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18.王太子の思い~クレイルside

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ユーリが表向きに国外追放になって数日。
噂は未だに消えることはない。


酷くなる一方となり、ロマンス小説にもなっている始末だ。
目に見えるハッピーエンドの物語よりも悲恋の末に愛を貫いた男女の恋物語の方は多くの人の胸に訴えるらしい。


実際、ステンシル侯爵家で酷い仕打ちを受けているアイリスを知る者は多い。
その上愛する人まで奪われそうになり二人は苦悩の末に駆け落ちをしたとなればネタになる。

ただ、夢物語で終わらないのは、計画を持って行われた事だ。
通常は駆け落ちした後は心中するパターンも多いだろうが、ユーリは辺境伯爵子息という肩書以上に騎士団の肩書と長年の功績により爵位と領地を与えられていた。
財力もあるし、聖騎士という立場故に他国に騎士として迎えられるだろう。

冒険者になって稼ぐことも可能だ。
アイリスも侯爵令嬢でありながら他国の宗教や文化に精通し語学も堪能だ。

いずれ聖騎士の妻になるべく医学も学んでいたので貴族でなくなっても十分に生活できるだろう。

皮肉な事に、実家では高位貴族令嬢としての扱いを受けず質素に生活していた事で、貴族を辞めても生活できるスキルを身に着けてしまった。



恐らく二人は国を出た方が幸せになれるだろう。
無事であると信じているが、原因となったのが愚弟の行いによるものなので申し訳なく思う。


同時に妻に心配をかけているのが情けない。


「殿下、あまり気に病み過ぎてはなりません」

「エラ…」

同盟国のオルステア王国の第三王女。

エラノーラ・オルステア。
女性が王位を継いでおられるので母君が女王陛下で、今の世では珍しく女性が政治に関わる事を許した国だ。

私との婚約は幼少の頃から取り決められているが、夫婦関係は良好だと思っている。


「アイリス様の事は心配でありますが、今は表立って動くのは危険です。周りも気づかれるのは…」

「すまない。解っているんだ」

上手くやり過ごさなくてはならないのだが、幼少期より私を支え守ってくれた一番の親友が国を去り、世間でははしたない真似をしたと罵倒されるのが悔しくてならない。


その噂を流しているのがステンシル侯爵家なのだが、余計に不愉快だ。


「私の一番の友だったんだ」

「存じておりますわ」

「体が弱く、王太子に相応しくない。ルゴニスと常に比較され苛まれて来た私を守ってくれた優しい男なんだ。ユーリがいたから私はルゴニスを憎むことはなかった」


もしかしたら憎んで、恨んでいたかもしれない。
私は体が弱く、剣を振るうことができなかったんだ。

対するルゴニスは天才だった。
剣術の才も素晴らしく、多方面にすぐれている。

私は幼少の頃から王太子になる為に生まれて来たと言われ自由もなく、王太子でいなければ価値がないとまで言われ苦しんで来た。


そんな私を救ってくれたのがユーリだった。
私にとって親友で兄のような存在でもあった彼を守れなかった。


「殿下、ならば今は耐えなくては。いずれ再会した時に胸を張って会えますように」

「ああ」


本当に情けない。

私は自分の良さが、不甲斐なさが情けない。

だからこそ私はもっと強くならなくてはならない。

その為にはは侯爵家ハイエナ達を潰さなくては。


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