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第五章
最終話:エレナのために
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突き放すようなエヴァンの様に戸惑いを隠せない。
待たせ過ぎてしまったかしら……。
ズキッと痛む胸を押さえていると、こちらをじっと見つめるカミールとシナンの姿が映った。
そうだわ、彼らの事を説明しないと。
この間の誤解されたままだわ。
私にとってはこの間な感覚だけれども、エヴァンからすると3か月以上経過しているのよね……。
ともかく誤解を解かないと。
背を向ける彼へ手を伸ばした刹那、強い風が吹き荒れると壮大な魔力が現れる。
「なっ、なに!?」
森の木々が激しく揺れ、緊張が走る。
魔力を感じる方へ振り返ると、エヴァンが私の腕を引き寄せた。
そのまま胸に閉じ込めると、守る様に杖を前に掲げる。
戸惑いながらも伝わる熱にそっと顔を上げると、エメラルドの瞳に胸が小さく高鳴った。
「あらあら、すごいじゃない~」
落ち葉が激しく舞う中、声を頼りに顔を上げると、真っ赤な髪に琥珀色の瞳が映った。
風で体を浮かせているのだろう、空からゆっくりと舞い降りてくる。
「魔女!?どっ、どうしてここに!?」
「どうしてかしらね~。それよりも壁が壊れているじゃない。これはあなたが壊したの?すごいわねぇ~。ふふふ」
魔女は真っ赤な髪をかき上げると、ゆっくりと私の前へ降り立った。
エヴァンは抱きしめる腕を強めると、鋭く魔女を睨みつける。
「迷宮の魔女がなんの御用ですか?」
「ふふふ、怖いわね~別に取って食ったりしないわよ。それよりも私が知りたいわ~。世界の声にここへ行けと言われてきただけよ。本当にどうして私がここへ呼ばれたのかしら?壁は破壊できているみたいだし、何か心当たりはない?」
魔女はニッコリと妖麗な笑みを浮かべると、エヴァンを押しのけ魔力の帯びた指先が私の頬へ触れる。
呼ばれた理由に心当たりはないわ。
だけどこれは好都合、会いに行く手間が省けた。
私はエヴァンへ頷くと、そっと離れ前へ進み出る。
「久しぶりね。どうしてあなたがここへ呼ばれたのか心当たりはないわ。だけど個人的にあなたへ聞きたいことがあるの。……エレナをこの世界へ戻すすべがあるのかしら?」
魔女は怪訝に眉を寄せると、そっと頬から手を離す。
「エレナ?どちらさんかしら?」
「時空の審判者、この壁を創造した300年前の大魔導士よ」
魔女は数秒考え込むと、思い出した様子で軽く手を叩いた。
「あー彼女ね。今更どうして?壁の破壊は終わったでしょ?」
私は首を横へ振ると、琥珀色の瞳を真っすぐに見つめる。
「彼女の家族をここへ召喚するわ。だから一緒に暮らせるようにしてあげたいの。彼女には世界をただそうとした時、そして今回も色々協力してもらったわ。それに何百年もあんな場所で……もう十分じゃないの?」
魔女は深く息を吐きだすと、腕を組み呆れた表情を浮かべた。
「ふぅ~召喚ね、また壮大なことをやろうとしているじゃない。異世界から来た人間はみんなそうなのかしら。そうねー出来なくはないけれど……一つだけ条件があるわ」
「条件?」
「あなたの魔力を頂くわ。この世界で得た魔力全てをね。あなたはもともと魔力を持っていなかったでしょ。だから魔力を奪えばあなたは元居た世界と同じ、魔力が全くない人間に戻るわ。魔力があるこの世界で生きづらいと思うけれど、それでもいいの?」
魔力がなくなる?
両手を広げ見つめると、自分の中に流れる魔力を感じた。
タクミにもらった魔力……。
魔法がない世界で過ごしていた私にとって、魔力は新鮮で楽しかった。
だけどタクミを救い出した今、もう魔力は必要なのかもしれない。
残念な気持ちもあるけれど、エレナのためなら惜しくない。
タクミを救い出すときも、世界を変えたときも、私がこの世界でもう一度やり直すことができたのも、全て彼女がいたから。
「いいわ。だけどその前に召喚だけさせてほしいの。すぐに終わらせるから……エヴァン、アーサー様をここへ呼んでこられるかしら?召喚には王族の許可が必要でしょ」
エヴァンへ問いかけると、魔女が可笑しそうに笑った。
「ふふふっ、わざわざアーサーを呼ぶ必要はないんじゃない。だって王族ならあなたの後ろにいるじゃない」
私は驚き振り返ると、視線の先にカミールの姿。
「えぇ!?まさか……カミールが王族……?」
カミールはチッと舌打ちをすると、不機嫌そうに顔を歪める。
「ふふふ、知らなかったのね。彼の許可をもらえれば召喚できるわ」
「本当なの……?」
恐る恐る問いかけてみると、彼はくしゃっと髪を乱した。
「……まぁな」
彼が王族だったなんて……。
だけど城での慣れた態度、パトリシアの意味深な態度や言葉はそういうことだったのね……。
剣の実力は素晴らしいけれど……あちこちへ飛び回り自由奔放で女癖の悪い王子様で大丈夫なのかしら……。
「カミールが王子だなんて……世も末だわ」
ボソッと本音を呟くと、カミールはげんこつを作り私の頭を軽く小突く。
「どうして知っているんだ?」
「ふふふ~魔女はなんでも知っているのよ~」
不機嫌そうなカミールの様子を窺いながら、私はそっと彼の視界へ入る。
「カミール、召喚する許可がほしいのだけれども」
カミールはこちらへ視線を合わせると、何かを思いついたのか……ニヤリと嫌な笑いを浮かべた。
待たせ過ぎてしまったかしら……。
ズキッと痛む胸を押さえていると、こちらをじっと見つめるカミールとシナンの姿が映った。
そうだわ、彼らの事を説明しないと。
この間の誤解されたままだわ。
私にとってはこの間な感覚だけれども、エヴァンからすると3か月以上経過しているのよね……。
ともかく誤解を解かないと。
背を向ける彼へ手を伸ばした刹那、強い風が吹き荒れると壮大な魔力が現れる。
「なっ、なに!?」
森の木々が激しく揺れ、緊張が走る。
魔力を感じる方へ振り返ると、エヴァンが私の腕を引き寄せた。
そのまま胸に閉じ込めると、守る様に杖を前に掲げる。
戸惑いながらも伝わる熱にそっと顔を上げると、エメラルドの瞳に胸が小さく高鳴った。
「あらあら、すごいじゃない~」
落ち葉が激しく舞う中、声を頼りに顔を上げると、真っ赤な髪に琥珀色の瞳が映った。
風で体を浮かせているのだろう、空からゆっくりと舞い降りてくる。
「魔女!?どっ、どうしてここに!?」
「どうしてかしらね~。それよりも壁が壊れているじゃない。これはあなたが壊したの?すごいわねぇ~。ふふふ」
魔女は真っ赤な髪をかき上げると、ゆっくりと私の前へ降り立った。
エヴァンは抱きしめる腕を強めると、鋭く魔女を睨みつける。
「迷宮の魔女がなんの御用ですか?」
「ふふふ、怖いわね~別に取って食ったりしないわよ。それよりも私が知りたいわ~。世界の声にここへ行けと言われてきただけよ。本当にどうして私がここへ呼ばれたのかしら?壁は破壊できているみたいだし、何か心当たりはない?」
魔女はニッコリと妖麗な笑みを浮かべると、エヴァンを押しのけ魔力の帯びた指先が私の頬へ触れる。
呼ばれた理由に心当たりはないわ。
だけどこれは好都合、会いに行く手間が省けた。
私はエヴァンへ頷くと、そっと離れ前へ進み出る。
「久しぶりね。どうしてあなたがここへ呼ばれたのか心当たりはないわ。だけど個人的にあなたへ聞きたいことがあるの。……エレナをこの世界へ戻すすべがあるのかしら?」
魔女は怪訝に眉を寄せると、そっと頬から手を離す。
「エレナ?どちらさんかしら?」
「時空の審判者、この壁を創造した300年前の大魔導士よ」
魔女は数秒考え込むと、思い出した様子で軽く手を叩いた。
「あー彼女ね。今更どうして?壁の破壊は終わったでしょ?」
私は首を横へ振ると、琥珀色の瞳を真っすぐに見つめる。
「彼女の家族をここへ召喚するわ。だから一緒に暮らせるようにしてあげたいの。彼女には世界をただそうとした時、そして今回も色々協力してもらったわ。それに何百年もあんな場所で……もう十分じゃないの?」
魔女は深く息を吐きだすと、腕を組み呆れた表情を浮かべた。
「ふぅ~召喚ね、また壮大なことをやろうとしているじゃない。異世界から来た人間はみんなそうなのかしら。そうねー出来なくはないけれど……一つだけ条件があるわ」
「条件?」
「あなたの魔力を頂くわ。この世界で得た魔力全てをね。あなたはもともと魔力を持っていなかったでしょ。だから魔力を奪えばあなたは元居た世界と同じ、魔力が全くない人間に戻るわ。魔力があるこの世界で生きづらいと思うけれど、それでもいいの?」
魔力がなくなる?
両手を広げ見つめると、自分の中に流れる魔力を感じた。
タクミにもらった魔力……。
魔法がない世界で過ごしていた私にとって、魔力は新鮮で楽しかった。
だけどタクミを救い出した今、もう魔力は必要なのかもしれない。
残念な気持ちもあるけれど、エレナのためなら惜しくない。
タクミを救い出すときも、世界を変えたときも、私がこの世界でもう一度やり直すことができたのも、全て彼女がいたから。
「いいわ。だけどその前に召喚だけさせてほしいの。すぐに終わらせるから……エヴァン、アーサー様をここへ呼んでこられるかしら?召喚には王族の許可が必要でしょ」
エヴァンへ問いかけると、魔女が可笑しそうに笑った。
「ふふふっ、わざわざアーサーを呼ぶ必要はないんじゃない。だって王族ならあなたの後ろにいるじゃない」
私は驚き振り返ると、視線の先にカミールの姿。
「えぇ!?まさか……カミールが王族……?」
カミールはチッと舌打ちをすると、不機嫌そうに顔を歪める。
「ふふふ、知らなかったのね。彼の許可をもらえれば召喚できるわ」
「本当なの……?」
恐る恐る問いかけてみると、彼はくしゃっと髪を乱した。
「……まぁな」
彼が王族だったなんて……。
だけど城での慣れた態度、パトリシアの意味深な態度や言葉はそういうことだったのね……。
剣の実力は素晴らしいけれど……あちこちへ飛び回り自由奔放で女癖の悪い王子様で大丈夫なのかしら……。
「カミールが王子だなんて……世も末だわ」
ボソッと本音を呟くと、カミールはげんこつを作り私の頭を軽く小突く。
「どうして知っているんだ?」
「ふふふ~魔女はなんでも知っているのよ~」
不機嫌そうなカミールの様子を窺いながら、私はそっと彼の視界へ入る。
「カミール、召喚する許可がほしいのだけれども」
カミールはこちらへ視線を合わせると、何かを思いついたのか……ニヤリと嫌な笑いを浮かべた。
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