214 / 358
第五章
新章2:ランギの街で
しおりを挟む
そうして色々な服を見せ試着させていく中、遠慮するシナンに半ば強引に服を選ばせると、私は奥に居る店主の元へと向かっていく。
手にしていた服をカウンターへ広げて見せると、この店主だろう優しそうなお婆さんが、皺をよせながらにいらっしゃいと微笑みかけてくれた。
「いらっしゃい」
「すみません、これとこれと……これでおいくらですか?」
そうおばあさんに顔を向けると、なぜか店主は目を見張り驚いた様子を浮かべていた。
「おや、あんたのその瞳の色……最近カミールと組んで、ギルドを騒がせているお嬢さんじゃないかい?」
「えっ、あっ、その……」
予想だにしていなかった質問にあっけにとられる中、お婆さんは珍しいものを見る様子で、私をじっと覗き込んでくる。
「こりゃ~珍しいね。漆黒の瞳は生まれてこの方初めてみたよ。それに髪も……真っ黒じゃないか。それに噂通りの別嬪さんじゃね」
お婆さんはほほっと笑うと、ローブの隙間から流れた黒い髪へ手を伸ばす。
その姿に私は慌てて一歩下がると、ローブを深く被りなおした。
「っっ……私の事をご存知なんでしょうか?」
「そりゃあんた、あれだけ難しい依頼をいくつもクリアすれば、噂にもなるだろう。それにあの冒険者カミールも有名だしねぇ。つい先日街に訪れて、騎士に匹敵するほどの件の腕前。それにあの美貌で何人もの女を食い荒らしているみたいじゃよぉ、まぁお盛んな事じゃ。私も後……20ほど若ければお相手願いたいところじゃがなぁ~。……そんな事よりも、そんな男が今まで誰もパートナーを付けなかったところに、若い娘をパートナーにしたとあれば、噂が広がるのも早いじゃろうて」
カッ、カミールって……そんな有名な人だったの!?
ってあの人やっぱり女遊びが激しいのね……。
まぁあれだけ整った顔立ちをしているのだから女は放っておかないか……。
なら今日も朝から女の人のところへ行ったのかしら……?
でもそのわりに……ここ一ヶ月はずっと仕事に明け暮れていたけれど……。
そこでふとカミールの姿が頭をよぎると、私はある事に気が付いた。
そういえば……一ヶ月以上一緒に過ごしていたのに、私は彼の事を何も知らないわね。
剣の腕が達者で、魔力自体はそこそこにある。
でも魔法は使えない……うーん使えない振りをしているのかも……。
交わす言葉も仕事の内容が多いから、彼の事を知る機会が少なかったのよね。
彼について気になる事は、正直いくつもある。
彼は冒険者の様だが、なぜこの街へ来たのか。
どうして他の人が知らない魔法について知っているのか。
どうして私みたいな人間の世話を、自らにかってでたのか。
まぁざっと思いつく限りで他にも色々あるけれど……。
でもそれを聞くことは出来ないのよね……。
もし問いかけた時に、こちらの事をあれこれ詮索されると、私は返答に詰まってしまうわ。
あの突拍子についた記憶喪失という嘘も、きっと彼は信用していない。
彼を見ていればそれはわかるわ。
だた言いたくないなら聞かないというスタンスで、あえて聞いてこないだけでしょう。
だからこそ私の方も彼に関する質問は遠慮していたのよね。
うんうんとカミールの事を考え込んでいると、お婆さんはニッコリ笑みを深めながらに、視線を落としていた私の瞳を覗き込んできた。
「ほほほっ、有名なお嬢さんに会えたんだ、良かったらこれも一緒に買っていかないかい?」
お婆さんは徐にカウンターから何かを取り出すと、私の前へ掲げて見せる。
そっと顔を上げると、そこにはいくつものカラフルな糸で編みこまれたミサンガのような物が目に映った。
「これはミサンガと言ってな、子供に持たせておくと、迷子になったときなんかに子供の居場所がわかるんじゃよ。こっちの対となるミサンガを持っている者に、居場所を教えてくれんじゃ。値段はそこそこするが……便利な代物じゃよ。この鮮やかなミサンガを子供に、もう一つはあんたが着ける、いかがじゃろうか?」
カラフルな糸で編みこまれたミサンガと、シンプルに黒と白でで編みこまれたミサンガ。
そういえば……エヴァンも対になるリングで私の場所を見つけていたわね。
これも同じような物なのかしら……?
「……良い物ね、ぜひ頂くわ。でもおいくらなのかしら……?」
「この服とあわせて全部で銀貨2枚じゃ。お嬢ちゃんいい買い物したねぇ~」
私は銀貨二枚をお婆さんに差し出すと、ミサンガと服を受け取った。
銀貨2枚……。
高いのか安いのかわからないけれど……服が銀貨1枚程度だったから……このミサンガ二つで銀貨1枚か……。
そうして買い物を済ませ、私はシナンの傍へ駆け寄ると、視線にあわせるようにしゃがみ込んだ。
「シナン、腕をだして」
シナンはキョトンとした様子で腕の裾をめくり上げると、スベスベの肌が現れる。
私は先ほど買ったカラフルなミサンガをシナンの腕へ巻き付けると、ニッコリと笑みを浮かべて見せた。
そうしてもう一つ、モノクロなミサンガを自分の腕に巻き付けると、シナンの前に差し出して見せる。
「ふふっ、プレゼントよ。私とお揃いね」
そう笑いかけてみると、シナンは嬉しそうにパッと顔を輝かせながら、マジマジとミサンガを見つめていた。
その姿に思わず抱きしめると、私はシナンを抱き上げたままに、店の外へと出て行った。
********二人が店を出て行った後に********
カウンターに座っていた店主は徐に小さな丸い玉を取り出すと、独り言のように呟き始めた。
「あんたが言っていた女の子にミサンガを渡したよ。これでよかったのかい?」
すると手にしていた玉がピカッと黄色く光ると、店主は小さく笑みを浮かべてみせた。
「約束の金は金貨1枚、頼んだよ」
そう玉へ呟くと、店主は玉を片付けながらに、先ほど彼女が出て行った扉をじっと見つめていた。
手にしていた服をカウンターへ広げて見せると、この店主だろう優しそうなお婆さんが、皺をよせながらにいらっしゃいと微笑みかけてくれた。
「いらっしゃい」
「すみません、これとこれと……これでおいくらですか?」
そうおばあさんに顔を向けると、なぜか店主は目を見張り驚いた様子を浮かべていた。
「おや、あんたのその瞳の色……最近カミールと組んで、ギルドを騒がせているお嬢さんじゃないかい?」
「えっ、あっ、その……」
予想だにしていなかった質問にあっけにとられる中、お婆さんは珍しいものを見る様子で、私をじっと覗き込んでくる。
「こりゃ~珍しいね。漆黒の瞳は生まれてこの方初めてみたよ。それに髪も……真っ黒じゃないか。それに噂通りの別嬪さんじゃね」
お婆さんはほほっと笑うと、ローブの隙間から流れた黒い髪へ手を伸ばす。
その姿に私は慌てて一歩下がると、ローブを深く被りなおした。
「っっ……私の事をご存知なんでしょうか?」
「そりゃあんた、あれだけ難しい依頼をいくつもクリアすれば、噂にもなるだろう。それにあの冒険者カミールも有名だしねぇ。つい先日街に訪れて、騎士に匹敵するほどの件の腕前。それにあの美貌で何人もの女を食い荒らしているみたいじゃよぉ、まぁお盛んな事じゃ。私も後……20ほど若ければお相手願いたいところじゃがなぁ~。……そんな事よりも、そんな男が今まで誰もパートナーを付けなかったところに、若い娘をパートナーにしたとあれば、噂が広がるのも早いじゃろうて」
カッ、カミールって……そんな有名な人だったの!?
ってあの人やっぱり女遊びが激しいのね……。
まぁあれだけ整った顔立ちをしているのだから女は放っておかないか……。
なら今日も朝から女の人のところへ行ったのかしら……?
でもそのわりに……ここ一ヶ月はずっと仕事に明け暮れていたけれど……。
そこでふとカミールの姿が頭をよぎると、私はある事に気が付いた。
そういえば……一ヶ月以上一緒に過ごしていたのに、私は彼の事を何も知らないわね。
剣の腕が達者で、魔力自体はそこそこにある。
でも魔法は使えない……うーん使えない振りをしているのかも……。
交わす言葉も仕事の内容が多いから、彼の事を知る機会が少なかったのよね。
彼について気になる事は、正直いくつもある。
彼は冒険者の様だが、なぜこの街へ来たのか。
どうして他の人が知らない魔法について知っているのか。
どうして私みたいな人間の世話を、自らにかってでたのか。
まぁざっと思いつく限りで他にも色々あるけれど……。
でもそれを聞くことは出来ないのよね……。
もし問いかけた時に、こちらの事をあれこれ詮索されると、私は返答に詰まってしまうわ。
あの突拍子についた記憶喪失という嘘も、きっと彼は信用していない。
彼を見ていればそれはわかるわ。
だた言いたくないなら聞かないというスタンスで、あえて聞いてこないだけでしょう。
だからこそ私の方も彼に関する質問は遠慮していたのよね。
うんうんとカミールの事を考え込んでいると、お婆さんはニッコリ笑みを深めながらに、視線を落としていた私の瞳を覗き込んできた。
「ほほほっ、有名なお嬢さんに会えたんだ、良かったらこれも一緒に買っていかないかい?」
お婆さんは徐にカウンターから何かを取り出すと、私の前へ掲げて見せる。
そっと顔を上げると、そこにはいくつものカラフルな糸で編みこまれたミサンガのような物が目に映った。
「これはミサンガと言ってな、子供に持たせておくと、迷子になったときなんかに子供の居場所がわかるんじゃよ。こっちの対となるミサンガを持っている者に、居場所を教えてくれんじゃ。値段はそこそこするが……便利な代物じゃよ。この鮮やかなミサンガを子供に、もう一つはあんたが着ける、いかがじゃろうか?」
カラフルな糸で編みこまれたミサンガと、シンプルに黒と白でで編みこまれたミサンガ。
そういえば……エヴァンも対になるリングで私の場所を見つけていたわね。
これも同じような物なのかしら……?
「……良い物ね、ぜひ頂くわ。でもおいくらなのかしら……?」
「この服とあわせて全部で銀貨2枚じゃ。お嬢ちゃんいい買い物したねぇ~」
私は銀貨二枚をお婆さんに差し出すと、ミサンガと服を受け取った。
銀貨2枚……。
高いのか安いのかわからないけれど……服が銀貨1枚程度だったから……このミサンガ二つで銀貨1枚か……。
そうして買い物を済ませ、私はシナンの傍へ駆け寄ると、視線にあわせるようにしゃがみ込んだ。
「シナン、腕をだして」
シナンはキョトンとした様子で腕の裾をめくり上げると、スベスベの肌が現れる。
私は先ほど買ったカラフルなミサンガをシナンの腕へ巻き付けると、ニッコリと笑みを浮かべて見せた。
そうしてもう一つ、モノクロなミサンガを自分の腕に巻き付けると、シナンの前に差し出して見せる。
「ふふっ、プレゼントよ。私とお揃いね」
そう笑いかけてみると、シナンは嬉しそうにパッと顔を輝かせながら、マジマジとミサンガを見つめていた。
その姿に思わず抱きしめると、私はシナンを抱き上げたままに、店の外へと出て行った。
********二人が店を出て行った後に********
カウンターに座っていた店主は徐に小さな丸い玉を取り出すと、独り言のように呟き始めた。
「あんたが言っていた女の子にミサンガを渡したよ。これでよかったのかい?」
すると手にしていた玉がピカッと黄色く光ると、店主は小さく笑みを浮かべてみせた。
「約束の金は金貨1枚、頼んだよ」
そう玉へ呟くと、店主は玉を片付けながらに、先ほど彼女が出て行った扉をじっと見つめていた。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる