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第六章.悪役令嬢と悪女
閑話1.異変
しおりを挟む貴族街にあるシャトレーゼ家別宅。
ここは、ヴィオレッタが王都に留まっている間に使っている邸だった。
「何、風の動きが」
「風の動きだけではありません」
傍には一緒にお茶を飲んでいる王太后やマジョリカも一緒だった。
「大変よグランマ!」
「お師匠!」
慌ただしくバルコニーに駆け込んできたマダムロゼとアンジェリカ。
「さっき、ロゼが占いをしたんだけど…水晶玉が割れたの」
「普通ではありません。この風にどす黒い雲…邪悪な気配を感じますわ」
魔力の察知能力が高い二人は、占いも得意だったことから、いきなり現れた黒い雲が気になり占ったが、何かの力に邪魔され、水晶玉が割れてしまった。
「先程私も占ったんだが…何者かに邪魔された。これはただ事じゃない」
「もしやこれは!」
何かを思い出いしたようにセシリアは鞄から石板を取り出す。
「何です、この石板は」
「ガゼルの石板です。王家に伝わる家宝の一つです。お告げが記されているのです」
石板には古い文字が刻まれており、光る場所だけが解読が可能になっていた。
しかし数十年間石板が反応することはなかった。
「今から二十年前に反応があったことは覚えていますね」
「はい、石板のお告げもあって…私が嫁いだのですから」
公には政治的理由で政略結婚をしたと言われているが、実際は違う。
石板のお告げで、数十年後にこの世に厄災が生れるお告げが出たのだった。
「初代聖女様が封じた厄災の封印が解けるとのお告げと同時に新たな聖女の誕生と、同様に聖女を導く賢者が生れると言われていた…」
「その為、その賢者が地上に君臨するのを守る為にもヴィオレッタに嫁いでもらいました。何故なら貴女は浄化魔法を持つ稀有な存在ですから」
「しかし、その賢者がヴィオレッタの息子として生まれるとは誰が予想しただろうか」
「ええ…私も正直驚きました」
聖女と賢者は同じ時代に生まれることは決まっていた。
何故なら幼い聖女を教え導き守るは賢者の役目だった。
魔力は極端に低いが、優れた知識を持ち聖女を正しき道に導く聖職者とも言われていた。
「エリオルを授かった時に、お言葉を賜りましたが…まさか賢者の資格を持っていたとは」
「ですが、賢者の資格を持っていても候補に過ぎません。聖女候補がいるようにね?」
セシリアは生まれながらの聖女も賢者もいないと思っている。
「聖女が悪の心を持てば悪魔になり、賢者も同じ…聖騎士も狂乱騎士になる可能性もあるのです」
すべては成長する中で決まる。
「エリオルは自覚無しに周りを救います。それはエリオルの心が美しいからです」
「セシリア様」
「そして貴女も」
望まない婚姻をさせられ、苦痛に耐え続けたヴィオレッタにとって試練の連続だった。
正直、めげたくなることもあった。
出家してしまおうと思った事も何度かあったが、エリオルの存在が支えだった。
「私はずっと、エリオルに守られてきました。私が挫けそうなときは必ずエリオルが笑うんです」
乳飲み子だった頃から、ヴィオレッタが苦しい時は笑って励ましてくれた。
だから、戦うことができた。
不遇な扱いに耐え忍ぶこともできたのだった。
「しかし、厄災の封印を誰が解いたのか」
「本来なら、まだ解けることはないはずです」
まだ数十年は封印が持つはずだった。
「誰かが封印を解き、黒水晶を持ち出したのか」
「ですが、そんな馬鹿な真似を誰が…」
黒水晶とは、他の魔石と異なっている。
人の心さえも簡単に操ることが出来るが、同時に操っている人間の心までも蝕み、術者の心も食い殺してしまう。
「もうすぐ偵察隊が戻るはずです。そうすれば…」
そんな最中、セシリアの言葉を遮るように慌ただしい足音が聞こえた。
部屋に入って来たのは、テレシアとランスロットだった。
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