でしょう……。
エヴァンの顔が頭を掠めると、私はその場で狼狽しながらに凍り付いていた。
****************
最近一気に暑くなってきましたね……。
皆さま熱中症にお気をつけ下さい。
「ところで、つかぬ事を伺うんだけれど……ここはどこなのかしら……?」
「はぁっ!?まさかそこからか……まぁいい。ここは西の国、最西端にあるランギと言う街だ。それでお前はどうやってこの街へ来たんだ?答えられる範囲で良い、話せ」
「あーそれは……本当にわからないの。さっきも言ったと思うのだけれど、気がついたら捕らえられていて……。どうも私は森の中に倒れていたらしいのよね」
そう言葉を返すと、カミールは考え込む素振りを見せながらに、ブツブツと何かを呟き始める。
そんな彼を横目に私はほっと胸をなでおろすと、いつの間にか太陽が真上に差しかかっていた。
ふぅ……記憶喪失の件は信じていないようだけれど、何とか切り抜けたわね。
「ねぇ、地図を持っていないかしら?」
そう問いかけてみると、カミールはゴソゴソとポケットの中を探し始めた。
そうして2枚の使い古された紙を取り出すと、私の前へ広げて見せる。
「この小さい方がランギ街の地図で、俺たちは今この辺りに居る。こっちが……世界地図だ」
カミールは地図を指さしながらに説明してくれる中、ランギという街は思ったよりも広いようだ。
彼の案内を聞きながらに、街の地図をゆっくりと眺めていくが、見覚えのない街の姿に、やはりここは私の知っている場所とは全く違うのだと、改めて実感する。
彼の説明を聞き終え、次に世界地図を眺めてみると、大きな大陸の中央に長い直線が描かれ、地図全体を真っ二つにしていた。
二つにわかれた大陸の一番西端に、ランギと小さな文字が書かれている。
そうして大きな大陸の南側には、別の島が存在し、大陸北側にも同じく海を隔てて大きな島が描かれている。
地図全体を分断しているなぞの直線は、西の国と南の島、東の国と北の島と分けられていた。
この地図の中央にある長い直線は、一体何のかしら……?
何かの印……?
不思議に思いながらも世界地図をじっと目で追っていくと……ふと王宮の図書館で見た地図が頭を掠めた。
この北の国……もしかして……。
地図を食い入るように見つめていると、北の国の港町付近の形が、私の見た地図と類似している。
その地の上には……小さな文字でキジャニと記載されていた。
「ここ……ここかもしれないわ」
そう一人こちると、カミールは地図を覗き込んだ。
「どこだ?」
「この北側にあるキジャニって言う場所よ。この地形に……見覚えがあるの」
そう言葉にすると、カミールは信じられないと言わんばかりに大きく目を見張り私へと視線を向けた。
「お前……まさか……。いや……お前国について、他に何か覚えている事はあるか?」
そう焦った様子で口を開くと、詰め寄るように体を寄せてくる。
「えっ、あー、そうねぇ。真っ白なお城が港の近くにあって、緑がとても豊かで、この街のように大きな建物はなかったわ」
「白い城……そんなものどこにでもある。……他にはないのか?」
「あと……森の中に迷宮の屋敷があって、そこに魔女がいるの。それと……あっ、聖獣の森に……」
聖獣の森という単語に、ネイトの姿が頭の中に浮かぶと、懐かしい記憶が思い起こされる。
彼は元気かしら……、それに今の私は……彼の想いの実をまだ持っているのかしら……?
「魔女……それに聖獣だと……。そんなもの西の国には、存在しない……。まさかお前は、本当に壁の向こうから来たのか……、いや……そんな事はありえない……だが……魔法が使える……。なぁ、一体どうやってきたんだ?何とか思い出せ!」
「どうやってって……、だからそれはわからないわ!それよりも……壁の向こうってどういう意味なの?この地図にある直線と関係があるの?」
「はぁっ、お前……壁の存在も忘れているのか?この世界で壁を知らない奴なんていないだろう」
そんなに有名なの壁が……?
私は城で過ごした日々を思い返し、壁という単語を探してみるが……思い当たらない。
うんうんと考え込んでいると、カミールからまた大きなため息が漏れた。
「はぁ……壁と言うのは、この国の最東端にある……東の国と西の国を隔てているでかい壁の事だ。壁はもう何百年もそこにあり、今だ誰もその壁を通る事は出来ていない。物資の輸入、輸出は軍を通して出来るようになったが、人の行き来は無理だ。もし仮に本当にお前が壁の向こう側から来たのだと言うのなら……歴史的大事件なるぞ」
「もしかして……この地図の中央にある線が壁のことなのかしら?」
カーミルは深く頷くと、指先で線をなぞっていく。
「この壁は越えられないほどに高く、頑丈に出来ている。海の上にも壁が立ち、世界の果てまで続いている。物資の移動も実際どうやっているのか知らないが……手のひらサイズの小さい物が限界だ」
そっ、そんな壁が大陸にあるの!?
一体誰が何のために……どうやって……。
呆然とする中、カミールは真剣な表情を浮かべながらに、こちらへ顔を向けると、エメラルドの瞳と視線が絡む。
彼の話が本当だとすると……壁がある以上エヴァンのいる国へ帰れないって事じゃない。
嘘でしょう……。
エヴァンの顔が頭を掠めると、私はその場で狼狽しながらに凍り付いていた。
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最近一気に暑くなってきましたね……。
皆さま熱中症にお気をつけ下さい。
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