[R18] 異世界は突然に……

あみにあ

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第五章

閑話:北の国では(ネイト視点)

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時は少しさかのぼり……、彼女が船へ乗り込んだ頃。

深い深い森の奥で、エメラルドグリーンに輝いた美しい湖があった。
その湖の奥に大きな洞窟があり、その中には草が敷き詰められた寝床のような物と、木の実ようなものが積み上げられている。
そんなふかふかの寝床の上には、透き通るような美しい毛並みをした白い獣が一匹……じっと動かずに、体を丸めていた。



この森で私は彼女と初めて出会った。
今にも泣きだしそうな彼女が、私の胸の中で深く眠りについた姿。
人間に怯え……それでも勇敢に立ち向かう彼女の姿。
彼女がどうしてこの地へ呼び出されたのか……それはわかっていないが、彼女と出会えて本当によかった。
守りたいと思える、大切な存在が出来たのだから。

そんな彼女が居なくなって数か月……未だ彼女は見つかっていない。
あの時のように、彼女は知らない場所で、一人泣いているかもしれない。
そう思うと、心が締め付けられるように痛み始める。

城でも彼女の捜索を行っているようだが……彼女はまだ見つかっていないようだ。
私の方も北の国……東の国と捜索を続けているが……彼女の魔力はどこにも見当たらない。
聖獣は人間とは違い、魔力には敏感だ。
人間には感知できないような小さな魔力でも、私なら感知できる。
だが……これだけ探してもいないのだ、もしかしたら……死んでいるのか……。
いや……それは考えないでおこう。

それに……先日黒蝶から聞こえた彼女の声は、とても元気そうだった。
姿を見ていないから……強がっているだけかもしれないが……。
だが今は必ず生きている……そう信じ、私は一刻も早く彼女の居場所を突き止めなければ……。
見つかるまで……私はずっと彼女を探し続ける。

後探していないのは壁の向こう側だが……あの壁は人間では通ることは出来ない。
道筋がわからないのだ移転魔法はもちろん、壁を壊すことも出来ない。
伝書蝶は……どうなのだろうか。
壁の向こう側へいる人間の顔も名前をわからないのだ、飛ばそうと思う人間はいないだろう。
だが……彼女は異世界の人間だ。
私の常識を覆す可能性もあるやもしれない。

仮に彼女が壁の向こう側にいるとして、聖獣の私であれば……あちら側へ行くことは可能だが……。
聖獣には聖獣の国が人間の世界とは別に存在する。
人間は入ることが許されていない聖域だ。
そこに壁などなく、聖獣の国へ戻れば、壁を越えずとも西の国へ渡ることが可能だ。
だが西の国、南の国は魔力が少なく……、聖獣が暮らすには向いていない。
聖獣は魔力がなければ、生きていくことは出来ないからな。
だがこれだけ探しても見つからないのだ、壁の向こう側へ捜索を広げたとしても……手あたり次第壁の向こう側へ移動して探すとなれば、長居が出来ない為、何年もかかってしまうだろう。

明日も朝から彼女の捜索をしなければいけないが……なかなか寝付くことが出来ず、あれやこれや考えに耽る中、ふと微かに彼女の魔力を感じた。
それは本当に弱々しく……聖獣でなければ気がつかないほどだ。
私はそっと立ち上がると、後脚で強く土を蹴り上げると、洞窟の外へと飛び出した。

太陽は沈み、月の光が辺りを眩く照らす中、夜空には無数の星が煌めいていた。
そんな空を見上げながらに私はスッと瞳を閉じると、先ほど感じた魔力を探っていく。
これは……間違いなく彼女の魔力だ。
かなり遠くから……海の方か……?
私は彼女の魔力を探し当てると、そのまま山を全力疾走で、駆け抜けていった。

聖獣の森に人間の姿はない。
以前とこの国の王、セーフィロと手を組み、森へ人間を近づけさせないと約束した。
今までは人間が私を捕らえようと、煩わしい思いをしたが……今は気にせず森を駆け抜けられる。

人間の街へ降りると、私は人型の姿へと変化させた。
聖獣の姿の方が移動が速く楽だが……いかせんあの姿は目立つ。
私は二足歩行で海辺へと続く道を進んでいくと、感じる彼女の魔力が徐々に大きくなっていった。

そうして海辺へやってくると、黒く染まった海が静かに波打ち、湿った潮風が頬を濡らす。
夜も深い為か……辺りには誰の姿もない。
私は周辺を見渡しながらに砂浜を進んでいくと、夜空に小さな黒い点が月の真ん中に映し出された。
目を凝らすように視線を向けてみると、それはヒラヒラと羽ばたく小さな黒蝶。
それは紛れもなく彼女の伝書蝶だった。

伝書蝶は私の頭の上を通過していくと、城の方へ羽ばたいていく。
その姿に一抹の寂しさを覚える中、私は思わず手を伸ばすと、彼女の姿を思い浮かべた。
あの蝶は私に宛た物ではない……。
届く前に手に入れたいが……黒蝶は送り主以外に触れる事は出来ない。
彼女は城の誰かに、伝書蝶を……エヴァンだろうか。
私は去って行く黒蝶を追うように足を進めると、城へと続く道を進んでいった。
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