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3章

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 とんがり屋根の家が集まる集落
 リウアン族の一族が丸まる生きるこの村に俺は住んだことはない。

 村のはずれの陋屋から村までは冬の悪路だからもあるが半刻はかかる。

 山頂ほどではないが冬の村も雪に覆われて真っ白だ。
 けれどネルツの木の樹液で赤く塗ったとんがり屋根は雪が積もらない。

「ふしぎ、ねぇ」


 急こう配の屋根で雪が落ちやすくなってる上にネルツの樹液で滑りやすくなってる。
 リウアン族の昔からの知恵だ。
 山頂の俺の家も同じようになっているが、今頃雪で完全に埋まっている頃だろう。

 積もった雪をかき分け歩く俺の後ろからついてくるアルゼは着ぶくれてモコモコだ。
 アルゼの体に合わせた外套は真新しくて、わざわざアルゼのためにちぃの母があつらえてくれたのだと言う。

「きるの、てつだったのよ」

 獣の皮でできた外套と手袋をし、毛糸でできた帽子はアルゼの大きな耳も収められるアルゼのために編んだものだ。
 ちぃの母はアルゼのことをとても大事にしてくれていたことが伺える。







 リウアン族の冬眠は家ごとに家族で地下室で眠る。

 生き物が死に絶える山頂とは違い、村付近の森では野生動物も冬眠している。
 冬眠が遅れたり早く終わったりした動物が、食べ物を探すため村を荒らすときがある。
 1つ1つの家を見回り、異常がないことを確かめ、修復するのが冬の俺の仕事だ。

 子供の頃、地下室で冬眠する両親を残し、村のはずれの陋屋から一人で村へとやってきて見回ってた時には誰がどこに住んでいるかなど知らなかった。
 冬以外近寄ることも許されなかった村をたった一人で歩けるのは最初は楽しかったがそのうち空しくなった。

「ここ やんちゃのキガエ」

 なのにどうだろう。
 率先して前を歩くアルゼと一緒に回る村は見違えるほどに鮮やかで、見たこともない人々の暮らしが目に浮かんだ。


「ここ、いじわるユエン」

 ちぃのことを好きでアルゼに意地悪ばかりしてたリウアンの女の子の家で弟が3人もいるのだと説明してくれる。

「おなじ、かお、むずかしかった」

 3つ子なのだろう、最初は見分けられなかったが子守するうちに見分けがつくようになったらしい。



 ピョンピョンと弾むように前を歩くアルゼの足が止まり1つの家を見上げたまま動かなくなった。

「アルゼ?」

 じっと窓を見つめるアルゼの目にみるみる水滴がたまっていく。

「おばぁ、さん」

 睫毛が受け止めきれなくなった雫が頬を伝い滑り落ちていった。

 アルゼに与えられた子守の仕事は、もともと村の老いた者たちの仕事だ。
 はじめ理不尽に村に連れてこられた時、反発し脱走し誰とも馴染まなかったアルゼだが、幾人かの老人と一緒に村の広場で幼い子供たちの面倒を見るうちに諦めと共に村での生活に馴染んでいった。


「おばあさん、おきてこない、いった」 

 しゃくりあげるように泣くアルゼ。

「うっ…おきてこないは死ぬ、だって。ちぃがいった」


 リウアン族の年寄りは冬眠したまま死ぬことがよくあるが…

「年寄りは毎年そう言うらしいぞ」

 母さんがしてくれた思い出話の曾祖母の口癖だったらしい。
 毎年泣かされたわと母さんが言っていた。

「多分おばあさんもまた起きてくる」

 モコモコの毛糸の帽子の上から頭を撫でてやる。

「ほんちょ?」

 起きてこないこともある。それが今年であるかはわからないが俺はアルゼを泣き止ませたくて根拠のない言葉を口にした。

「あぁ。おばぁさんは春になったらまた起きてくるさ」

 アルゼと一緒に赤いとんがり屋根の家を眺めながら、見たこともない老婆に春になったら起きてきてくれと祈った。





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