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第三章
旅の途中③
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近くにあったベンチへ腰かけると、ダレル紙袋の中から丸い緑色のパンを取り出した。
「はいこれ。この街でしか販売していないオリジナルのパンなのよ~」
私は差し出されたパンを受け取ると、焼いてそれほど時間がたっていないのだろう……温かい。
手の平サイズのパンを小さく千切ると、口の中へと頬り込む。
食べてみると、口の中には木の実の甘さと、サッパリとした風味が包み込んだ。
「美味しい……」
「ふふ、でしょう~。行列に並んできたかいがあったわ!」
ダレルは嬉しそうな様子を見せると、紙袋から緑のパンを取り出し頬張っていた。
そんな中、ふとダレルは私を覗き込むように顔を向けると、彼の指先が私の唇へと触れる。
彼の美しい顔が間地かに迫りドキマギする中、指先が唇をなぞっていった。
「あっ、のっっ」
「ふふ、パン屑が付いているわよ~」
彼はそっと指先を離すと、小さく肩を揺らせて笑っている。
「……っ、ありがとうございます」
その姿に私は顔を真っ赤にすると、恥ずかしさを隠す様に俯いた。
朝食を終えそのままダレルを連れ、大通りを出ると、私たちは目の前に広がる広大な森の中へと入って行く。
「ここからは、魔法で移動するわね」
そうダレルへ話すと、私は魔力を集中させ、風を発生させる。
「あら、これはとっても楽ねぇ~」
嬉しそうにするダレルを横目に風をコントロールしていくと、険しい山道を登っていく。
そのまま森の中へと足を進めていく中、私はキョロキョロと辺りを見渡していた。
そういえば……どこで妖魔と出会うのかしら……。
険しい山岳を進めど進めど、中々妖魔は姿を現さない。
妖魔を探しながら鬱蒼と茂る叢を越えた瞬間、ふと迷宮魔法の気配を感じると、私は慌てて足を止めた。
ダメだわ……これ以上先に進んでも、人間ではたどり着けない。
ここへ来る道中で出会うのだと思っていたのだけれど、そんな気配は全くなかったわ。
そういえば……妖魔の話を思い出す限り……誰かが居た様子はなかったわね……。
もしかして彼がいるから……妖魔は近づいて来ないのかしら……?
そう思いそっと自分の魔力を確かめてみると、まだまだ十分に余力はありそうだ。
う~ん、魔法で彼の姿を隠す……?
いやいや、人が消える原理なんてわからないわ……。
小さくしてみるとか……いやいや、これも無理だわ……。
アニメなので、不思議な道具で人間が小さくなるのを見た事はあるが……理屈など知る由もない。
うんうんと頭を悩ませる中、突然立ち止まった事を不思議に思ったのか、ダレルが私を覗き込むように視線を向けた。
「魔導師様どうかしたのかしら……?」
不安そうにするダレルに私は慌てて顔を上げると、無理矢理に笑みを浮かべて見せる。
う~ん、ここは一度離れてみた方が、いいかもしれないわね。
「ダレル、ここで休憩していてくれる?私ね、先に行かなきゃいけない場所があるのよ」
私は誤魔化す様に笑みを浮かべると、ダレルを木陰へ誘い、簡易な防御魔法をかけておく。
「待って、私もついていくわ!」
ついて来ようとするダレルをいさめる中、私は半ば強引にダレルへ水筒と食糧を押し付ける。
「お願い、すぐ戻るから……そこから動かないでね!」
そう言い切ると、私は逃げるようにダレルの前から姿を消した。
ダレルと離れ、薄暗い森の中、ぬかるむ道を進んでいくと、ふと何かの気配を感じた。
鬱蒼と茂る草木が静かに揺れ、緊張が走ると、私はそこで静かに立ち止まる。
何かいる……、ううん……何かくる。
カサカサと音をたてる茂みへ視線を集中させていると、チラット人影が映った。
私はすぐに魔力を手に集めると、じっと人影が現れるのを待つ。
ガサガサガサッと大きな音が耳に届き、茂みの中からひょっこり現れたのは……見た事のある少年の姿だった。
やっと見つけた。
私は小さく口角を上げると、少年は怯えた様子を浮かべながら、潤んだ瞳で私をじっと見上げてくる。
「おねぇさん……僕迷子になっちゃったの……助けてぇ」
少年は目に涙を浮かべながらそう弱弱しく囁くと、私の元へゆっくりゆっくりと近づいてくる。
……そんなあざとく近づいてきても無駄よ。
私はあなたの正体を知っているのだから……。
こちらへ距離を詰めてくる少年に対して、すぐに手に集めていた魔力を蔦へと変化させると、捕縛するように一気に放出していく。
少年は驚いた様子で飛び退くが……私は追撃するように蔦を増やすと、エヴァンがやっていたようにグルグル巻きに拘束していく。
「うわぁぁぁぁん、おねぇさん、ひどいよ!!」
泣き叫ぶ少年を睨みつけると、私は逃げ出さないように、しっかりと蔦を固定した。
「あなた妖魔でしょ。そんな猿芝居やめなさいよ」
私の言葉に妖魔は大きく目を見開くと、先ほどの涙はどこへやら……チッと舌打ちをしながら不貞腐れた。
「……なんでわかったんだよ」
私はその言葉に答える事無く、蔦の先端をひっぱると、そのまま妖魔を引きずりながら歩き出す。
「ちょっ、お前俺をどこへ連れて行く気だ!!離せよ!!このブス!」
怒り狂う少年を鋭く見据える中、ふとエヴァンが鳥を召喚していた事を思い出した。
この妖魔、確かあの時鳥に怯えていたわよね……。
「あなたに用があるのよ。いう事聞かないと……鳥の餌にしちゃうわよ」
試しに発した(鳥)と言うワードに、妖魔はビクッと体を大きく震わせた。
蔦から彼の震えが伝わってくると、私は強く蔦を握りしめる。
あら、予想通り鳥が苦手なのね。
私は笑みを深めると、頭の中で鳥を思い描き、魔力を鳥へと変えてみせた。
「おいおい、待って!!!わかった、わかったから!!!鳥はやめてくれ!!!」
そう絶叫する少年に笑いがこみ上げる中、私はサッと鳥を消すと、ダレルが待つ場所へと妖魔を連れて、戻っていった。
「はいこれ。この街でしか販売していないオリジナルのパンなのよ~」
私は差し出されたパンを受け取ると、焼いてそれほど時間がたっていないのだろう……温かい。
手の平サイズのパンを小さく千切ると、口の中へと頬り込む。
食べてみると、口の中には木の実の甘さと、サッパリとした風味が包み込んだ。
「美味しい……」
「ふふ、でしょう~。行列に並んできたかいがあったわ!」
ダレルは嬉しそうな様子を見せると、紙袋から緑のパンを取り出し頬張っていた。
そんな中、ふとダレルは私を覗き込むように顔を向けると、彼の指先が私の唇へと触れる。
彼の美しい顔が間地かに迫りドキマギする中、指先が唇をなぞっていった。
「あっ、のっっ」
「ふふ、パン屑が付いているわよ~」
彼はそっと指先を離すと、小さく肩を揺らせて笑っている。
「……っ、ありがとうございます」
その姿に私は顔を真っ赤にすると、恥ずかしさを隠す様に俯いた。
朝食を終えそのままダレルを連れ、大通りを出ると、私たちは目の前に広がる広大な森の中へと入って行く。
「ここからは、魔法で移動するわね」
そうダレルへ話すと、私は魔力を集中させ、風を発生させる。
「あら、これはとっても楽ねぇ~」
嬉しそうにするダレルを横目に風をコントロールしていくと、険しい山道を登っていく。
そのまま森の中へと足を進めていく中、私はキョロキョロと辺りを見渡していた。
そういえば……どこで妖魔と出会うのかしら……。
険しい山岳を進めど進めど、中々妖魔は姿を現さない。
妖魔を探しながら鬱蒼と茂る叢を越えた瞬間、ふと迷宮魔法の気配を感じると、私は慌てて足を止めた。
ダメだわ……これ以上先に進んでも、人間ではたどり着けない。
ここへ来る道中で出会うのだと思っていたのだけれど、そんな気配は全くなかったわ。
そういえば……妖魔の話を思い出す限り……誰かが居た様子はなかったわね……。
もしかして彼がいるから……妖魔は近づいて来ないのかしら……?
そう思いそっと自分の魔力を確かめてみると、まだまだ十分に余力はありそうだ。
う~ん、魔法で彼の姿を隠す……?
いやいや、人が消える原理なんてわからないわ……。
小さくしてみるとか……いやいや、これも無理だわ……。
アニメなので、不思議な道具で人間が小さくなるのを見た事はあるが……理屈など知る由もない。
うんうんと頭を悩ませる中、突然立ち止まった事を不思議に思ったのか、ダレルが私を覗き込むように視線を向けた。
「魔導師様どうかしたのかしら……?」
不安そうにするダレルに私は慌てて顔を上げると、無理矢理に笑みを浮かべて見せる。
う~ん、ここは一度離れてみた方が、いいかもしれないわね。
「ダレル、ここで休憩していてくれる?私ね、先に行かなきゃいけない場所があるのよ」
私は誤魔化す様に笑みを浮かべると、ダレルを木陰へ誘い、簡易な防御魔法をかけておく。
「待って、私もついていくわ!」
ついて来ようとするダレルをいさめる中、私は半ば強引にダレルへ水筒と食糧を押し付ける。
「お願い、すぐ戻るから……そこから動かないでね!」
そう言い切ると、私は逃げるようにダレルの前から姿を消した。
ダレルと離れ、薄暗い森の中、ぬかるむ道を進んでいくと、ふと何かの気配を感じた。
鬱蒼と茂る草木が静かに揺れ、緊張が走ると、私はそこで静かに立ち止まる。
何かいる……、ううん……何かくる。
カサカサと音をたてる茂みへ視線を集中させていると、チラット人影が映った。
私はすぐに魔力を手に集めると、じっと人影が現れるのを待つ。
ガサガサガサッと大きな音が耳に届き、茂みの中からひょっこり現れたのは……見た事のある少年の姿だった。
やっと見つけた。
私は小さく口角を上げると、少年は怯えた様子を浮かべながら、潤んだ瞳で私をじっと見上げてくる。
「おねぇさん……僕迷子になっちゃったの……助けてぇ」
少年は目に涙を浮かべながらそう弱弱しく囁くと、私の元へゆっくりゆっくりと近づいてくる。
……そんなあざとく近づいてきても無駄よ。
私はあなたの正体を知っているのだから……。
こちらへ距離を詰めてくる少年に対して、すぐに手に集めていた魔力を蔦へと変化させると、捕縛するように一気に放出していく。
少年は驚いた様子で飛び退くが……私は追撃するように蔦を増やすと、エヴァンがやっていたようにグルグル巻きに拘束していく。
「うわぁぁぁぁん、おねぇさん、ひどいよ!!」
泣き叫ぶ少年を睨みつけると、私は逃げ出さないように、しっかりと蔦を固定した。
「あなた妖魔でしょ。そんな猿芝居やめなさいよ」
私の言葉に妖魔は大きく目を見開くと、先ほどの涙はどこへやら……チッと舌打ちをしながら不貞腐れた。
「……なんでわかったんだよ」
私はその言葉に答える事無く、蔦の先端をひっぱると、そのまま妖魔を引きずりながら歩き出す。
「ちょっ、お前俺をどこへ連れて行く気だ!!離せよ!!このブス!」
怒り狂う少年を鋭く見据える中、ふとエヴァンが鳥を召喚していた事を思い出した。
この妖魔、確かあの時鳥に怯えていたわよね……。
「あなたに用があるのよ。いう事聞かないと……鳥の餌にしちゃうわよ」
試しに発した(鳥)と言うワードに、妖魔はビクッと体を大きく震わせた。
蔦から彼の震えが伝わってくると、私は強く蔦を握りしめる。
あら、予想通り鳥が苦手なのね。
私は笑みを深めると、頭の中で鳥を思い描き、魔力を鳥へと変えてみせた。
「おいおい、待って!!!わかった、わかったから!!!鳥はやめてくれ!!!」
そう絶叫する少年に笑いがこみ上げる中、私はサッと鳥を消すと、ダレルが待つ場所へと妖魔を連れて、戻っていった。
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