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第五章
新章5:10日間
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リュックから顔出しなるべく動かないよう気を付ける。
外へ出ると、魔法の明かりが街を照らす様は、生まれた世界でいう夜の街そんな雰囲気だった。
黒髪に黒い瞳の人々が行き交い混雑し、時折赤髪や白い髪、緑の瞳や青の瞳を持つ人々も交じっている。
その様は私が生まれ育った世界とよく似ていた。
感慨深い気持ちで眺めていると、人の多さに頭がクラクラしてくる。
人ごみに酔い空を見上げると、最初に見たドームの天井は見えず、何層にも重なったカラフルな幕が広がっていた。
赤、白、青、黄、重なったその層はユラユラと揺れ美しい光を放っている。
綺麗……、まるで都会に浮かぶオーロラみたい。
魅入るように眺めていると、甘く美味しそうな香りが鼻孔を擽った。
視線を前へ戻すと、そこにはピエロのような仮装をした人が、子供たちにお菓子を配っている。
パンケーキのような丸い生地に、ピンク色の鮮やかなソース。
美味しそう、そう思うとぬいぐるみにはいないはずの腹の虫がグゥ~と音をたてる。
その音にリョウは驚いた様子で振り返ると、パチリと目が合い、肩を震わせ笑い始めた。
「ははっ、そんななりでもお腹は空くんだね」
恥ずかしさのあまり頭を垂れると、動かないでと釘を刺される。
彼はリュックを下ろし、私の体を中へ詰め込むとチャックを閉めた。
暗闇の中、甘い匂いが隙間から入ってくる。
その香りにまたグゥ~と音が鳴ると、私はお腹を押さえた。
「大人しくしててね。食べられるかわからないけど、買ってあげるよ」
リョウはカバン越しに話すと、リュックがガタガタと大きく揺れる。
先ほどのピエロ男に近づいて行っているのだろうか、キャキャとはしゃぐ子供たちの声が大きくなった。
外の様子がどうなっているのかわからないけれど、子供たちの楽しそうな声に耳を澄ませる。
(それ僕の~)
(私がママに買ってもらったのよ!)
(パパ、これ美味しいね~)
(ねぇねぇ、ママ買って、買ってってば~)
こうして子供の声を聞くのは久しぶりな気がする。
最近色々と忙しくて、こうして声を聞く事なんて出来なかったわ。
心地よい子供たちの声に心を休ませていると、大人の声が耳にとどいた。
「よっ、リョウじゃねぇか。ケーキ飴が欲しいのか?」
「あぁ、久しぶりに食べたいなと思って。一つ頂戴」
「へぇ~珍しいな。今日はどこへ行くんだ?」
「ちょっとね、それよりも早く売ってほしいんだけど~」
あのピエロと知り合いだったようで、二人は他愛の無い話を始める。
会話に耳を傾けていると、学校の話が始まり、リョウはどうやら学生だということがわかった。
買い物が終わったのか、リュックがまた揺れだし暫くするとパカッと天井が開く。
そっと見上げると、体が持ち上げられ外へと出された。
「ごめんね、退屈だったでしょう」
彼は私を膝の上に置くと、リュックで私の姿を隠した。
一口サイズほどにちぎられたお菓子を差し出されると、丸い手で受け取る。
美味しそうね、だけどこの体で食べられるのかしら?
消化器官はないように思うけれど……。
食べようかどうか悩んでいると、頭上からまた笑い声がとどく。
「とりあえず食べてみたら?」
ケラケラと楽しそうに笑う彼を見上げると、私はパクッと頬張った。
ペタペタとしたピンク色の雨が布に張り付き、舌がないので味もしない。
こんなに美味しそうな香りがするのに……残念だわ。
肩を落としお菓子を見つめていると、彼は私の口元へ手を当て魔力を流した。
「なっ、なに!?」
「ふふっ、もう一回食べてみて」
彼はニカッと笑うと、お菓子を口元へと寄せる。
ピンクのソースが布付ペタペタする中、パクッと口を開けると砂糖菓子のようにお菓子が口の中で溶けた。
その瞬間、お菓子の味が口いっぱいに広がると、思わず笑みが漏れる。
「美味しいわ、ありがとう」
「それはよかった。じゃぁ行こうか」
彼は私をリュックへ戻し肩へ掛けると、歩き始めた。
暫く歩いていると、突然街中に大きな鐘の音が響く。
耳をつんざく音に思わずリュックの中へ潜るが、鐘の音は鳴りやまない。
ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン。
何なのこの音、大きすぎるわ、頭に響く……ッッ。
音が静まるまでじっとリュックの中へ籠っていると、彼はリュックを下ろしカバンを開ける。
「着いたよ、ってどうしたの?」
「……鐘の音が……うるさすぎて……」
頭痛に頭がクラクラしていると、彼からまた魔力を感じた。
すると音が小さくなり、呼吸が楽になる。
「大丈夫?」
「えぇ、ありがとう……あの鐘の音は一体なんなの?」
「あれは終わりと始まりの音。一日がおわり、また新たな一日が始まる合図だ。エリナは……本当に何も知らないんだね。まるで……いや、何んでもない」
彼は誤魔化す様に笑うと、人目を気にしながら私を持ち上げた。
目の前に映ったのは、城というよりもバッキンガム宮殿とよく似た建物。
しかし本物の宮殿とは違い、建物全てが漆黒。
庭に咲き誇る花も、全てが黒く、怪しい雰囲気が漂っていた。
彼は私を下げたまま宮殿の壁沿いを進むと、鉄格子の前にやってくる。
「ここに忍び込んでもらいたいんだ。その前に……魔力を扱う練習が必要だと思うけど。ほらあれ見て、黒い制服の衛兵がいるでしょう。あそこの真下に地下へ続く通気口があるんだ。彼らに気づかれずに、網を潜って中へ入って後は一直線。結構簡単でしょう」
彼の指先を追っていくと、そこには4人の衛兵がいた。
通気口はここからでは見えないが、あの4人の目をかいくぐって網を潜るなんて出来るのかしら……。
簡単だと話す彼を見上げると、頑張ってよねと励まされたのだった。
**********************************************
お久しぶりです、お読み頂きまして、ありがとうございます。
ダラダラとなかなかお話が進まなくてごめんなさい(-_-;)
もう少しすればサクサクとストーリーが進みますが……次回はエレナ視点のお話です。
彼女のお話を楽しんで頂ければ嬉しいです(*'ω'*)
外へ出ると、魔法の明かりが街を照らす様は、生まれた世界でいう夜の街そんな雰囲気だった。
黒髪に黒い瞳の人々が行き交い混雑し、時折赤髪や白い髪、緑の瞳や青の瞳を持つ人々も交じっている。
その様は私が生まれ育った世界とよく似ていた。
感慨深い気持ちで眺めていると、人の多さに頭がクラクラしてくる。
人ごみに酔い空を見上げると、最初に見たドームの天井は見えず、何層にも重なったカラフルな幕が広がっていた。
赤、白、青、黄、重なったその層はユラユラと揺れ美しい光を放っている。
綺麗……、まるで都会に浮かぶオーロラみたい。
魅入るように眺めていると、甘く美味しそうな香りが鼻孔を擽った。
視線を前へ戻すと、そこにはピエロのような仮装をした人が、子供たちにお菓子を配っている。
パンケーキのような丸い生地に、ピンク色の鮮やかなソース。
美味しそう、そう思うとぬいぐるみにはいないはずの腹の虫がグゥ~と音をたてる。
その音にリョウは驚いた様子で振り返ると、パチリと目が合い、肩を震わせ笑い始めた。
「ははっ、そんななりでもお腹は空くんだね」
恥ずかしさのあまり頭を垂れると、動かないでと釘を刺される。
彼はリュックを下ろし、私の体を中へ詰め込むとチャックを閉めた。
暗闇の中、甘い匂いが隙間から入ってくる。
その香りにまたグゥ~と音が鳴ると、私はお腹を押さえた。
「大人しくしててね。食べられるかわからないけど、買ってあげるよ」
リョウはカバン越しに話すと、リュックがガタガタと大きく揺れる。
先ほどのピエロ男に近づいて行っているのだろうか、キャキャとはしゃぐ子供たちの声が大きくなった。
外の様子がどうなっているのかわからないけれど、子供たちの楽しそうな声に耳を澄ませる。
(それ僕の~)
(私がママに買ってもらったのよ!)
(パパ、これ美味しいね~)
(ねぇねぇ、ママ買って、買ってってば~)
こうして子供の声を聞くのは久しぶりな気がする。
最近色々と忙しくて、こうして声を聞く事なんて出来なかったわ。
心地よい子供たちの声に心を休ませていると、大人の声が耳にとどいた。
「よっ、リョウじゃねぇか。ケーキ飴が欲しいのか?」
「あぁ、久しぶりに食べたいなと思って。一つ頂戴」
「へぇ~珍しいな。今日はどこへ行くんだ?」
「ちょっとね、それよりも早く売ってほしいんだけど~」
あのピエロと知り合いだったようで、二人は他愛の無い話を始める。
会話に耳を傾けていると、学校の話が始まり、リョウはどうやら学生だということがわかった。
買い物が終わったのか、リュックがまた揺れだし暫くするとパカッと天井が開く。
そっと見上げると、体が持ち上げられ外へと出された。
「ごめんね、退屈だったでしょう」
彼は私を膝の上に置くと、リュックで私の姿を隠した。
一口サイズほどにちぎられたお菓子を差し出されると、丸い手で受け取る。
美味しそうね、だけどこの体で食べられるのかしら?
消化器官はないように思うけれど……。
食べようかどうか悩んでいると、頭上からまた笑い声がとどく。
「とりあえず食べてみたら?」
ケラケラと楽しそうに笑う彼を見上げると、私はパクッと頬張った。
ペタペタとしたピンク色の雨が布に張り付き、舌がないので味もしない。
こんなに美味しそうな香りがするのに……残念だわ。
肩を落としお菓子を見つめていると、彼は私の口元へ手を当て魔力を流した。
「なっ、なに!?」
「ふふっ、もう一回食べてみて」
彼はニカッと笑うと、お菓子を口元へと寄せる。
ピンクのソースが布付ペタペタする中、パクッと口を開けると砂糖菓子のようにお菓子が口の中で溶けた。
その瞬間、お菓子の味が口いっぱいに広がると、思わず笑みが漏れる。
「美味しいわ、ありがとう」
「それはよかった。じゃぁ行こうか」
彼は私をリュックへ戻し肩へ掛けると、歩き始めた。
暫く歩いていると、突然街中に大きな鐘の音が響く。
耳をつんざく音に思わずリュックの中へ潜るが、鐘の音は鳴りやまない。
ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン。
何なのこの音、大きすぎるわ、頭に響く……ッッ。
音が静まるまでじっとリュックの中へ籠っていると、彼はリュックを下ろしカバンを開ける。
「着いたよ、ってどうしたの?」
「……鐘の音が……うるさすぎて……」
頭痛に頭がクラクラしていると、彼からまた魔力を感じた。
すると音が小さくなり、呼吸が楽になる。
「大丈夫?」
「えぇ、ありがとう……あの鐘の音は一体なんなの?」
「あれは終わりと始まりの音。一日がおわり、また新たな一日が始まる合図だ。エリナは……本当に何も知らないんだね。まるで……いや、何んでもない」
彼は誤魔化す様に笑うと、人目を気にしながら私を持ち上げた。
目の前に映ったのは、城というよりもバッキンガム宮殿とよく似た建物。
しかし本物の宮殿とは違い、建物全てが漆黒。
庭に咲き誇る花も、全てが黒く、怪しい雰囲気が漂っていた。
彼は私を下げたまま宮殿の壁沿いを進むと、鉄格子の前にやってくる。
「ここに忍び込んでもらいたいんだ。その前に……魔力を扱う練習が必要だと思うけど。ほらあれ見て、黒い制服の衛兵がいるでしょう。あそこの真下に地下へ続く通気口があるんだ。彼らに気づかれずに、網を潜って中へ入って後は一直線。結構簡単でしょう」
彼の指先を追っていくと、そこには4人の衛兵がいた。
通気口はここからでは見えないが、あの4人の目をかいくぐって網を潜るなんて出来るのかしら……。
簡単だと話す彼を見上げると、頑張ってよねと励まされたのだった。
**********************************************
お久しぶりです、お読み頂きまして、ありがとうございます。
ダラダラとなかなかお話が進まなくてごめんなさい(-_-;)
もう少しすればサクサクとストーリーが進みますが……次回はエレナ視点のお話です。
彼女のお話を楽しんで頂ければ嬉しいです(*'ω'*)
応援ありがとうございます!
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