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【番外編】ジン×デュラム
十話 魔王リスドォルの恋愛相談室
しおりを挟むジンの強姦発言に私達は首を傾げた。
そもそも勇者であるデュラムの行動を強制的に制限する事は人間では不可能だ。
合意無しの性行為というものが人間相手ならば成立しようがない。
つまりジンの言っている行為は和姦だ。
その認識はユタカもフランセーズも同様らしく苦笑している。
「何が起きてそういう判断に至ったのだ」
「媚薬効果のあるクスリを盛られて、それで……止められなくて、夜通し……」
「ほう」
少し前のめりになると、ジンは私が興味を持つ事を予見していたようで、その薬品と思わしき瓶を差し出した。
デキる男だ。
「これは自分が興味のある対象のみに効果があります」
「媚薬としてだけではなく、不義を起こさないという信頼を得る用途にも価値がありそうだな」
「なのでテリアさんの研究所にもまわしてあります。フランセーズさん」
自分の分はないのかと期待に目を輝かせていたフランセーズにジンは言った。
フランセーズの場合、物が欲しいというより同じ話題に早く入りたいだけだ。
「さすが! 仕事が早いね」
「媚薬としての効果は俺が身をもって保証します……」
「夜通しかぁ、若いなぁ」
「笑い事じゃないですよ……」
この場の誰もジンとデュラムが和姦だと教えないのは性格が悪いが、ジンが自分の事になると急に頭が働かなくなる所が可愛いのだから仕方ない。
「それで? 私の所へ愚痴りに来た訳ではないのだろう?」
「あっ! そうです、あの、孤児院を襲ってくれませんか!?」
「は?」
今度はジン以外の三人が同時に目を見開く事になった。
ジンは順を追って説明を始める。
「今、ブレドさんという先生のセモリナ時代の相棒だった人をお手伝いに雇いました。俺が先生に嫌われて側にいられない場合、先生を支えてくれる人が必要なので」
嫌われている前提の行動なのだが、それでもデュラム第一なジンの様子に、私は自然と顔がほころんでしまう。
「ジンがデュラムを任せられる存在がいる事に驚いたな」
「俺の知らない先生を知っていて、仲違いで離れた訳ではない点と、ブレドさんが先生に好意を持っている点が重要ですね」
「恋敵ではないか。それは大丈夫なのか?」
「俺は仕事を始めてから、好いた相手のために身を滅ぼす男女を沢山見てきました。恋愛がどれほど強い鎖なのかを知っているので、裏切る可能性が低いと判断しました」
デュラムへの恋で人生全てを捧げているジンが言うと説得力がある。
私もユタカという伴侶の例を知っているため反論はない。
「しかし、俺も情報の上でしかブレドさんを知りませんし。裏切ったり、逃げ出す可能性はゼロではないので、テストがしたいんです」
「それが孤児院を襲う、という事か」
ジンは私とユタカとフランセーズを順に見て、ゆっくりと頷いた。
「生半可な者では先生に瞬殺されてしまいますし、ブレドさんを試せないじゃないですか。先生を無傷で拘束でき、子供達を危険に晒さずブレドさんだけを引き合いに出せる手練れなんて、魔王と勇者くらいです」
全員で肩をすくめた。確かに私達以外に出来る事ではない。
「そもそも先生と付き合っていくと、王様が遊びに来たり、いずれ人間以外の存在と出会ったり、並大抵の精神では側にいられません。正体を明かす所まで必要です」
もっともな意見だ。
真っ先にフランセーズが動いた。
「ふふ、なんだか懐かしいね。魔王討伐ごっことか英雄伝説ごっことかしてきたけど、今度は盗賊ごっこかぁ」
楽しそうに紙を取り出し、計画書のタイトルを書き始める。
王として、八児の母として普段は気を張っているからだろう。こういう時に俄然興味を示すのはフランセーズだ。
「リズ様とフランセーズは絶対に顔を出しちゃダメですよ」
ユタカが腕を組みながら釘を刺してくる。
「有名人のフランセーズはわかるが、何故私まで」
「美し過ぎて賊と思われないからです」
フランセーズが“顔を隠すもの”とペンを走らせている。
不服だが、誰も否定しないのなら受け入れるしかない。
「この中だと俺が一番賊っぽいので、そのブレドって人は俺が対応します」
「僕が子供達を人質に取ろう。全員まとめて防壁の中に入れるのが一番安全だし」
「では私がデュラムを拘束する」
あっという間に役割が決まったが、依頼人はどうするつもりだろうか。
「ジンは何をするのだ」
「俺は謝罪です」
「謝罪」
「ブレドさんに試した事を謝罪しますし、先生にも慰謝料を渡して強姦についてお詫びします」
ジンの悲壮感が凄まじい。
流石にそろそろ助言してやるか。
「ジンは……ブレドという奴が、お前のような過ちを犯すとは考えないのか?」
「え? 先生にそんな事できる訳ないじゃないですか」
「何故だ」
「先生は勇者ですよ、強いんです。合意なら俺が口出しできる話じゃないですし、嫌なら絶対そんなこと……」
ジンはピタリと動きを止めた。
私は続きを促す。
「そんなこと?」
「え? あ…? で……できるわけ、ない……」
「そうだな」
ユタカもフランセーズも肩が震えている。
私も口を押えて噴き出すのを堪えて横を向いた。
「せ、先生は優しいから……」
「デュラムが優しいとして、血塗れになってまで受け入れるのか?」
「血塗れ!?」
「デュラムとジンは同じ構造なんだ。なんの準備もなく尻に挿入すれば勇者だろうと負傷するが?」
男でも自然と濡れるのは魔物と悪魔くらいだ。
勇者の身体が柔軟であっても、摩擦による傷はどうにかなるものではない。
「えっ、でも、なんか……先生の……あれ? 濡れてた……んです、けど……え?」
とうとう私達三人は堪えられず笑い声をあげた。
デュラムは私達の想像よりも用意周到だったらしい。
「はっははは……優しいってレベルじゃねぇよデュラム! どんだけジンの事好きなんだよ!」
「あははは! も~ジンが早くプロポーズしないから!」
「くく、ふふふ……いや、本当に似た者同士だな、この家族は」
ジンは寝不足なのもあり、混乱が混乱を呼びそうだったため、これ以上の話は休んでからという事になった。
客室のベッドに押し込めば一瞬にして深い眠りに落ちていた。
「ふふ、デュラムに嫌われていないとわかって安心したんですかね」
「誰がどう見てもお互い好きなのにね……」
「当事者の方が近すぎてよく見えないという事は多いからな」
ジンが起きるまでの間、私達はデュラムの喜びそうなプロポーズを話し合って白熱した時間を過ごした。
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