[R18] 異世界は突然に……

あみにあ

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第三章

旅の途中④

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そうして妖魔を引きずったまま、迷宮魔法の境目まで戻ってくると、ダレルが大きく手を振る姿が見える。
後ろから地面を擦る音が響く中、容赦なく引っ張ると、イテェ、だの、痛いっ!!だの、妖魔が煩く騒いでいた。

「ちょっと……あなた何を持って帰って来たのよ……」

「えっ、あ~、ヒミツ」

私は徐に振り返ると、項垂れた少年へと視線を向ける。
あの時は散々遊ばれたんだから、このぐらい良いわよね。
無理矢理引きずられたためか……疲れ切った少年の傍へしゃがみ込むと、私は彼にニッコリ笑みを浮かべて見せた。

「ねぇ……あなた迷宮の屋敷への道順を知っているでしょ。案内してくれないかしら?」

「はぁっ!!!なんで俺が!!自分たちで行けよ!まぁ、どうせ人間にはたどり着けないだろうがな」

そう嫌そうに叫んだ妖魔の姿に、私はスッと手を広げると、魔力を鳥へと変えていく。

「おいおいおいおいおい!!!!待ってって、分かった!!!わかったから!!!」

少年は顔を真っ青に絶叫する中、私は鳥を見せつけたまま、ありがとうと笑みを深めて見せる。
サッと手の平から鳥のシルエットと消すと、妖魔はあからさまに安心した様子を浮かべていた。


私は妖魔を立たせ、歩きやすい様にと、脚を拘束していた蔦を消し去ってみると、少年はよしきた、と言わんばかりに逃げようと走り始めた。
その姿に私は蔦へ魔力を流すと、拘束している体の部分を強く締め上げる。

「いてぇぇぇぇ!!!」

「私から逃げられると、思わないでね……」

そう少年を鋭く睨みつけると、妖魔はビクッと大きく肩を跳ねさせる。
顔を引きつらせた少年は、わかったよ……と力なく呟くと、不承不承の様子で、迷宮の魔法をすり抜けていった。

ダレルはそんなやり取りを見守る中、頬を引き攣らせながら、項垂れる少年の姿に絶句していた。

「ちょっと魔導師様。……これは一体……なんのプレイなの?」

「プレイって……。まぁ、気にしないで。さぁ行きましょう!」

「ちょっ、お前……っっ、チッ」

舌打ちをする妖魔へニッコリと笑みを深めながら視線を向けると、手の平をサッと広げて見せる。
すると妖魔はすぐに押し黙ると、諦めた様子で歩き始めた。
そ続くように迷宮の魔法の中へ足を踏み出すと、私は遠くに映る迷宮の屋敷を見上げるように視線を向けた。


妖魔を先頭に迷宮魔法の中を、風魔法で自分とダレルを包みながら険しい山道を進んでいく。
ネイトの背に乗って駆け上がっているときには気が付かなかったが……全く整備されていない山道は、登山家でもなければ登るが難しそうなほど荒れていた。
これは……風魔法が無ければ登る事なんて無理だったでしょうね……。

どれぐらい山道を進んだのだろうか……ふとダレルの様子がおかしい事に気が付いた。
風魔法がある為、疲れる事はないはずなのだが……彼の顔から血の気がどんどんひいていく。
次第に息が上がり、苦しそうに胸を鷲掴みにし始めると、私は慌てて彼の元へ駆け寄った。
どうしたのかしら……。
私はすぐに蔦を引っ張ると、先へ進もうとする妖魔を引き戻す。

「グェッ、っぃってぇなぁ!」

「ダレルさん、大丈夫かしら?」

ダレルはひどく顔を歪めると、荒い息を繰り返しながら土の上へ跪いた。
私はすぐに彼の体を支えると、激しく揺れる彼の背中を落ち着かせようと、何度もさする。

「はぁ、はぁ、はぁ……だっ……大丈夫よ……」

「まったく説得力がないわ。この辺で一度休憩しましょうか」

私は持っていた飲み物を取り出すと、ゆっくり彼の口元へ近づけていく。
ゴクゴクと液体が喉を通る音に、そっと彼の体を幹へ横たわらせると、表情が幾分マシになった。

「ねぇ、本当に大丈夫なの?迷宮の屋敷へ行くのは今度にしておく?」

そう優しく問いかけてみると、彼は激しく首を左右に振った。

「ダメ……もう時間がないの……お願い、魔導師様。どんなに私が苦しんでも、魔女のところまでつれていって欲しい……」

懇願するような声に狼狽する中、私は彼を安心させるように深く頷いた。

「わかったわ……約束する。でも……どうしてそんなに……?お礼ならいつでもいいんじゃないかしら……」

あまりに苦しそうな彼の様子にそう問いかけてみると、彼はまた小さく首を横に振った。

「……どうしても今行かなければいけないのよ。……本当に迷惑ばかりかけて……ごめんなさい……」

彼はゆっくりと顔を上げると、頬を上げ必死に笑みを浮かべていた。
私はそんな彼から体を離すと、考え込むように立ち上がる。
時間がない……、一体どういうことなのかしら……。
彼女は呪われてはいなかったわ。
この間の話は、彼の様子を見る限り嘘ではないとは思うのだけれど……きっと全てを話したわけでもないのでしょうね。
彼と魔女の間に一体何があるのかしら……。



彼の意味深な言葉に思い悩む中、妖魔が複雑そうな表情でダレルを見つめていた姿に、私は気が付くことはなかった。
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