[R18] 異世界は突然に……

あみにあ

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第二章

出会った男性

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深く頭を下げ、ありがとうございますとニッコリ笑みを浮かべると、男性は私の手を優しく持ち上げた。

「君のような、美しい女性のお役に立てたのなら嬉しいよ」

彼はそのまま流れるような動作で、私の手の甲へとキスを落とす。
何とも言えない恥ずかしさがこみ上げてくる中、ふと後方から足音が耳にとどいた。

「何をしているのですか?」

よく知る声に振り返ってみると、なぜかエヴァンが大きく目を見開き固まっていた。
そんな彼の様子に首をかしげる中、先ほど話していた男性は、静かにエヴァンへ顔を向けたかと思うと、笑みを深めていく。

「久方ぶりだね。魔導師エヴァン殿」

「……お久しぶりです。セーフィロ様……いつ戻られたのでしょうか?」

エヴァンは深く礼をとると、彼を覗うように視線を向ける。
この方、セーフィロって名前なのね……エヴァンの知り合いかしら?
でも……エヴァンの態度からして……偉い人っぽいわよね……。

「今しがただよ。異世界から美しい女性がお城へやってきたと聞きつけたからね~、急いで戻ってきたんだ」

セーフィロと呼ばれた男はニコニコと笑みを浮かべながらエヴァンへ話しかけると、なぜかエヴァンの表情が曇っていく。

「アーサー殿下は戻られた事を、ご存知なのでしょうか……?」

「さぁ~どうだろうねぇ。まだ殿下には会っていない。まぁ……また後で挨拶に行くよ」

セーフィロはエヴァンから視線を外すと、私へと顔を向ける。

「君が異世界のお姫様だろう?その美しい黒髪に、吸い込まれそうな漆黒の瞳。今まで様々な国を渡り歩いてきたけれど、初めて見たよ。それに噂通り……目を離せなくなるほどの美しいお嬢様だ」

セーフィロはそっと私の長い髪を掬い上げると、アメジストの瞳が、懐かしむように揺れた。
その姿に私の頭に、また何かが掠めた。
あれ……やっぱり……どこかで見たことあるような……。
でも一体どこで……?
観察するようにセーフィロを見つめ続ける中、彼は笑みを深めると、顔を寄せてくる。
何かを思い出せそうで思い出せない気持ちに、私は彼が近づいてくることを気にすることなく、呆然と彼を見上げ続けていた。
何だろうこの気持ち……。

「そんなに見つめられると、困ってしまうね。もしかして誘っているのかな?」

耳元で囁かれたセーフィロの言葉に、ハッと我に返ると、私は慌てて首を横に振った。
不躾にすみません!と何度も頭を下げる中、顔が真っ赤に染まっていくと、慌てて彼から距離を取る。
そんな私の様子にセーフィロは肩を揺らせて笑ったかと思うと……彼はエヴァンへと視線を投げた。

「ところでエヴァン、そろそろ夜会の時期じゃないか?彼女には伝えてあるのかな?」

「いえ……まだですが……やはり彼女の参加は、必然となりますか?」

セーフィロは不敵な笑みを浮かべると、コクリと深く頷いた。

「当り前だろう。女性は誰でもこの夜会に参加しなければならない。特例はないよ」

彼はそう言い残すと、静かに背を向け、私たちの前から姿を消した。
その様子を只々見送る中、私は徐にエヴァンへ振り返ると、先ほど話題に上がった夜会について問いかける。

「夜会って、何の事なのかしら?」

「夜会とは……以前お話しておりました、あなたの世界で言う婚活パーティーのような催し物ですよ」

おぉ……あれって夜会だったのね……。

「それに私も……参加するの?」

「はぁ……そのようですね。アーサー殿下だけであれば、あなたを参加させない様に、出来たやもしれませんが……あの方が帰ってきたとなると、そう簡単にはいきません」

「あの方は一体……どちら様なのかしら?」

「彼はアーサー殿下の兄です……。昔は彼が王位を継承すると誰もが思っていたのですが、突然姿を眩ませ、遊び惚けているのですよ。そうしてあのように、気ままに戻ってくる……」

アーサーに兄が居たんだ。
あーでも、あまり似てないわね。
アーサーはどちらかというとヤンチャ系なイメージで琥珀色の瞳に、ブラウンの髪だけれども、彼は落ち着きがあって、優しい雰囲気にアメジストの瞳、蒼い髪……全く違うわ……。
難しい顔でそんな事を考えていると、エヴァンは私を覗き込むように視線を向けた。

「彼らが似ていないのは、父親が違うからですよ。セーフィロ様は、前王子の息子。アーサー殿下は、王女についていた執事の息子です」

えぇっ!?
王女と執事……なんてこと……。
禁断の愛……いやいや、王女様がそんな事をしてはダメでしょう……。
でもそれが本当なら、アーサーはかなり肩身の狭い思いをしていそうね。
だって位はどう考えてもセーフィロの方が上だし、年上で……そんな中で暮らしていたから、彼はあんな風に不器用な子になっちゃったのかしら……?

「昔はセーフィロ様はあんな感じでは、なかったようですよ。しかし……突然変わられてしまった。聞くところによると、アーサー殿下を溺愛し、兄弟仲も良好だった。将来セーフィロ様が国王になり、アーサー殿下が宰相となると誰もがそう考えていたのです……」

「変わった……どんな風に?」

エヴァンは含みを持たせる笑みを浮かべると、ゆっくりと口を開く。

「昔のセーフィロ様は、真面目で勤勉だったと聞いております。成績優秀、品行方正、魔法も優れ、武術剣術もトップクラスだった。わずか12歳で現役の騎士を打ち負かしてしまうほどに……。そんなセーフィロ様が変わられたのは、王の座を降りると突然明言されてからだそうです。……それから城を出て行ってしまった。数年後戻ってきたと思ったら、遊び人の様になってしまっていたと伺いました。私自信昔のセーフィロ様を存じ上げませんが、それでもこの事は城中で有名な話です。そうしてアーサー殿下が王を継ぐ事になり、それに反する貴族のあたりが強くなっていきました。まだ幼いアーサー殿に王になることを強要し、セーフィロ様を超えることを望んだ。しかしアーサー殿下は位はもちろん、勉学や剣術、魔法……何一つ、セーフィロ様を追い越すことが出来ていない。まぁそれでもアーサー殿は、政事に関してはセーフィロ様と同じぐらい優秀ですがね……。しかし中々周りは認めてはくれないでしょう。セーフィロ様が優秀すぎた事実は、どうしてアーサー殿の行く手を阻んでしまう」

複雑な事情に耳を傾ける中、私は何か引っかかりを感じると、また何かを思い出そうで思い出せないそんなジレンマに、ずっと頭を悩ませていた。
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