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第五章
閑話:誘き寄せる罠 後編
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カランカラン、と音を立てながらに扉が開くと、中はアルコールの匂いと葉巻の煙が充満していた。
ガヤガヤと騒がしい声が響く中、俺は真っすぐにカウンター席へ向かうと、深く椅子へと腰かける。
徐に後ろへ視線を向けてみると、顔を赤らめ騒ぎながら飲む男達の姿や、店の女たちが御酌をしながらに男へ寄り添う姿、店の奥には何やら話し込む冒険者の姿や商人の姿が映った。
そんな賑やかな酒場を眺めている中、ふと一人の女と視線が絡むと、俺の傍へと走り寄ってくる。
女は甘い香りを漂わせながらに、ベアトップのワンピースを見せつけると、俺を覗き込むように妖麗な笑みを浮かべて見せた。
「カミィ~ル、久しぶりじゃない~。最近全然来ないから、私……とっても寂しかったわ~」
女は猫なで声で俺の腕へ絡みつくと、ゆっくりと顔を近づけてくる。
俺はそんな女を一瞥すると、腕を振り払い、スッと目を細め視線を下げた。
「離れろ、邪魔だ」
「ひぃっ、なっ、なによ!!」
馴れ馴れしい女を鋭く睨みつけると、彼女は小さく肩を震わせ、慌てた様子で俺の傍から離れていった。
そんな女を横目に俺はカウンターへ体を向けると、マスターに酒を一杯注文する。
空のグラスが俺の前に差し出されると、マスターは金色のラベルの付いた酒瓶を手に取り、静かに傾けていった。
グラスに透明の液体が注がれていく中、フルーティーな香りが鼻を掠める。
そうの光景をじっと眺める中、マスターは静かに瓶をまわすと、徐に顔を上げ、狐目をこちらへ向けた。
「お久しぶりですね、カミールさん。最近……腕の良いパートナーを見つけて、お忙しいようですが……」
マスターはそう話しながらに、瓶を後ろの棚へと片づけると、ニコニコと人当たりのよさそうな笑みを浮かべて見せる。
「その噂は……どこまで広がっている?」
「そうですねぇ……私の知るところでは、西の国全域のギルドには流れているようですよ。ふふっ、さすがにあれほどにランクの高い依頼をクリアし続ければ、噂にならないはずがないですよね。それ噂の的になっている女性は、謎が多いようですし……皆、あなたのパートナーに夢中ですよ。私のところにも近頃頻繁に、そういった方が訪れます」
「うん……?あの女について、あんたは何か知っているのか?」
そう問いかけてみると、マスターは小さく肩をすくめながらに首を横に振った。
「彼女についての情報は全くと言っていいほどわかっておりません。そう……まるでこの世界に居なかったのでは……というほどに情報が出てこない。もしよければ教えて頂けませんか?……高値で買い取りますよ」
マスターは狐目を深めながらそう笑みを深めると、俺は軽く首を横に振った。
教えられるものなら、教えたいところだが……。
俺もあの女についてはよくわかっていない。
個人的に色々と裏で調べてみたが……あれだけ目の引く風貌に、魔法を使えるという珍しい女にも関わらず、何も出てこない。
エヴァンと言う男の名前も調べてはみたが……全くと言っていいほど何もわかなかった。
本当に謎の多い女だ。
どこかの権力者が彼女の情報を隠しているのか……。
将又……信じられないが……まさか本当に……壁の向こう側からやってきたのか……?
コップに並々に注がれた酒を手に取ると、一気に口へと運んでいく。
アルコールが喉を刺激しカッとする熱さに頬が熱くなると、バンッとグラスをおいた。
ニコニコと笑みを浮かべこちらを眺めるマスターを睨みつけながらに、俺は懐から銀貨を取り出すと、カウンターへと並べていく。
「本題だ。ノエルと言う男がこの街へ向かっているという情報はないか?」
マスターは銀貨を一瞥すると、笑みを深めながらに首を横に振った。
「ノエルですか……彼もまた謎の多い男ですからね」
マスターのその様子に、もう2枚銀貨を取り出すと、俺は彼の前へ重ねていく。
しかしそれでもまだ受け取ろうとしない姿に俺は小さく息を吐きだすと、また懐へと手を伸ばした。
舌打ちを見せながらに3枚追加してみると……ようやくマスターの手が銀貨へと触れた。
「……ノエルは現在壁の付近で、何やら人を集めているようですよ。理由はわかりませんが……まぁお忙しいようですし、こちらには戻って来ないのではと思いますね」
「人を……?」
「えぇ、彼も裏の世界では顔が広い。そのつながりを利用して、莫大な資金と人手を集め、何かを始めようとしているようです。これ以上詳しい事は……またつかめておりません」
マスターは銀貨を懐へ忍ばせると、ニッコリを笑みを深めて見せる。
ノエルの目的も気になるが……これ以上金を差し出すほどではない。
それほど大規模な事をやろうとしているんだ……壁の傍へ行けばすぐにわかるだろう。
それよりも……くそっ、当てが外れたか……。
だがあいつは必ず噂の女を気にしているはずだ。
何を目的で人を集めているのかは知らないが……向こうが来ないのならば、こちらから行くしかない。
早めに資金をためて、さっさと壁へ急がなければ……。
新たにまた作戦を練らなければならないな……。
あの女の力は、まだまだ未知数。
魔法と言うものでどこまでできるのか……。
囮に使えないのであれば、あいつにノエルを捕えさせれないだろうか。
俺の遣い魔では捕らえられなかったあの男。
魔法であれば、可能なのだろうか……?
俺は無言で席から立ち上がると、そのまま店を後にした。
*****お知らせ*****
次回、《新章:ランギの街で》がスタートします!
ガヤガヤと騒がしい声が響く中、俺は真っすぐにカウンター席へ向かうと、深く椅子へと腰かける。
徐に後ろへ視線を向けてみると、顔を赤らめ騒ぎながら飲む男達の姿や、店の女たちが御酌をしながらに男へ寄り添う姿、店の奥には何やら話し込む冒険者の姿や商人の姿が映った。
そんな賑やかな酒場を眺めている中、ふと一人の女と視線が絡むと、俺の傍へと走り寄ってくる。
女は甘い香りを漂わせながらに、ベアトップのワンピースを見せつけると、俺を覗き込むように妖麗な笑みを浮かべて見せた。
「カミィ~ル、久しぶりじゃない~。最近全然来ないから、私……とっても寂しかったわ~」
女は猫なで声で俺の腕へ絡みつくと、ゆっくりと顔を近づけてくる。
俺はそんな女を一瞥すると、腕を振り払い、スッと目を細め視線を下げた。
「離れろ、邪魔だ」
「ひぃっ、なっ、なによ!!」
馴れ馴れしい女を鋭く睨みつけると、彼女は小さく肩を震わせ、慌てた様子で俺の傍から離れていった。
そんな女を横目に俺はカウンターへ体を向けると、マスターに酒を一杯注文する。
空のグラスが俺の前に差し出されると、マスターは金色のラベルの付いた酒瓶を手に取り、静かに傾けていった。
グラスに透明の液体が注がれていく中、フルーティーな香りが鼻を掠める。
そうの光景をじっと眺める中、マスターは静かに瓶をまわすと、徐に顔を上げ、狐目をこちらへ向けた。
「お久しぶりですね、カミールさん。最近……腕の良いパートナーを見つけて、お忙しいようですが……」
マスターはそう話しながらに、瓶を後ろの棚へと片づけると、ニコニコと人当たりのよさそうな笑みを浮かべて見せる。
「その噂は……どこまで広がっている?」
「そうですねぇ……私の知るところでは、西の国全域のギルドには流れているようですよ。ふふっ、さすがにあれほどにランクの高い依頼をクリアし続ければ、噂にならないはずがないですよね。それ噂の的になっている女性は、謎が多いようですし……皆、あなたのパートナーに夢中ですよ。私のところにも近頃頻繁に、そういった方が訪れます」
「うん……?あの女について、あんたは何か知っているのか?」
そう問いかけてみると、マスターは小さく肩をすくめながらに首を横に振った。
「彼女についての情報は全くと言っていいほどわかっておりません。そう……まるでこの世界に居なかったのでは……というほどに情報が出てこない。もしよければ教えて頂けませんか?……高値で買い取りますよ」
マスターは狐目を深めながらそう笑みを深めると、俺は軽く首を横に振った。
教えられるものなら、教えたいところだが……。
俺もあの女についてはよくわかっていない。
個人的に色々と裏で調べてみたが……あれだけ目の引く風貌に、魔法を使えるという珍しい女にも関わらず、何も出てこない。
エヴァンと言う男の名前も調べてはみたが……全くと言っていいほど何もわかなかった。
本当に謎の多い女だ。
どこかの権力者が彼女の情報を隠しているのか……。
将又……信じられないが……まさか本当に……壁の向こう側からやってきたのか……?
コップに並々に注がれた酒を手に取ると、一気に口へと運んでいく。
アルコールが喉を刺激しカッとする熱さに頬が熱くなると、バンッとグラスをおいた。
ニコニコと笑みを浮かべこちらを眺めるマスターを睨みつけながらに、俺は懐から銀貨を取り出すと、カウンターへと並べていく。
「本題だ。ノエルと言う男がこの街へ向かっているという情報はないか?」
マスターは銀貨を一瞥すると、笑みを深めながらに首を横に振った。
「ノエルですか……彼もまた謎の多い男ですからね」
マスターのその様子に、もう2枚銀貨を取り出すと、俺は彼の前へ重ねていく。
しかしそれでもまだ受け取ろうとしない姿に俺は小さく息を吐きだすと、また懐へと手を伸ばした。
舌打ちを見せながらに3枚追加してみると……ようやくマスターの手が銀貨へと触れた。
「……ノエルは現在壁の付近で、何やら人を集めているようですよ。理由はわかりませんが……まぁお忙しいようですし、こちらには戻って来ないのではと思いますね」
「人を……?」
「えぇ、彼も裏の世界では顔が広い。そのつながりを利用して、莫大な資金と人手を集め、何かを始めようとしているようです。これ以上詳しい事は……またつかめておりません」
マスターは銀貨を懐へ忍ばせると、ニッコリを笑みを深めて見せる。
ノエルの目的も気になるが……これ以上金を差し出すほどではない。
それほど大規模な事をやろうとしているんだ……壁の傍へ行けばすぐにわかるだろう。
それよりも……くそっ、当てが外れたか……。
だがあいつは必ず噂の女を気にしているはずだ。
何を目的で人を集めているのかは知らないが……向こうが来ないのならば、こちらから行くしかない。
早めに資金をためて、さっさと壁へ急がなければ……。
新たにまた作戦を練らなければならないな……。
あの女の力は、まだまだ未知数。
魔法と言うものでどこまでできるのか……。
囮に使えないのであれば、あいつにノエルを捕えさせれないだろうか。
俺の遣い魔では捕らえられなかったあの男。
魔法であれば、可能なのだろうか……?
俺は無言で席から立ち上がると、そのまま店を後にした。
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次回、《新章:ランギの街で》がスタートします!
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