18 / 119
18
しおりを挟む
アルゼとの生活に平穏が戻り夏になった頃、なぜだか最近元気がないアルゼが呟いた。
『あるぜ、うつくしい、ちあう』
ポツリと呟きながら俺が小さくちぎってやったカルーペを見つめる。
「どうしてそう思う?」
大きいままのカルーペを一口で食いながら聞いてみる。
『キラキラない』
うつむいてしまったアルゼ。
キラキラとはなんのことかと聞くと、あの行商人の女の胸元に見え隠れするキラキラと光る鱗のことのようだ。
「あれは爬虫類の獣人だから鱗があるんだ」
光を反射した時虹色に光る鱗は美しく見えなくもない。
「鱗が欲しいのか?」
問うと小さな頭をブンブンと振る。
『キラキラ、まえみた虹。うつくしいやった、いっちょ』
うつむいたまま顔を上げることもせず肩を落とすアルゼが言いたいことがなんとなくわかった。
フッと笑みが吐息となり、それに気づいたアルゼの体がピクンと揺れる。
「俺にもキラキラはないぞ」
元気がなかったのはそれが理由か----
大きくなってきたとはいえ、まだまだ小さいアルゼの頭を撫でてやる。
「お前の毛並みは艶々で光を跳ね返すくらいピカピカキラキラしててとても美しいぞ」
ピクピクと大きな耳が動き出す。
「それにお前の耳は誰よりも大きくて可愛らしいし、こんなフサフサの大きな尻尾も見たことがない」
フリフリと尻尾も揺れだす。
「大きな瞳も美しいし、チョコンと小さな鼻づらも可愛らしくて好きだな」
パッと顔をあげた後、またうつむいてしまったアルゼ。
口下手な俺が精いっぱい褒めたんだが、ダメだったかと言葉を次ごうとした時
『すき…?あるぜのこと、おれすき?』
小さな声で聞いてくる
「ああ、大好きだ!」
大きな声が出てしまった。
好きに決まってる。
ブンブンと揺れる尻尾
『あの、おんな、の ひとより…?』
あの女の人って、あの死んでしまった交易の女の事か。
「当たり前だ。世界で1番アルゼが好きだ」
言ってから俺は何を言ってるんだと恥ずかしくなる。
「ほら、もっと食べないと大きくなれないぞ」
嬉しそうに頷くアルゼは、初めて出会った日よりも三回りほども成長していた。
寝床に入ると相変わらずアルゼは俺の左脇腹にしがみつく。
頭を撫でてやり子守唄を歌ってやると、丸くなりピンク色の肉球をしゃぶりながらウトウトする。
母が恋しいのだろう。
大人の足でも2日はかかる険しい山道なのに、どうやってこんな山の上に現れたのか。
見たこともない種族、親も同じように真っ白で大きな耳とフサフサな尻尾なのだろうか。
親は探しているだろう。
こんなに愛らしい子供が突然消えるなんて、親は半狂乱になるだろう。
小さな体をギュッと抱きしめると眠っているアルゼがヘニャリと笑った。
スースーと寝息が聞こえだしたが、眠りが深くなるまで寝床からは出ない。
すぐに出るとアルゼが目を覚ましてしまうからだ。
深い眠りに入ったアルゼを寝床に残し、居間へと戻り湯をわかす。
ガビエを器に入れ、沸いた湯を上から注ぐ。
少し癖のある味のガビエ湯は疲れが取れるが子供の成長を妨げると言われているので、アルゼが眠ったこの時間に飲むようにしている。
椅子に座りガビエ湯をチビチビと飲んでいると、窓の外から虫の音が聞こえる。
もうすっかり夏だ。
一人になるといらぬことを思い出してしまう。
【あの子ならこんな場所じゃなくても村人に受け入れられるんじゃないのかい?】
交易の女が言った言葉が俺を苛む。
(わかってるさ)
あんなに愛らしいアルゼだ。
同じアルゼでも俺とは違う。
アイツなら違和感なく村人に受け入れられるだろう。
相変わらずここでアルゼと暮らしていられてるのは、あの女がアルゼの存在を他人には漏らしていないということだ。
アルゼがいなかった頃、俺はどう1日を過ごしていたのか。
両親が亡くなってからは誰とも話すこともなく、ここで作物を作り、獣を狩り、食らい、時が流れるだけだった。
(アルゼがいなくなったら--------)
ゾクリと身震いした。
俺は孤独だったんだと気づいてしまった、またあのような日々が来るなんて、この温もりを手に入れた今の俺には受け入れられない。
(このままでいい--------)
寝室への扉を見つめながら、冷めてしまったガビエ湯を一気に飲んだ。
『あるぜ、うつくしい、ちあう』
ポツリと呟きながら俺が小さくちぎってやったカルーペを見つめる。
「どうしてそう思う?」
大きいままのカルーペを一口で食いながら聞いてみる。
『キラキラない』
うつむいてしまったアルゼ。
キラキラとはなんのことかと聞くと、あの行商人の女の胸元に見え隠れするキラキラと光る鱗のことのようだ。
「あれは爬虫類の獣人だから鱗があるんだ」
光を反射した時虹色に光る鱗は美しく見えなくもない。
「鱗が欲しいのか?」
問うと小さな頭をブンブンと振る。
『キラキラ、まえみた虹。うつくしいやった、いっちょ』
うつむいたまま顔を上げることもせず肩を落とすアルゼが言いたいことがなんとなくわかった。
フッと笑みが吐息となり、それに気づいたアルゼの体がピクンと揺れる。
「俺にもキラキラはないぞ」
元気がなかったのはそれが理由か----
大きくなってきたとはいえ、まだまだ小さいアルゼの頭を撫でてやる。
「お前の毛並みは艶々で光を跳ね返すくらいピカピカキラキラしててとても美しいぞ」
ピクピクと大きな耳が動き出す。
「それにお前の耳は誰よりも大きくて可愛らしいし、こんなフサフサの大きな尻尾も見たことがない」
フリフリと尻尾も揺れだす。
「大きな瞳も美しいし、チョコンと小さな鼻づらも可愛らしくて好きだな」
パッと顔をあげた後、またうつむいてしまったアルゼ。
口下手な俺が精いっぱい褒めたんだが、ダメだったかと言葉を次ごうとした時
『すき…?あるぜのこと、おれすき?』
小さな声で聞いてくる
「ああ、大好きだ!」
大きな声が出てしまった。
好きに決まってる。
ブンブンと揺れる尻尾
『あの、おんな、の ひとより…?』
あの女の人って、あの死んでしまった交易の女の事か。
「当たり前だ。世界で1番アルゼが好きだ」
言ってから俺は何を言ってるんだと恥ずかしくなる。
「ほら、もっと食べないと大きくなれないぞ」
嬉しそうに頷くアルゼは、初めて出会った日よりも三回りほども成長していた。
寝床に入ると相変わらずアルゼは俺の左脇腹にしがみつく。
頭を撫でてやり子守唄を歌ってやると、丸くなりピンク色の肉球をしゃぶりながらウトウトする。
母が恋しいのだろう。
大人の足でも2日はかかる険しい山道なのに、どうやってこんな山の上に現れたのか。
見たこともない種族、親も同じように真っ白で大きな耳とフサフサな尻尾なのだろうか。
親は探しているだろう。
こんなに愛らしい子供が突然消えるなんて、親は半狂乱になるだろう。
小さな体をギュッと抱きしめると眠っているアルゼがヘニャリと笑った。
スースーと寝息が聞こえだしたが、眠りが深くなるまで寝床からは出ない。
すぐに出るとアルゼが目を覚ましてしまうからだ。
深い眠りに入ったアルゼを寝床に残し、居間へと戻り湯をわかす。
ガビエを器に入れ、沸いた湯を上から注ぐ。
少し癖のある味のガビエ湯は疲れが取れるが子供の成長を妨げると言われているので、アルゼが眠ったこの時間に飲むようにしている。
椅子に座りガビエ湯をチビチビと飲んでいると、窓の外から虫の音が聞こえる。
もうすっかり夏だ。
一人になるといらぬことを思い出してしまう。
【あの子ならこんな場所じゃなくても村人に受け入れられるんじゃないのかい?】
交易の女が言った言葉が俺を苛む。
(わかってるさ)
あんなに愛らしいアルゼだ。
同じアルゼでも俺とは違う。
アイツなら違和感なく村人に受け入れられるだろう。
相変わらずここでアルゼと暮らしていられてるのは、あの女がアルゼの存在を他人には漏らしていないということだ。
アルゼがいなかった頃、俺はどう1日を過ごしていたのか。
両親が亡くなってからは誰とも話すこともなく、ここで作物を作り、獣を狩り、食らい、時が流れるだけだった。
(アルゼがいなくなったら--------)
ゾクリと身震いした。
俺は孤独だったんだと気づいてしまった、またあのような日々が来るなんて、この温もりを手に入れた今の俺には受け入れられない。
(このままでいい--------)
寝室への扉を見つめながら、冷めてしまったガビエ湯を一気に飲んだ。
応援ありがとうございます!
21
お気に入りに追加
517
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる