[R18] 異世界は突然に……

あみにあ

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第五章

新章2:ランギの街で

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そうして色々な服を見せ試着させていく中、遠慮するシナンに半ば強引に服を選ばせると、私は奥に居る店主の元へと向かっていく。
手にしていた服をカウンターへ広げて見せると、この店主だろう優しそうなお婆さんが、皺をよせながらにいらっしゃいと微笑みかけてくれた。

「いらっしゃい」

「すみません、これとこれと……これでおいくらですか?」

そうおばあさんに顔を向けると、なぜか店主は目を見張り驚いた様子を浮かべていた。

「おや、あんたのその瞳の色……最近カミールと組んで、ギルドを騒がせているお嬢さんじゃないかい?」

「えっ、あっ、その……」

予想だにしていなかった質問にあっけにとられる中、お婆さんは珍しいものを見る様子で、私をじっと覗き込んでくる。

「こりゃ~珍しいね。漆黒の瞳は生まれてこの方初めてみたよ。それに髪も……真っ黒じゃないか。それに噂通りの別嬪さんじゃね」

お婆さんはほほっと笑うと、ローブの隙間から流れた黒い髪へ手を伸ばす。
その姿に私は慌てて一歩下がると、ローブを深く被りなおした。

「っっ……私の事をご存知なんでしょうか?」

「そりゃあんた、あれだけ難しい依頼をいくつもクリアすれば、噂にもなるだろう。それにあの冒険者カミールも有名だしねぇ。つい先日街に訪れて、騎士に匹敵するほどの件の腕前。それにあの美貌で何人もの女を食い荒らしているみたいじゃよぉ、まぁお盛んな事じゃ。私も後……20ほど若ければお相手願いたいところじゃがなぁ~。……そんな事よりも、そんな男が今まで誰もパートナーを付けなかったところに、若い娘をパートナーにしたとあれば、噂が広がるのも早いじゃろうて」

カッ、カミールって……そんな有名な人だったの!?
ってあの人やっぱり女遊びが激しいのね……。
まぁあれだけ整った顔立ちをしているのだから女は放っておかないか……。
なら今日も朝から女の人のところへ行ったのかしら……?
でもそのわりに……ここ一ヶ月はずっと仕事に明け暮れていたけれど……。

そこでふとカミールの姿が頭をよぎると、私はある事に気が付いた。
そういえば……一ヶ月以上一緒に過ごしていたのに、私は彼の事を何も知らないわね。
剣の腕が達者で、魔力自体はそこそこにある。
でも魔法は使えない……うーん使えない振りをしているのかも……。
交わす言葉も仕事の内容が多いから、彼の事を知る機会が少なかったのよね。

彼について気になる事は、正直いくつもある。
彼は冒険者の様だが、なぜこの街へ来たのか。
どうして他の人が知らない魔法について知っているのか。
どうして私みたいな人間の世話を、自らにかってでたのか。
まぁざっと思いつく限りで他にも色々あるけれど……。

でもそれを聞くことは出来ないのよね……。
もし問いかけた時に、こちらの事をあれこれ詮索されると、私は返答に詰まってしまうわ。
あの突拍子についた記憶喪失という嘘も、きっと彼は信用していない。
彼を見ていればそれはわかるわ。
だた言いたくないなら聞かないというスタンスで、あえて聞いてこないだけでしょう。
だからこそ私の方も彼に関する質問は遠慮していたのよね。
うんうんとカミールの事を考え込んでいると、お婆さんはニッコリ笑みを深めながらに、視線を落としていた私の瞳を覗き込んできた。

「ほほほっ、有名なお嬢さんに会えたんだ、良かったらこれも一緒に買っていかないかい?」

お婆さんは徐にカウンターから何かを取り出すと、私の前へ掲げて見せる。
そっと顔を上げると、そこにはいくつものカラフルな糸で編みこまれたミサンガのような物が目に映った。

「これはミサンガと言ってな、子供に持たせておくと、迷子になったときなんかに子供の居場所がわかるんじゃよ。こっちの対となるミサンガを持っている者に、居場所を教えてくれんじゃ。値段はそこそこするが……便利な代物じゃよ。この鮮やかなミサンガを子供に、もう一つはあんたが着ける、いかがじゃろうか?」

カラフルな糸で編みこまれたミサンガと、シンプルに黒と白でで編みこまれたミサンガ。
そういえば……エヴァンも対になるリングで私の場所を見つけていたわね。
これも同じような物なのかしら……?

「……良い物ね、ぜひ頂くわ。でもおいくらなのかしら……?」

「この服とあわせて全部で銀貨2枚じゃ。お嬢ちゃんいい買い物したねぇ~」

私は銀貨二枚をお婆さんに差し出すと、ミサンガと服を受け取った。
銀貨2枚……。
高いのか安いのかわからないけれど……服が銀貨1枚程度だったから……このミサンガ二つで銀貨1枚か……。

そうして買い物を済ませ、私はシナンの傍へ駆け寄ると、視線にあわせるようにしゃがみ込んだ。

「シナン、腕をだして」

シナンはキョトンとした様子で腕の裾をめくり上げると、スベスベの肌が現れる。
私は先ほど買ったカラフルなミサンガをシナンの腕へ巻き付けると、ニッコリと笑みを浮かべて見せた。
そうしてもう一つ、モノクロなミサンガを自分の腕に巻き付けると、シナンの前に差し出して見せる。

「ふふっ、プレゼントよ。私とお揃いね」

そう笑いかけてみると、シナンは嬉しそうにパッと顔を輝かせながら、マジマジとミサンガを見つめていた。
その姿に思わず抱きしめると、私はシナンを抱き上げたままに、店の外へと出て行った。





********二人が店を出て行った後に********

カウンターに座っていた店主は徐に小さな丸い玉を取り出すと、独り言のように呟き始めた。

「あんたが言っていた女の子にミサンガを渡したよ。これでよかったのかい?」

すると手にしていた玉がピカッと黄色く光ると、店主は小さく笑みを浮かべてみせた。

「約束の金は金貨1枚、頼んだよ」

そう玉へ呟くと、店主は玉を片付けながらに、先ほど彼女が出て行った扉をじっと見つめていた。
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