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第五章
新章2:捕らえられた先に
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ふと強い風が部屋へ入り込んできたかと思うと、突然に大きな魔力が辺り全体を覆った。
なっ、何!?
魔力がどんどん溢れていく……ッッ。
私は慌てて自身を防御魔法で纏うと、窓から勢いよく飛び退いた。
これほどの魔力……ノエル……?
ハッと腕へ視線を向けると、ミサンガから微かに魔力の流れを感じる。
辺りを窺うように神経を尖らせていると、仕切りの向こう側からパトリシアが顔を出した。
「ぅふぁ~魔法使い様、どうかされたのですかぁ~?」
眠そうなその声に顔を向けると、彼女は眠気眼を擦りながらに顔を上げる。
そうだったわ……彼女たちは魔力を感じられない。
「緊急事態よ!魔力が……いえ、魔法がこのラボ全体を覆っているわ」
彼女は私の言葉に大きく目を見開くと、何かを探す様に辺りをキョロキョロと見渡した。
そんなパトリシアをすぐに防御魔法で覆うと、私は魔力の道筋をたどっていく。
どこから魔力が……彼はどこにいるの?
警戒しながらに慎重に扉の方へ近づいて行く中、また強い風が窓から吹き込むと、大きくカーテンをなびかせた。
先ほどよりも激しい強風にベッドの布団が吹き飛ばされ、机や椅子がガタンッと音を立て倒れていく。
棚に飾られていた花瓶が床へ落ち、バリンッと大きな音が響くと、水と陶器の破片が辺りへ散らばった。
身構えながらに開け放たれた窓の方へ目を凝らす中、風でセミロングの髪が視界を遮ると、私は慌てて払いのける。
その刹那、部屋の中に魔力が一気に溢れ出すと、コトッと小さな足音が耳にとどいた。
「やぁ、やぁ、パトリシア殿。久方ぶりだねぇ~」
響いた明るい声に顔を向けると、窓の傍に薄っすらと人影が浮かび上がる。
すると部屋を荒らしていた突風が嘘のように消え、静寂が部屋を包みこんだ。
「その声は……ッッノエル!?どうしてこの場所に?どうやって入り込んだっていうの!?ここには国随一の結界師を集めているのよ!」
パトリシアは信じられないと言わんばかりに、大きく目を見開くと暗がりに浮かぶ人影を見つめていた。
「いやぁ~大変だったよ。さすが城が認めた結界師たちだねぇ」
彼女はその言葉に小さく舌打ちをすると、私の傍へと駆け寄ってくる。
そのままノエルから守るように私の前へ佇むと、どこから取り出したのか……ナイフで自分の腕を切り付けた。
「ちょっと……ッッ」
血がポタポタと床へ落ちていく中、その血は形を変え彼女の前に円を作り始める。
遣い魔が形成されていくその様に目を見張っていると、球体に包み込まれた真っ赤な血の海に魚の姿が現れた。
紅白模様で口の横に二本の髭、現れた魚はまるで鯉のような姿をし、血の海を高く飛び跳ねる。
これは……魚型?
確か……防御能力が高いのだったかしら……。
それよりも彼女は魔法使いなのに、遣い魔も召喚する事ができるのね。
なら私にも可能なのかしら……でもナイフで傷を作るのはちょっと抵抗があるわ……。
カミールも彼女も平気そうにしているけれど、絶対に痛いはずよ。
「周辺に配置していた結界師たちをどうしたの?」
「ははっ、ちょっと眠ってもらったんだ。殺してはいない。……協定条約はまだ破っていないよ」
えっ、協定条約?
どうしてこんな男と国が手を組んでいるの?
「なんで……ッッ、魔法は結界師達には効かないはずなのに……」
「私の仲間にとても優秀な遣い魔使いが居るからねぇ。彼にちょっとお願いをしたんだ。それよりもだ、与太話はそれぐらいに、彼女を渡してもらえないかな?」
二人の会話に狼狽する中、人影がゆっくりとこちらに近づいてくると、暗闇の中に青い瞳が薄っすらと浮かび上がる。
「嫌よ、渡さないわ。彼女は城の人間よ、手出ししないで」
「それは出来ないね。力があるのはこちらの方だ。君たちは私達には勝てない。彼女を渡さないというなら、ここにいる全ての人間に死んでもらう。先に言っておくが、今このラボに居る人間は私の魔法で眠っている。……逃がすことは出来ないよ」
「……ッッ、どうしてそんなに彼女を必要とするの?一体あなたは何を企んでいるのよ!」
「ははっ、それは教えられないね。まぁ~君たちには関係のない事だ」
ノエルはコツコツとゆっくりこちらへ近づいてくると、血の海に浮かぶ鯉を見上げた。
「美しくそして強い遣い魔だ。これを破るには一筋縄ではいかないね。だけど……」
ノエルそこで言葉を止めると、私へ向かって手を差し伸べた。
真っ青な瞳がじっと私を見つめる中、彼は優し気な笑みを浮かべると、辺りに風が吹きあがった。
「さぁ、その防御魔法を解いて私の手を取りなさい。さもなくば君の大切な友人や、このラボに居る人間……そして彼女も死ぬことになるよ」
「魔法使い様いけません!ここに居れば安全です。私たちは弱くない、だからこの男のすきにはさせません」
そう強く宣言すると、パトリシアの周りに魔力が溢れていく。
血の海が広がり部屋一面が染まっていくと、数匹の鯉がノエルの周りを飛び跳ねていった。
なっ、何!?
魔力がどんどん溢れていく……ッッ。
私は慌てて自身を防御魔法で纏うと、窓から勢いよく飛び退いた。
これほどの魔力……ノエル……?
ハッと腕へ視線を向けると、ミサンガから微かに魔力の流れを感じる。
辺りを窺うように神経を尖らせていると、仕切りの向こう側からパトリシアが顔を出した。
「ぅふぁ~魔法使い様、どうかされたのですかぁ~?」
眠そうなその声に顔を向けると、彼女は眠気眼を擦りながらに顔を上げる。
そうだったわ……彼女たちは魔力を感じられない。
「緊急事態よ!魔力が……いえ、魔法がこのラボ全体を覆っているわ」
彼女は私の言葉に大きく目を見開くと、何かを探す様に辺りをキョロキョロと見渡した。
そんなパトリシアをすぐに防御魔法で覆うと、私は魔力の道筋をたどっていく。
どこから魔力が……彼はどこにいるの?
警戒しながらに慎重に扉の方へ近づいて行く中、また強い風が窓から吹き込むと、大きくカーテンをなびかせた。
先ほどよりも激しい強風にベッドの布団が吹き飛ばされ、机や椅子がガタンッと音を立て倒れていく。
棚に飾られていた花瓶が床へ落ち、バリンッと大きな音が響くと、水と陶器の破片が辺りへ散らばった。
身構えながらに開け放たれた窓の方へ目を凝らす中、風でセミロングの髪が視界を遮ると、私は慌てて払いのける。
その刹那、部屋の中に魔力が一気に溢れ出すと、コトッと小さな足音が耳にとどいた。
「やぁ、やぁ、パトリシア殿。久方ぶりだねぇ~」
響いた明るい声に顔を向けると、窓の傍に薄っすらと人影が浮かび上がる。
すると部屋を荒らしていた突風が嘘のように消え、静寂が部屋を包みこんだ。
「その声は……ッッノエル!?どうしてこの場所に?どうやって入り込んだっていうの!?ここには国随一の結界師を集めているのよ!」
パトリシアは信じられないと言わんばかりに、大きく目を見開くと暗がりに浮かぶ人影を見つめていた。
「いやぁ~大変だったよ。さすが城が認めた結界師たちだねぇ」
彼女はその言葉に小さく舌打ちをすると、私の傍へと駆け寄ってくる。
そのままノエルから守るように私の前へ佇むと、どこから取り出したのか……ナイフで自分の腕を切り付けた。
「ちょっと……ッッ」
血がポタポタと床へ落ちていく中、その血は形を変え彼女の前に円を作り始める。
遣い魔が形成されていくその様に目を見張っていると、球体に包み込まれた真っ赤な血の海に魚の姿が現れた。
紅白模様で口の横に二本の髭、現れた魚はまるで鯉のような姿をし、血の海を高く飛び跳ねる。
これは……魚型?
確か……防御能力が高いのだったかしら……。
それよりも彼女は魔法使いなのに、遣い魔も召喚する事ができるのね。
なら私にも可能なのかしら……でもナイフで傷を作るのはちょっと抵抗があるわ……。
カミールも彼女も平気そうにしているけれど、絶対に痛いはずよ。
「周辺に配置していた結界師たちをどうしたの?」
「ははっ、ちょっと眠ってもらったんだ。殺してはいない。……協定条約はまだ破っていないよ」
えっ、協定条約?
どうしてこんな男と国が手を組んでいるの?
「なんで……ッッ、魔法は結界師達には効かないはずなのに……」
「私の仲間にとても優秀な遣い魔使いが居るからねぇ。彼にちょっとお願いをしたんだ。それよりもだ、与太話はそれぐらいに、彼女を渡してもらえないかな?」
二人の会話に狼狽する中、人影がゆっくりとこちらに近づいてくると、暗闇の中に青い瞳が薄っすらと浮かび上がる。
「嫌よ、渡さないわ。彼女は城の人間よ、手出ししないで」
「それは出来ないね。力があるのはこちらの方だ。君たちは私達には勝てない。彼女を渡さないというなら、ここにいる全ての人間に死んでもらう。先に言っておくが、今このラボに居る人間は私の魔法で眠っている。……逃がすことは出来ないよ」
「……ッッ、どうしてそんなに彼女を必要とするの?一体あなたは何を企んでいるのよ!」
「ははっ、それは教えられないね。まぁ~君たちには関係のない事だ」
ノエルはコツコツとゆっくりこちらへ近づいてくると、血の海に浮かぶ鯉を見上げた。
「美しくそして強い遣い魔だ。これを破るには一筋縄ではいかないね。だけど……」
ノエルそこで言葉を止めると、私へ向かって手を差し伸べた。
真っ青な瞳がじっと私を見つめる中、彼は優し気な笑みを浮かべると、辺りに風が吹きあがった。
「さぁ、その防御魔法を解いて私の手を取りなさい。さもなくば君の大切な友人や、このラボに居る人間……そして彼女も死ぬことになるよ」
「魔法使い様いけません!ここに居れば安全です。私たちは弱くない、だからこの男のすきにはさせません」
そう強く宣言すると、パトリシアの周りに魔力が溢れていく。
血の海が広がり部屋一面が染まっていくと、数匹の鯉がノエルの周りを飛び跳ねていった。
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