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【第一章】魔王様と三人の勇者
十三話 魔王リスドォルは迎え討つ【前編】
しおりを挟む「何か来るな」
私は紅茶のカップを置き、衣服を普段の黒の衣装に変化させて立ち上がる。
同じテーブルで優雅にナプキンで口を拭うフランセーズが私を見上げる。
「新しい勇者?」
「いや、まだデュラムは勇者をやめていない。それに数が多い」
勇者は本来四人程度のパーティーでやってくる。
多少の増減はあっても、勇者が単体で攻めてくるのは本来かなり珍しい。
三連続で勇者一人なのは、実は私も少々驚いていた。
「軍の兵士って事はねーよな」
デュラムが外していた装備を着け直し、いつでも動けるよう調えている。
魔物に手を出しても無意味だと、この世界に来る時に最初に知らしめるのが、魔王の重要な役割なのだ。
一般的な武器や魔法は、魔物に使うだけ素材や魔力の無駄だと、幼い子供でも知っている。
魔王侵略の恐怖に、自我を失い暴走する人間が現れるような段階はもう随分前に終わっている。
今の民は、勇者の存在を待ち侘び、英雄が誕生した後の平和な世界を思い描くだけだ。
「この魔力、人間ではないな」
最初は十程度だった気配が増え始めたかと思えば、すぐに百を超える。
まだまだ増えようとする存在は、明確な意思をもって魔王城に向かっている。
魔力の質が私に近いとわかるまでにその距離が縮まっていた。
「……これは、まずいかもしれん」
「魔王?」
「フランセーズ、お前はユタカの部屋に光の守護を」
「それは構わないけど……」
王族の民を守ろうとする気質が、神によって増幅されているフランセーズは守護や回復の性能が私の比ではない。
最悪ユタカだけでも助かれば、後のことはどうとでもなる。
「デュラム、もしこの城が無事だったら調理場と食糧庫をお前にやる。魔界の食材もこの世界の食材も一通り揃っている」
「マジで!?」
「だから共に外で城を守ってくれ」
「了解」
腹一杯の飯なら私でも用意ができる。
一時的でもそれで味方となるなら助かると思って提案したが、アッサリ受け入れられた。
炎は広範囲の攻撃としてかなり有効だ。持続もするし魔力の節約になる。
敵の数を一気に減らし、無理のない範囲で離脱するよう指示する。
「任せろ。でも魔王さんは俺ら勇者からの攻撃以外は効かないんじゃなかったのか? わざわざ出向かなくても逃げときゃいいんじゃ」
「それはこの世界の存在からだけだ。本来入って来ないはずの外部からの襲撃は想定されておらぬ」
「外部だと」
「恐らく、魔獣が攻めてくる」
「魔獣って、伝説の……」
魔獣は魔物よりも上位に位置付けられた存在である。
魔物との大きな違いは、狂暴さ。
本来は能力にそれほど差はないはずなのに、それがとてつもなく大きな影響を及ぼし、魔獣の方が恐れられている。
殺戮を楽しみ、その行為に意味などない。
つまり話し合いが出来ないから、倒す以外に被害を逃れる事はできないのが厄介だ。
魔獣は天災に位置付けられ、現れる頻度は多くないため、デュラムの言うように、人間達には伝説として語り継がれる。
神も事故と認識して、事後処理に魔獣に効果的な武器を落としたりして対処しているようだ。
しかし、普通は一体しか現れないはずの魔獣が大群で押し寄せるなんて。
それも人を襲うでもなく、魔王城を狙うとは。
「魔王、お前はどうするんだ? 無用な争いは好まないだろう」
フランセーズが何故か私の心配をする。
本来なら憎むべき存在である私に向けるものではない。
「無用な、だからな。必要性が出たのだから仕方あるまい」
私が神から受けた仕事は、世界の人口を指定された数、最小限の被害で減らすことだ。
魔獣はこの世界の存在ではないし、殲滅しようともなんら問題はない。
城の付近には豊かな自然が溢れている。
そこが踏み荒らされてしまえば、最小限の被害には程遠くなってしまう。
自然の手前には荒野がある。
そこで食い止めなければいけない。
それに、城には守るべきものがある。
「知らぬ間に、私には部下が増えたのだ。フランセーズならばわかるであろう。下の者を守れずして王とは呼べまい」
フランセーズが目を見張り、しばらくして笑みをこぼす。
「守られるのは騎士として情けないが、せめて魔王の代わりに城だけは死守しよう」
白の鎧を纏ったフランセーズが、祈りを捧げるために膝をつく。
両の手を組み、呪文を唱えると、城全体を半円状の光が包むのがわかった。
この守護の濃度なら、ただの魔獣程度では触れるだけで消滅するだろう。
「無理だけはするな」
そう言い残し、私はデュラムと共に駆け出した。
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