[R18] 異世界は突然に……

あみにあ

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第二章

閑話:彼女と過ごす日々3:中編

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エヴァンはわき目もふらずに彼女を抱きしめ、今にも泣き出しそうなエヴァンの姿に目を見張った。
あんな表情するあいつ……初めて見たな。
そんなエヴァンに呆然とする中、俺はハッと我に返ると急いで彼女の元へ駆け寄った。
そっと彼女へ手を伸ばすと、彼女の体の周りには妖魔特有の麻痺霧が覆っていた。

俺はすぐに彼女の体をローブで包み、エヴァンと妖魔を扉の外へ追いやると、麻痺の治療に取り掛かってみるが……やはり彼女の体は魔力を受けつけない。
麻痺霧は外傷と同じだ……外からの治療が一番有効的なのだが……。
くそっ……体内に魔力を流し治療できないのなら……体外へ吸い取ればいけるだろうか……。

そう考え魔力で彼女の体を包み込むと、手探りながらも毒素を慎重に吸い上げていく。
ふと彼女へ目を開けると、彼女は吸い上げられる感覚に恐怖しているのか……小さく体が震えていた。
集中力を途切れさせることが出来ない為、俺は喋らず大丈夫だと目で訴えかけてみると、彼女に伝わったのか……彼女はゆっくりと体の力を抜いていった。

通常であれば……俺の魔力を中へ入れて、毒素を打ち消す方が早いんだが……。
謝って彼女の魔力を吸い出さない様、慎重に毒素を浮き上がらせる中、彼女の腕が小さく持ち上がった。
その姿にほっと胸をなでおろすと、俺はまだ残っているだろう、毒素を探した。


長い時間をかけ彼女の治療が終わり汗を拭うと、彼女は疲れていたのだろう……スヤスヤと
寝息を立てていた。
彼女に目を向けると、自然と俺の頬が緩んでいく。
そんな中。彼女は徐に寝返りを打つと、露わになった真っ白な首筋に目を奪われた。
そっと手を伸ばし、彼女の長い髪を掬い取ると、普段見ることが出来ない項へ触れる。

しかしよく見ると……そこにはいくつもの赤い花びらが散らされ、その花弁は少し前のつけられたのであろうか……薄れてきていた。
俺はスッと目を細めると、彼女の項へ指をそわせていく。
するとくすぐったかったのか……彼女は眉間に皺をよせ、小さく身をよじると、首筋にあった俺の指先を小さな手で掴んだ。
不快な感覚がなくなった為か彼女はそっと柔らかい表情を浮かべると、また深く寝息を立て始めた。

一体これは誰がつけたんだ……。
アーサー、ネイト、ブレイク、エヴァンか……。
もやっとしたどす黒い感情が胸にこみ上げると、俺は細く滑らかな彼女の手を握りしめた。
人の魔力の見極め方を師匠に教えてもらっていれば、わかったのだろうが……あいにく俺には魔力を見ることは出来ない。
魔力を見るには、それ相応の魔力を保持していなければならず、さらに何かしらの条件が存在する。
師匠が俺には教えてくれなかった魔法。
きっと俺の魔力量では足りず、使えないと判断し……師匠は教えてくれなかったんだろうが……。
俺は徐に彼女から体を離すと、深く椅子に腰かけ、大きく息を吐くと、天を仰いだ。


俺の師匠……それはエヴァンと同じ、ターキィーミ師匠だ。
昔の俺は今ほど落ち着いてなく、城の中では問題児として有名だった。
俺についた教師はみんな数日でやめていく……そんなヤンチャな俺に、父から無理矢理つけられた魔法の師がターキィーミだった。

俺によこされる教師は皆、父の顔色をうかがうやつばかり。
そんな鬱陶しい貴族態度に、うんざりだった。
どうせ、こいつも父の機嫌を取りたい奴なんだろう……そう勝手に決めつけ、彼に対して反発ばかりしていた。
こいつもすぐに辞めるだろう……。
これが師匠の姿を初めて見て、抱いた感想だった。

最初の頃、師匠の授業を無断で休んだり、逃げたり、横柄な態度で接したりと……今考えると本当にどうしようもないバカなガキだった。
でも師匠はそんな俺の態度に怒ることもなく、辞めることもなく、いつも優しい笑みを浮かべていた。
そんな変わらないあいつの様子に苛立ちがつのると……俺はある日魔法を使って師匠にいたずらしようと考えたんだ。
もう二度と俺の前に姿を見せるなって意味を込めてな。

決行の日……師匠が俺の屋敷に来るや否や、俺は炎を使って攻撃魔法を唱えてやった。
攻撃魔法は基本国で禁じられていると知っていたが、そんな事は構わなかった。
だって俺の父は国の中枢に居て、王族とも懇意の付き合いがあるからな。
家の敷地内で起こった騒動なんて、表ざたになるはずがない。

だが子供の付け焼刃の攻撃だ……師匠は軽々俺の攻撃魔法を打ち消すと、静かに俺の元へと近づいてくる。
そんな彼にもう一発攻撃魔法を仕掛けてみると……彼はなぜか魔法を使う事をせず……そのまま俺の魔法を腕にくらった。

師匠の腕にはひどい火傷が目に映ったが……師匠は痛みに顔を歪める事無く静かに近づいてくる。
その光景に唖然とする中、師匠の表情はいつも通り笑みを受かべていた。

「レックス殿には、攻撃魔法よりも治癒魔法の方が向いていると思うよ。ほらさっそくこれを治療してみるといい」

そう言いながら師匠は俺の前に火傷で縮れた肌を差し出すと、優しい笑みで語り掛ける。

「前回の授業で教えただろう?まず……えーとこの本の……あったこれだ。これを読んで、俺の手に魔力を集めて」

師匠は怪我をしていない手で参考書を取り出すと、俺の前に差し出した。
そんな師匠の様子に俺は手足が冷たくなっていくと、体が自然と震え始める。

「あ……いや、お前……怒らないのか……?ってちげぇ!!そんな事言ってる場合じゃないだろう!自分で治療できるだろう!さっさとしろよ!!」

俺は泣きそうになりながらそう叫ぶと、師匠はキョトンとした表情を浮かべていた。

「いつも屋敷で机の上に参考書を広げているだけでは、授業にならないだろう。レックス殿もつまらなさそうだしね。だからこれはいい機会だ。さぁ、早く治してくれ」

笑みを浮かべる師匠から俺は震える手で本を受け取ると、必死に参考書に目を走らせ、師匠の腕を治療した。
あの時……上手だとほめてくれた師匠の姿に、俺の何かが満たされていった。
今思い返してみれば……これが俺の医者になるきっかけになったんだろうと思う。
あの時師匠に出会わなければ、今頃俺は城に居られなくなっていたかもしれない。
師匠はどうしようもない俺を見捨てる事無く、最後まで根気よく魔法を伝えようとしてくれた事に、感謝の念は尽きない。
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