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第五章
新章9:10日間
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彼女は呆れた表情を浮かべると、深く息を吐き出した。
「全く呆れた子ね……。リョウに何か弱みでも握られたの?……まぁいいわ、来てくれたお礼に教えてあげる」
彼女はニッコリ微笑むと、私の体を持ち上げ膝の上へ乗せた。
「なぜ私がここへ囚われているのか、それは私が黒魔導師の中で特別な力を持っているからよ」
「特別な力?」
「えぇ、黒魔の中に必ず一人現れる特別な存在、黒い靄を宿す黒魔導師よ。自分の身に危険が迫ると、黒い靄が全身からあふれ出し、主を守る為ならどんな殺戮も厭わない。相手が100人だろうが、1000人だろうが、主を守る為、黒い霧が全てを破壊し尽くす。抑える方法なんてないの。聞いてわかる通り、この力は危険で当の本人ですらコントロールできないの。危機が迫ると勝手に発動してしまう危険な存在。だからその力を持った者はこの城へ囚われ続ける」
そんな危険な力を……?
だけど彼は無罪だと言っていたわよね?
その力を持っていないと……これが彼の言っていた力の正体。
コントロールできない破壊の力。
外に出れば危険だということはすぐにわかる。
「だけど見てわかる通り、囚人という訳ではなくてね、外へは出られないだけで、扱いは王族並なのよ。
何がきっかけで発動するかわからないから、皆怖がっているのよ」
「待って、だけどリョウはあなたにその力はないとそう言っていたわ」
「えぇ……私にはその力はないわ。だけど私の子供、エレナがその力でお役人を殺してしまったのよ」
役人を?
それって……エレナの記憶でもみた事件と同じ。
だけど300年も前のことなんじゃ……?
「あの……エレナさんはどこにいるんですか?」
「ふふっ、エレナはこの世界にいないわ。この世界へ居れば一生ここに閉じ込められてしまうのよ。だから私の魔法で娘を別の世界へ飛ばしたの。それを役人たちに知られる訳にいかなかった。知られれば魔法を追ってエレナが連れ戻されてしまう。だから私がここへ捕まっているのよ」
まさか……こんな形で彼女の母親を見つけるなんて……。
「力がないことをどうやって隠したの?」
「それは簡単よ。力が発動すればその周りにいる全てが消えてしまう。だから証人もいない。その場に生き残った私がそうだと思わせるのは簡単。それに危険な力だから、使わせて試させたりできないでしょう。自白すれば簡単にここへ入れる。もし別の場所で見つかれば狂言だと罰せられるけれど、それはそれで構わない。だってエレナがどこかで生きている限りそれはない。私がここに居る限り、エレナが生きていると実感できるのよ」
エレナの死……あそこにいる彼女はまだ死んでいない?
300年……彼女がエレナの母だとしてどうして……?
もしかして時間の流れが違っている?
私の世界とあの世界が違ったように、この世界も違うのかもしれない。
「その事件はどれぐらい前の事なんですか?」
「そうね……私がここへ来て30年だから30年前ね。エレナには自由に生きてほしかった。こんな地下の部屋の中ではなくて、自由に羽ばたいてほしかったのよ。それがいけない事だとわかっていても……あの子は幸せに暮らしているかしら……ね」
彼女の記憶の映像であの世界から弾き飛ばされる直前、黒い靄が彼女を包みこんだ。
あれは彼女を守るためのもの。
ということは彼女は死んでいない、時空の狭間で生きているということ?
だけど世界へは入れない。
300年という長い年月を彼女はあの狭間で生き続けてきたというの?
30年……向こうの世界では300年、とういうことは時間の流れが10倍も違う。
だからノエルはあれほど長く生きられたのね。
エレナの血が流れているから、私の血がこの世界で長く生きられる理由と同じで彼もまた同じ……。
なら間違いないわ、目の前にいる彼女はエレナの母親。
それなら尚更助け出さないと。
エレナもきっと母がこんな場所に囚われているのを望んでいないはずだわ。
外の世界を見る事無く死ぬまで部屋に閉じ込められるなんて……。
だけど外へ出てどうするの?
追われる続ける人生なら、今とそんなに変わらないのかもしれない。
彼女をエレナがいた世界へ飛ばしても、彼女はもうその世界にはいない。
死んでいるわけではないが、世界から弾かれる……。
もし世界が受け入れてくれたのなら、彼女はもう一度あの世界へ戻れるの?
だけどその方法がわからない。
あっ、そうだわ、魔女に問いかければ何かわかるかもしれない。
彼女はあの世界の管理人、それだわ!
導き出した答えにハッと顔を上げると、彼女は不思議そうに首を傾げた。
「可愛いぬいぐるみさん、あなたが何者なのかはわからないけれど、こういう理由があるからここから出られないのよ。わざわざ来てくれたのに、ごめんなさいね」
彼女は悲し気に瞳を揺らすと、寂し気な笑みを浮かべる。
その笑みがエレナの姿と重なった。
「ダメよ。エレナはこんな事を望んでいないわ。彼女はあなたをずっと心配していたわ。だからここから出ましょう」
「……?どういうこと?」
彼女は眉を寄せると、私の瞳を覗き込んだ。
「あの……私はエレナが飛ばされたその世界からここへ来たんです。彼女から家族がどうなっているのか見てきてほしいと。彼女は理由があってこの世界には入れなくて、だから代わりにやってきたんです。だから私にはあなたを助ける義務があるわ」
彼女は目を瞠ると、掠れた声が響いた。
「そんな……嘘でしょう。エレナは元気なの?幸せなの?うまくやっていけている?……あんな飛ばし方をして……私を恨んでいるわよね……」
「そんなことありません!最初は戸惑ていたけれど、その世界にも魔法があって、大切な人に出会って幸せで……ッッ」
ノエルと過ごしていた彼女の笑みが頭を掠める。
間違いなく彼女はあの世界で幸せを知ったはず。
だけど今、彼女が時空の狭間で生き続けているとは言えない。
私があの世界から生き返れたように、きっと彼女も生き返ることができるはず。
そのためにも早く戻って壁を壊して、魔女に会いに行かなければ。
彼女はポロポロと美しい涙を零すと、私の体を強く強く抱きしめたのだった。
「全く呆れた子ね……。リョウに何か弱みでも握られたの?……まぁいいわ、来てくれたお礼に教えてあげる」
彼女はニッコリ微笑むと、私の体を持ち上げ膝の上へ乗せた。
「なぜ私がここへ囚われているのか、それは私が黒魔導師の中で特別な力を持っているからよ」
「特別な力?」
「えぇ、黒魔の中に必ず一人現れる特別な存在、黒い靄を宿す黒魔導師よ。自分の身に危険が迫ると、黒い靄が全身からあふれ出し、主を守る為ならどんな殺戮も厭わない。相手が100人だろうが、1000人だろうが、主を守る為、黒い霧が全てを破壊し尽くす。抑える方法なんてないの。聞いてわかる通り、この力は危険で当の本人ですらコントロールできないの。危機が迫ると勝手に発動してしまう危険な存在。だからその力を持った者はこの城へ囚われ続ける」
そんな危険な力を……?
だけど彼は無罪だと言っていたわよね?
その力を持っていないと……これが彼の言っていた力の正体。
コントロールできない破壊の力。
外に出れば危険だということはすぐにわかる。
「だけど見てわかる通り、囚人という訳ではなくてね、外へは出られないだけで、扱いは王族並なのよ。
何がきっかけで発動するかわからないから、皆怖がっているのよ」
「待って、だけどリョウはあなたにその力はないとそう言っていたわ」
「えぇ……私にはその力はないわ。だけど私の子供、エレナがその力でお役人を殺してしまったのよ」
役人を?
それって……エレナの記憶でもみた事件と同じ。
だけど300年も前のことなんじゃ……?
「あの……エレナさんはどこにいるんですか?」
「ふふっ、エレナはこの世界にいないわ。この世界へ居れば一生ここに閉じ込められてしまうのよ。だから私の魔法で娘を別の世界へ飛ばしたの。それを役人たちに知られる訳にいかなかった。知られれば魔法を追ってエレナが連れ戻されてしまう。だから私がここへ捕まっているのよ」
まさか……こんな形で彼女の母親を見つけるなんて……。
「力がないことをどうやって隠したの?」
「それは簡単よ。力が発動すればその周りにいる全てが消えてしまう。だから証人もいない。その場に生き残った私がそうだと思わせるのは簡単。それに危険な力だから、使わせて試させたりできないでしょう。自白すれば簡単にここへ入れる。もし別の場所で見つかれば狂言だと罰せられるけれど、それはそれで構わない。だってエレナがどこかで生きている限りそれはない。私がここに居る限り、エレナが生きていると実感できるのよ」
エレナの死……あそこにいる彼女はまだ死んでいない?
300年……彼女がエレナの母だとしてどうして……?
もしかして時間の流れが違っている?
私の世界とあの世界が違ったように、この世界も違うのかもしれない。
「その事件はどれぐらい前の事なんですか?」
「そうね……私がここへ来て30年だから30年前ね。エレナには自由に生きてほしかった。こんな地下の部屋の中ではなくて、自由に羽ばたいてほしかったのよ。それがいけない事だとわかっていても……あの子は幸せに暮らしているかしら……ね」
彼女の記憶の映像であの世界から弾き飛ばされる直前、黒い靄が彼女を包みこんだ。
あれは彼女を守るためのもの。
ということは彼女は死んでいない、時空の狭間で生きているということ?
だけど世界へは入れない。
300年という長い年月を彼女はあの狭間で生き続けてきたというの?
30年……向こうの世界では300年、とういうことは時間の流れが10倍も違う。
だからノエルはあれほど長く生きられたのね。
エレナの血が流れているから、私の血がこの世界で長く生きられる理由と同じで彼もまた同じ……。
なら間違いないわ、目の前にいる彼女はエレナの母親。
それなら尚更助け出さないと。
エレナもきっと母がこんな場所に囚われているのを望んでいないはずだわ。
外の世界を見る事無く死ぬまで部屋に閉じ込められるなんて……。
だけど外へ出てどうするの?
追われる続ける人生なら、今とそんなに変わらないのかもしれない。
彼女をエレナがいた世界へ飛ばしても、彼女はもうその世界にはいない。
死んでいるわけではないが、世界から弾かれる……。
もし世界が受け入れてくれたのなら、彼女はもう一度あの世界へ戻れるの?
だけどその方法がわからない。
あっ、そうだわ、魔女に問いかければ何かわかるかもしれない。
彼女はあの世界の管理人、それだわ!
導き出した答えにハッと顔を上げると、彼女は不思議そうに首を傾げた。
「可愛いぬいぐるみさん、あなたが何者なのかはわからないけれど、こういう理由があるからここから出られないのよ。わざわざ来てくれたのに、ごめんなさいね」
彼女は悲し気に瞳を揺らすと、寂し気な笑みを浮かべる。
その笑みがエレナの姿と重なった。
「ダメよ。エレナはこんな事を望んでいないわ。彼女はあなたをずっと心配していたわ。だからここから出ましょう」
「……?どういうこと?」
彼女は眉を寄せると、私の瞳を覗き込んだ。
「あの……私はエレナが飛ばされたその世界からここへ来たんです。彼女から家族がどうなっているのか見てきてほしいと。彼女は理由があってこの世界には入れなくて、だから代わりにやってきたんです。だから私にはあなたを助ける義務があるわ」
彼女は目を瞠ると、掠れた声が響いた。
「そんな……嘘でしょう。エレナは元気なの?幸せなの?うまくやっていけている?……あんな飛ばし方をして……私を恨んでいるわよね……」
「そんなことありません!最初は戸惑ていたけれど、その世界にも魔法があって、大切な人に出会って幸せで……ッッ」
ノエルと過ごしていた彼女の笑みが頭を掠める。
間違いなく彼女はあの世界で幸せを知ったはず。
だけど今、彼女が時空の狭間で生き続けているとは言えない。
私があの世界から生き返れたように、きっと彼女も生き返ることができるはず。
そのためにも早く戻って壁を壊して、魔女に会いに行かなければ。
彼女はポロポロと美しい涙を零すと、私の体を強く強く抱きしめたのだった。
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