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第五章
最終話:帰ってきた場所
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エヴァンがその背を追いかけていく姿に、微笑ましい気持ちが込み上げる。
ふふふっ、アーサーは随分丸くなったみたいね。
あんな姿初めて見たわ。
二人のじゃれ合いをみつめていると、パトリシアに連れられ西の国の王女がやってきた。
「あららら、壁が壊れているじゃない。それよりもいつ戻ってきたの?あなたノエルに捕らわれていたのではないの?まぁ~何はともあれ無事でよかったわ」
赤いヒールで器用に瓦礫を超えながらこちら側へやってくると、ぐるりと辺りを見渡した。
「ごきげんよう、あなたがノーバード王子かしら?」
王女は妖麗な笑みを浮かべると、品定めするように上から下までゆっくりと眺める。
ノーバードはその視線にニッコリ爽やかな笑みを浮かべると、紳士の礼をとった。
「ごきげんよう、その通り。あなたは西の国の王女様かな。声からの印象通り気がつよ……おっと失礼、声と同様に気品があり高貴ある美しい方だ」
彼の言葉に王女は口角をピクピク動かすと、ニッコリと笑みを深めた。
「ふふふ、そういって頂けて嬉しいですわ。あなたも声からの印象通り貧弱な優男という感じですわね~」
王女と同じくピキピキと王子のこめかみに皺が寄ると、不穏な空気が漂い始める。
「まったく口の減らない女だ」
「喧嘩をうってきたのはそちらでしょう?おしゃべりな男は見苦しいですわよ」
バチバチと火花が舞い始める様にパトリシアが慌てて間に入ると、王女を引きはがす。
ノーバードは疲れた様子でため息をつくと、私の方へ顔を向けた。
「すまない、お見苦しいところを見せてしまったね。ところで壁もこうして破壊できたことだし、今日のところは東の国で休んでいくといい」
「ちょっと待ちなさいよ、彼女は西の国へ戻るのよ。だって彼女はカミールの婚約者ですもの」
とんでもない言葉に目が点になると、私は王女を唖然と見つめる。
「へぇ!?カミールとッッ、ありえないわ!」
「あらーまだ伝えていなかったかしら?あなたが居ない間に決まった事よ。ねぇカミール?」
王女はニッコリカミールへ顔を向けると、彼は面倒くさそうにこちらを見る。
「同意した覚えはないがな」
「ふん、断るのなら代わりの令嬢を連れてこいと言ったけれど、誰も連れてこなかったじゃない。それは合意ということでしょう?」
「ちょっと待って、何がどうなっているの?私とカミールが婚約?ありえないわ、そうでしょう?」
私は同意を求めるようにカミールへ顔を向けると、彼ははぁ……と大きなため息をつきながらこちらへやってくる。
「正直他の女に比べたらあんたといる方が数倍楽だ。だが……婚約者にするなら身も心も手に入れてからじゃないとな。あー体はもう頂いたか」
「ちょっ、何言い出すのよ!!」
ニヤリと笑うカミールを捕まえると、これ以上余計なことを言わないよう両手で口を押える。
カミールは笑いながら軽々とその手を退かすと、くしゃくしゃと私の髪を撫でた。
「まぁとりあえず今は婚約はしねぇよ。他の男を好きな女を無理やり手に入れても面白くないからな」
他の男を好き……?
まさかこの一瞬で、タクミを好きだと気が付いたの!?
あれ……私はタクミを好き……?
カミール言われ改めて考えてみると、なぜかしっくりこない。
タクミをずっと愛していたのは確かなのに……。
記憶がなくても彼が生きていてくれて嬉しかった。
それだけで幸せだと思ったわ。
両想いだったあの頃の彼じゃなくてもいいそう思ったのに……何かしらこれ……。
よくわからないもやもやに胸を押さえていると、パトリシアが眉を寄せて近づいてくる。
私の方へ鼻をよせると、くんくんと鼻を鳴らした。
「あれ~あれあれ~魔力はどうしちゃったんですか?以前よりも大分……いえ全く何も感じない……どうなってるの?……こんな状況でどうやって壁を壊したんですか?」
パトリシアの言葉に顔を上げると、私は慌てて事の経緯を説明する。
壁の壊し方は覚えていないと言葉を濁した。
「とういうわけで、魔力は全て魔女に奪われてしまったの。これ以上壁を壊すことも出来なし、もう魔法は使えないわ」
一通り話し終えると、王女は目を見開き扇子を取り出し背を向けた。
「なんてこと、壁の壊し方も知らない上、魔法が使えないの?それならいらないわ」
先ほどの婚約話はどこへ行ったのか、王女は冷めた瞳を浮かべると私に興味をなくしたようだ。
なっ、あからさま過ぎない!?
心の中で驚きながらも、北の国へ帰れるならいいかと一人納得した。
「何だかよくわからねぇけど、北の国へ戻ろうぜ。皆が待ってる」
私は深く頷きアーサーの手を取ると共に東の国へ向かった。
そして翌日、最初の地である北の国へ帰ったのだった。
*********************
次話は10/16更新です!
長々と続きました次回第五章最終話となります('◇')ゞ
ふふふっ、アーサーは随分丸くなったみたいね。
あんな姿初めて見たわ。
二人のじゃれ合いをみつめていると、パトリシアに連れられ西の国の王女がやってきた。
「あららら、壁が壊れているじゃない。それよりもいつ戻ってきたの?あなたノエルに捕らわれていたのではないの?まぁ~何はともあれ無事でよかったわ」
赤いヒールで器用に瓦礫を超えながらこちら側へやってくると、ぐるりと辺りを見渡した。
「ごきげんよう、あなたがノーバード王子かしら?」
王女は妖麗な笑みを浮かべると、品定めするように上から下までゆっくりと眺める。
ノーバードはその視線にニッコリ爽やかな笑みを浮かべると、紳士の礼をとった。
「ごきげんよう、その通り。あなたは西の国の王女様かな。声からの印象通り気がつよ……おっと失礼、声と同様に気品があり高貴ある美しい方だ」
彼の言葉に王女は口角をピクピク動かすと、ニッコリと笑みを深めた。
「ふふふ、そういって頂けて嬉しいですわ。あなたも声からの印象通り貧弱な優男という感じですわね~」
王女と同じくピキピキと王子のこめかみに皺が寄ると、不穏な空気が漂い始める。
「まったく口の減らない女だ」
「喧嘩をうってきたのはそちらでしょう?おしゃべりな男は見苦しいですわよ」
バチバチと火花が舞い始める様にパトリシアが慌てて間に入ると、王女を引きはがす。
ノーバードは疲れた様子でため息をつくと、私の方へ顔を向けた。
「すまない、お見苦しいところを見せてしまったね。ところで壁もこうして破壊できたことだし、今日のところは東の国で休んでいくといい」
「ちょっと待ちなさいよ、彼女は西の国へ戻るのよ。だって彼女はカミールの婚約者ですもの」
とんでもない言葉に目が点になると、私は王女を唖然と見つめる。
「へぇ!?カミールとッッ、ありえないわ!」
「あらーまだ伝えていなかったかしら?あなたが居ない間に決まった事よ。ねぇカミール?」
王女はニッコリカミールへ顔を向けると、彼は面倒くさそうにこちらを見る。
「同意した覚えはないがな」
「ふん、断るのなら代わりの令嬢を連れてこいと言ったけれど、誰も連れてこなかったじゃない。それは合意ということでしょう?」
「ちょっと待って、何がどうなっているの?私とカミールが婚約?ありえないわ、そうでしょう?」
私は同意を求めるようにカミールへ顔を向けると、彼ははぁ……と大きなため息をつきながらこちらへやってくる。
「正直他の女に比べたらあんたといる方が数倍楽だ。だが……婚約者にするなら身も心も手に入れてからじゃないとな。あー体はもう頂いたか」
「ちょっ、何言い出すのよ!!」
ニヤリと笑うカミールを捕まえると、これ以上余計なことを言わないよう両手で口を押える。
カミールは笑いながら軽々とその手を退かすと、くしゃくしゃと私の髪を撫でた。
「まぁとりあえず今は婚約はしねぇよ。他の男を好きな女を無理やり手に入れても面白くないからな」
他の男を好き……?
まさかこの一瞬で、タクミを好きだと気が付いたの!?
あれ……私はタクミを好き……?
カミール言われ改めて考えてみると、なぜかしっくりこない。
タクミをずっと愛していたのは確かなのに……。
記憶がなくても彼が生きていてくれて嬉しかった。
それだけで幸せだと思ったわ。
両想いだったあの頃の彼じゃなくてもいいそう思ったのに……何かしらこれ……。
よくわからないもやもやに胸を押さえていると、パトリシアが眉を寄せて近づいてくる。
私の方へ鼻をよせると、くんくんと鼻を鳴らした。
「あれ~あれあれ~魔力はどうしちゃったんですか?以前よりも大分……いえ全く何も感じない……どうなってるの?……こんな状況でどうやって壁を壊したんですか?」
パトリシアの言葉に顔を上げると、私は慌てて事の経緯を説明する。
壁の壊し方は覚えていないと言葉を濁した。
「とういうわけで、魔力は全て魔女に奪われてしまったの。これ以上壁を壊すことも出来なし、もう魔法は使えないわ」
一通り話し終えると、王女は目を見開き扇子を取り出し背を向けた。
「なんてこと、壁の壊し方も知らない上、魔法が使えないの?それならいらないわ」
先ほどの婚約話はどこへ行ったのか、王女は冷めた瞳を浮かべると私に興味をなくしたようだ。
なっ、あからさま過ぎない!?
心の中で驚きながらも、北の国へ帰れるならいいかと一人納得した。
「何だかよくわからねぇけど、北の国へ戻ろうぜ。皆が待ってる」
私は深く頷きアーサーの手を取ると共に東の国へ向かった。
そして翌日、最初の地である北の国へ帰ったのだった。
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次話は10/16更新です!
長々と続きました次回第五章最終話となります('◇')ゞ
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