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第一章
序章
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カチカチカチッ、ガリガリッ、カキンッ
「ねぇ、タクミ何しているの?」
「これは……その……」
タクミと呼ばれた男の手元には、キラリと光る小さな小物が見える。
彼女は覗き込むように視線を向ける中、苦笑いを浮かべたブロンドヘヤの男は、彼女からその何かを隠す様に背を向けた。
そんな彼の姿に、彼女はプクッと可愛く頬を膨らませたかと思うと、じゃれ合うように彼の背中に抱きついた。
そんな彼女の様子に、男は彼女の腕を取ると、徐に彼女へ振り返る。
「後でビックリさせようと思ってたんだけど……。これ……君へのプレゼントなんだ。今日は俺と君とが出会った日だから……」
男は照れくさそうにしながら、彼女の前に何かを差し出した。
女は期待を込めた瞳で彼の手の平を覗き込むと、そこにはシルバーのリングが置かれている。
光を反射し、キラキラと光るシルバーのリングを手に取ると、彼女の名前と彼の名前が刻まれていた。
「嬉しい!!!ありがとう、大事にするね」
「そう言ってもらえて嬉しいよ。見て、俺もお揃いのを作ったんだ……」
男はリングを女の指へはめると、自分の指に光るリングを彼女に見せた。
照れる彼と、満面の笑みを浮かべる彼女。
微笑ましい様子の二人は、そのままベッドへと足を運ぶと、部屋の明かりを消した。
暗闇の中、二人の吐息が聞こえてくると……女は慈しむように囁きかける。
「愛してる。ねぇ、これからもずっと、ず~と一緒に居ようね」
「……あぁ、俺もずっと君を愛している……ずっと……」
不自然に途切れた彼の言葉に、彼女は徐に顔を上げると、真剣な眼差しを浮かべる男と視線が絡む。
「……俺もずっと君の傍にいたい」
「ずっと一緒だよ、約束ね」
その約束を最後に、男は彼女の前から姿を消した。
ジリリリリリ……。
大きな機械音に目を覚ますと、私は徐に布団の中から手を伸ばす。
煩わしく鳴り響くその音を止めると、怠惰に体を持ち上げた。
懐かしい夢……、彼と最後の会話……。
そっと頬に手を添えてみると、水滴が頬を伝って流れて行く。
ここには居ない愛しい彼を、今一度頭の中で思い描くと、私は小さく息を吐いた。
はぁ……もう朝か……、仕事に行かなきゃ……。
私はベッドから体を起こすと、洗面所へ行き、顔を洗う。
寝間着を脱ぎ、スーツに袖を通し、鏡の前に立つと、化粧をしていった。
そうして準備が整うと、ぼうっとする中、私はいつもの定位置へと足を向け、そっと手を合わせ瞳を閉じる。
ゆっくりと瞼を持ち上げると、そこには愛しいタクミの写真が目に映った。
タクミは数年前、突然私の前から姿を消した。
あの日一緒にベッドで寝たはずのタクミの姿は、朝起きたらなくなっていた。
すぐに私は家を出て、タクミを探したけれど……彼の姿はどこにもない。
警察に捜索願を出しに行くも、彼には戸籍がなかった。
写真と名前から警察が色々調べてくれたが……彼の渡航履歴も、彼の生まれも何も……分からなかった。
ずっと一緒に居たはずなのに、どうして彼は私の前から姿を消したのだろう……。
そんな現実に絶望する中、私はその場に崩れ落ちると、声が枯れるほど泣きわめいた。
それでも彼が戻ってくることはなく……私は彼と暮らしていたアパートで一人。
私の両親は、私が16歳の時に、事故で亡くなった。
親が残してくれた遺産と、アルバイトで暮らしをつなげる中、私は彼と出会ったんだ。
出会った当初、彼は異国から来た様子で、最初は言葉も通じなかった。
何かに怯えるように街中に立ち尽くす彼の姿に、私は目を奪われたんだ。
彼の姿に自分を重ねたのか……はたまた一人の生活が寂しかったのかもしれない。
そんな彼に声をかけて、彼との生活が始まった。
不思議な出会いから……彼との関係は良好に進んでいた。
彼に言葉を教え、会話ができるようになるとすぐに、私は彼の名前を尋ねてみた。
彼は異国の言葉で名前を言ったが……私には発音できない音だった。
だから私は彼の事を《タクミ》と愛称で呼んでいたんだ。
彼と過ごす時間が増えると、たくさん話をした。
彼の故郷の事、家族の事……いろんな彼を知っていくうちに、私はどんどん彼に惹かれていく。
そんな彼は不思議な雰囲気を持っていた。
ある日一緒に過ごしていると、彼が不思議な事を呟いた。
「◎△$♪×¥●&%#?!」
何を言っているのかさっぱりわからなくて、私は何度も彼に聞きなおした。
何度も何度も聞いて、呪文のような長い言葉を必死に覚えた。
意味は何度聞いても教えてくれなかったけど……それでも彼の国の言葉を話せるようになったのは、とっても嬉しかった。
そうしていつしか恋人になり、私たちは愛しあった。
毎日が幸せだった。
一緒にご飯を食べて、一緒に眠って、一緒に朝をむかえて。
時々喧嘩して、でもすぐに仲直りして、一緒に笑って、一緒に泣いて。
「ずっと一緒に居ようね」
そう約束したのに……彼はあの日、私を置いてどこかへ行ってしまった。
それでも私は、彼を忘れる事なんてできなくて……。
もう一度彼に会えることを願って、私はずっと彼の姿を探していた。
タクミが帰ってくることはないまま、私は大学を出て、夢だった出版会社へと就職した。
彼の居ない生活に慣れ、心のどこかで彼はもう戻らないのだと思い始めていく。
そうわかっていても、もう一度彼に会いたいとの想いが、薄れることはない。
就職した先は毎日毎日、仕事量が半端なかった。
残業が何日も続く中、私は必死に動き回っていた。
早朝に出社し、深夜に帰宅する……同期は忙しさに何人もやめていく中、私はその忙しさに救われていた。
だって何かやることがないと、色々と考えてしまうから。
数年たった今でも、私はタクミの温もりを覚えている。
彼の匂いも、彼の仕草も、彼の声も……。
時間が解決してくれると、周りは言ってくれたけど、そんな事全然なくて……。
時が過ぎれば過ぎるほど、心に空いた大きな穴は広がっていく。
愛している、この想いも薄れることはなくて。
毎日が……苦しい……。
どうして彼は、私の前から居なくなったの?
何か事件に巻き込まれたの?
もしかして……他に好きな人ができたの?
ねぇ、どうして……どうしてなの……?
薄暗い部屋の中で、私は彼の写真をずっと眺めていた。
「ねぇ、タクミ何しているの?」
「これは……その……」
タクミと呼ばれた男の手元には、キラリと光る小さな小物が見える。
彼女は覗き込むように視線を向ける中、苦笑いを浮かべたブロンドヘヤの男は、彼女からその何かを隠す様に背を向けた。
そんな彼の姿に、彼女はプクッと可愛く頬を膨らませたかと思うと、じゃれ合うように彼の背中に抱きついた。
そんな彼女の様子に、男は彼女の腕を取ると、徐に彼女へ振り返る。
「後でビックリさせようと思ってたんだけど……。これ……君へのプレゼントなんだ。今日は俺と君とが出会った日だから……」
男は照れくさそうにしながら、彼女の前に何かを差し出した。
女は期待を込めた瞳で彼の手の平を覗き込むと、そこにはシルバーのリングが置かれている。
光を反射し、キラキラと光るシルバーのリングを手に取ると、彼女の名前と彼の名前が刻まれていた。
「嬉しい!!!ありがとう、大事にするね」
「そう言ってもらえて嬉しいよ。見て、俺もお揃いのを作ったんだ……」
男はリングを女の指へはめると、自分の指に光るリングを彼女に見せた。
照れる彼と、満面の笑みを浮かべる彼女。
微笑ましい様子の二人は、そのままベッドへと足を運ぶと、部屋の明かりを消した。
暗闇の中、二人の吐息が聞こえてくると……女は慈しむように囁きかける。
「愛してる。ねぇ、これからもずっと、ず~と一緒に居ようね」
「……あぁ、俺もずっと君を愛している……ずっと……」
不自然に途切れた彼の言葉に、彼女は徐に顔を上げると、真剣な眼差しを浮かべる男と視線が絡む。
「……俺もずっと君の傍にいたい」
「ずっと一緒だよ、約束ね」
その約束を最後に、男は彼女の前から姿を消した。
ジリリリリリ……。
大きな機械音に目を覚ますと、私は徐に布団の中から手を伸ばす。
煩わしく鳴り響くその音を止めると、怠惰に体を持ち上げた。
懐かしい夢……、彼と最後の会話……。
そっと頬に手を添えてみると、水滴が頬を伝って流れて行く。
ここには居ない愛しい彼を、今一度頭の中で思い描くと、私は小さく息を吐いた。
はぁ……もう朝か……、仕事に行かなきゃ……。
私はベッドから体を起こすと、洗面所へ行き、顔を洗う。
寝間着を脱ぎ、スーツに袖を通し、鏡の前に立つと、化粧をしていった。
そうして準備が整うと、ぼうっとする中、私はいつもの定位置へと足を向け、そっと手を合わせ瞳を閉じる。
ゆっくりと瞼を持ち上げると、そこには愛しいタクミの写真が目に映った。
タクミは数年前、突然私の前から姿を消した。
あの日一緒にベッドで寝たはずのタクミの姿は、朝起きたらなくなっていた。
すぐに私は家を出て、タクミを探したけれど……彼の姿はどこにもない。
警察に捜索願を出しに行くも、彼には戸籍がなかった。
写真と名前から警察が色々調べてくれたが……彼の渡航履歴も、彼の生まれも何も……分からなかった。
ずっと一緒に居たはずなのに、どうして彼は私の前から姿を消したのだろう……。
そんな現実に絶望する中、私はその場に崩れ落ちると、声が枯れるほど泣きわめいた。
それでも彼が戻ってくることはなく……私は彼と暮らしていたアパートで一人。
私の両親は、私が16歳の時に、事故で亡くなった。
親が残してくれた遺産と、アルバイトで暮らしをつなげる中、私は彼と出会ったんだ。
出会った当初、彼は異国から来た様子で、最初は言葉も通じなかった。
何かに怯えるように街中に立ち尽くす彼の姿に、私は目を奪われたんだ。
彼の姿に自分を重ねたのか……はたまた一人の生活が寂しかったのかもしれない。
そんな彼に声をかけて、彼との生活が始まった。
不思議な出会いから……彼との関係は良好に進んでいた。
彼に言葉を教え、会話ができるようになるとすぐに、私は彼の名前を尋ねてみた。
彼は異国の言葉で名前を言ったが……私には発音できない音だった。
だから私は彼の事を《タクミ》と愛称で呼んでいたんだ。
彼と過ごす時間が増えると、たくさん話をした。
彼の故郷の事、家族の事……いろんな彼を知っていくうちに、私はどんどん彼に惹かれていく。
そんな彼は不思議な雰囲気を持っていた。
ある日一緒に過ごしていると、彼が不思議な事を呟いた。
「◎△$♪×¥●&%#?!」
何を言っているのかさっぱりわからなくて、私は何度も彼に聞きなおした。
何度も何度も聞いて、呪文のような長い言葉を必死に覚えた。
意味は何度聞いても教えてくれなかったけど……それでも彼の国の言葉を話せるようになったのは、とっても嬉しかった。
そうしていつしか恋人になり、私たちは愛しあった。
毎日が幸せだった。
一緒にご飯を食べて、一緒に眠って、一緒に朝をむかえて。
時々喧嘩して、でもすぐに仲直りして、一緒に笑って、一緒に泣いて。
「ずっと一緒に居ようね」
そう約束したのに……彼はあの日、私を置いてどこかへ行ってしまった。
それでも私は、彼を忘れる事なんてできなくて……。
もう一度彼に会えることを願って、私はずっと彼の姿を探していた。
タクミが帰ってくることはないまま、私は大学を出て、夢だった出版会社へと就職した。
彼の居ない生活に慣れ、心のどこかで彼はもう戻らないのだと思い始めていく。
そうわかっていても、もう一度彼に会いたいとの想いが、薄れることはない。
就職した先は毎日毎日、仕事量が半端なかった。
残業が何日も続く中、私は必死に動き回っていた。
早朝に出社し、深夜に帰宅する……同期は忙しさに何人もやめていく中、私はその忙しさに救われていた。
だって何かやることがないと、色々と考えてしまうから。
数年たった今でも、私はタクミの温もりを覚えている。
彼の匂いも、彼の仕草も、彼の声も……。
時間が解決してくれると、周りは言ってくれたけど、そんな事全然なくて……。
時が過ぎれば過ぎるほど、心に空いた大きな穴は広がっていく。
愛している、この想いも薄れることはなくて。
毎日が……苦しい……。
どうして彼は、私の前から居なくなったの?
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もしかして……他に好きな人ができたの?
ねぇ、どうして……どうしてなの……?
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