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【番外編】ジン×デュラム
三話 デュラムとジンの帰宅
しおりを挟む「ジンにーちゃんおかえりー!」
「みんなただいまー! 先生のお手伝いしたか~!?」
「したーーー!!!」
三日後、ジンは昼頃に帰ってきた。あれからブレドが来る事もなかった。
ジンは一人一人子供達が何を手伝ったのか報告してくるのを聞き、最後にお土産を手渡している。
俺も早くジンに近付きたいが、ぐっと堪えて調理中の鍋の火を見ていた。
全員との挨拶が済んだジンは調理場に早足で向かってくる。
「先生、お手伝いさせてください」
「いや、お前疲れてんだろ。ヒデー顔してる。一旦部屋で寝てこいよ」
「でっ、でも……」
「わかったわかった」
火を止めて、子供達に配膳を頼んだ。
みんな元気に返事をして動き出す。
「ほら、部屋行くぞ」
「うぇっ、え!?」
俺はジンの手を引いて部屋へ連れて行く。
目の下に隈ができてるし、表情にも覇気がない。
誰が見ても疲れてるのがわかるから、子供達はお土産を貰ったあと、遊ぼうとも、お話しようとも言わなかった。
チビ達が心配してる中で働かせるなんてできるかよ。
「ジン」
部屋に入り、ベッドの横で俺はジンと向かい合って両手を広げた。
条件反射と言えるくらい、ジンは勢いよく俺に抱き着き、そのまま俺達はベッドに倒れ込んだ。
もう俺より頭一つ分くらい高くなった身長も倒れてしまえば関係ない。
ジンの頭を胸に抱き、髪を撫でる。
「お帰り、お疲れ様だったな。ジンが帰ってきてくれて嬉しい」
「ただいま帰りました。俺も、早く先生に会いたかった」
体がどれだけ成長しても、中身はいつでも少年の時と変わらない。
俺の胸に顔を擦り付け、そのままスースー寝息を立てる。
ジンの寝かしつけをさせたら俺は世界一だ。
熟睡を確認した俺はジンのスカーフを解き、襟元のボタンを外して寛がせる。
ジャケットを脱がし、ズボンのベルトを抜き取り、腰を緩めて布団をかけた。
「おやすみ」
最後の仕上げに額にキスする。
18歳といえどまだ幼さの残る寝顔を、俺は時を忘れて眺めてしまう。本当に男前になった。
離れている時間が多くなればなるほど、ジンの心は誰かに奪われているのかもしれないと考える。
でも、こうして戻って来ると全身で俺を好きだと伝えてくれ、それに安心するという日々を繰り返す。
ジンの気持ちに気付き、自分の気持ちに気付いても、表面上は何も変わらなかった。
ただ俺がジンを好きだなって思う時間が増えた。
俺は成長なんてもうあんまりしてないけど、若さゆえにジンは日に日に変化していく。
声が低くなり、手が大きくゴツゴツして男らしくなる。
見た目は迫力を増していくのに、気遣いはどんどん細やかになる。
俺が遠慮するからだろう。俺に手渡してくる金以外に、すんげぇ遠回しに他人を装って孤児院に寄付してるのも知ってる。
ジンの事は何でも知っていたのに、今は知らない事の方が多くなった。
もうジンは一人前の大人だから、保護者面するのも違う気がして俺からは何も聞かなかったからだ。
商人になった事と、今は社長になったって事くらいしか知らない。
めちゃくちゃ稼いでるんだろうなってのはなんとなくわかる。
だが、俺の前では子供のままでいようとするのだ。
俺が必要なんだと思わせてくる天才だと思う。
何度かジンの頭を撫でてから俺は部屋を出た。
広間に戻れば、全員分綺麗に食事が並べられていた。
ジンが部屋から戻ってこない事を子供達は知っていてジンの分は用意されていない。
起きた時に誰がジンに出来たての料理を運ぶのかを話し合っていた。
話し合いというより争奪戦だが。
俺が戻ったことに気付いた子供達は静かになり、お祈りの仕草をする。
我が孤児院ではレジャンデール神とリスドォル神へ感謝を捧げることになっている。
それを知った二人は大笑いしていたが、守護神みたいなもんだからいいんだよ。
二人がいなきゃこの孤児院は存在していないんだから。
◇◇◇
「おはようございます……」
「おはよう、風呂入ってこいよ」
「はい……そうします……」
結局ジンは丸一日そのまま寝ていて、今は次の日の昼だ。
寝過ぎで頭がボーッとしているジンを子供達がサポートしている。
俺はお昼寝組である10歳未満のチビ達を大部屋に連れて行く作業に戻った。
「生き返りました」
「それは良かった」
風呂から上がって食事を終えたジンがお茶を飲みながら軽く息を吐いた。
今のジンはゆったりとした部屋着になって、キッチリした服の時より随分幼く見える。
「いつも通り夜には出るのか?」
「いえ、今回は四日ここにいます」
「珍しいな」
「それでも半分は仕事ですけどね」
仕事関係の接待パーティーがあるらしく、会場が会社よりも孤児院の方が近いようで休みと重ねたそうだ。
今晩はそのパーティーに出なければいけないと嫌そうにジンは言った。
「しつこく宿泊を迫られましたが、絶対に帰ってきます」
「わかった……ってお前、それ」
「はい、女をあてがいたいんでしょうね。それで優位に立てると思っているような相手ですから行きたくないんですよ~!」
本当に駄々でもこねそうな口ぶりで可愛い。
内容はかなりアダルトだけど。
「……でも、もしかしたら超絶美人がいて気に入るかもしれねーじゃん。今から帰るって決めなくてもいいのにさぁ」
最低だなって思いながら、俺は笑いながら軽い口調で試すような事を言った。
ジンはその俺の言葉を気にする事なく快活に笑った。
「あはは! 俺が?」
「すげぇ笑うじゃん」
「だって、魔王とかフランセーズさんとか、超絶美形が身近にいるのに! 魔界で見掛ける魔物の美女よりも上の存在を用意できるんだったら進んで契約交渉したいくらいですよ!」
いや、ほんと、その通りだよ、ごめん。ぐうの音も出ないね。
言葉ではもっともそうなことを言って、態度だって軽いのに、俺を見つめる眼差しだけは熱を帯びている。
そういう所がズルいと思う。
本心を隠しているようで、的確に想いを伝えてくるんだ。
「違いねぇな! 俺はちゃんと待ってるから、なるべく早く帰って来いよ」
「はい、もちろんです」
俺は顔が熱くなるのを誤魔化すように、ジンの空になったカップにお茶を注いだ。
まさかこの夜、俺達の関係が大きく変化するなんて思いもよらなかった。
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