208 / 237
第六章.悪役令嬢と悪女
閑話2.報告
しおりを挟む普段は礼節を重んじる二人が作法を無視するなんて珍しかった。
「ご無礼をお許しください、皆様」
「偵察隊が先程戻って参りました」
二人は正装ではなく騎士服だった。
「二人共、早馬を飛ばして来たのですか!」
「ええ、馬車では遅すぎるので」
相乗りでは馬の速度が遅い為、二人は共に馬に乗って来たのだった。
「すぐに報告を」
「ハッ、先程偵察隊の者の報告によると、封印は誰かの手により故意的に解かれた状態でした」
一同は息を飲んだ。
なんとなく予想をしていたことだったが、外れて欲しかった。
「誰が封印を解いた」
「封印の場所を知る者は少ないはずです。踏み込めたとしてもトラップが仕掛けられているはずですが、全て解除されている状態でした」
「何ですって?そんなのはあり得ない」
トラップは特殊な魔法で作られているのですべてのトラップを解くなんて芸当な不可能だった。
「何より、疑わしいのは…封印されている洞窟に人が入った形跡はあれど、荒らされた形跡はありませんでした。いくら何でも可笑し過ぎます」
「すべてのトラップを解除して進むなど、どんな知恵を持った者でも困難です。何より傍には猛獣が住み着いているはずです」
ランスロットとテレシアはすべてのトラップを解除し、尚且つ猛獣に見つからないようにするなんて無理だと思っていた。
優れたテイマーが一緒でも野生の猛獣を手名付けさせるのは至難の業だったからだ。
「そして最悪な事態になりました」
「最悪の事態?」
「はい、厄災の封印には黒水晶が一緒に封じられていたのですが…その黒水晶も奪われていました」
「何ですって!」
黒水晶がもし、邪な心を持った者が持ち去ったとなれば大変な事になる。
人の心を操り洗脳することすら安易にできる危険な水晶は悪の心を吸いつくし、さらに力を増してしまう。
欲望が膨れり力を得てしまった黒水晶はやがて、世界を滅ぼしてしまうのだから。
「洗脳…そういえば」
「どうしたのロゼ?」
「先日学園で騒ぎを起こした男子生徒がいたじゃない?」
思い出したように告げるマダムロゼ。
「あの後処分になってすぐに、気分不良で倒れた…ニコラウスとかいう子。彼は魅了魔法にかかっていたみたいなのよ」
「ええ、私も聞いているわ。フェイト家に戻ってすぐに倒れたらしいんだけど…麻薬症状に近い状態だったらしいけど。でも、今は完治して静かに暮らしているんだけど…」
アンジェリカもニコラウスが退学になった後に、気分不良で倒れた後に宮廷医師団と共に薬を調合師に出向いた時の事を思い出した。
「親御さんか聞いたんだけど、ニコラウスがあんな騒動を起こしたのには魅了魔法の所為じゃないかって医師達が言っていたの」
「そうね、彼の乳母にも聞いたし。使用人にも聞いたけど…まるで人格が変わったようだと言っていたわ」
学園に入ってから傲慢になり明らかにおかしかったとも聞かされた。
まるで病にかかったかのように。
「マリエという令嬢は聖女候補だと言っていましたね‥ですが、光魔法は癒しの魔法であり、浄化能力なのに…おかしいですわ」
「ヴィオレッタ様、私も同感ですわ」
テレシアは早い段階から聖女候補でありながらも異質すぎるオーラ―を持つマリエを危惧し、調べていた。
「行方不明の王妃と、マリエという娘…無関係とは思えません」
「あの女が怪しいのは前からじゃ。後ろ盾がなければ本来王妃になる資格もないのじゃからな」
マジョリカは今の王妃ジョバンナを敵視ていた。
かつて王が愛した女性を死に追いやり、そして王妃候補となるはずだったウィルフレッドの母親さえも踏みつけたのだから。
「とにかく急いで学園に…嫌な予感がしますわ」
「ヴィオレッタ様、私も参りますわ。娘達が心配です」
不安を抱くのはヴィオレッタだけではない。
テレシアも同じだった。
「私達は馬鹿共を拘束しに行くよ」
「「はいグランマ!」」
「私は一度王宮に戻ります。万一の時に備えなくてはなりません」
セシリアは最悪の事態に備えるべく王宮に戻る準備を進める。
「お二人共、私も参ります」
ランスロットも共に行くことを告げ、三人は急いで学園に向かうのだった。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
8,227
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる