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第二部.薔薇の花嫁

5.侍女三人娘

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クラエス家に迎えられてからフローレンスの身の回りの世話を任された三人の侍女。


通称侍女三人娘は新しい女主となるフローレンスの為に色々世話を焼きだして気づいたことがあった。



それは何に関しても控えめで、言葉を飲み込むのが癖になっていた。


邸でも…


「お嬢様、旦那様よりお花と手紙が届いております。本日は公務の為昼過ぎまでお戻りになれないそうです」

「お忙しいのに申し訳ないわ。お花まで…」

「お嬢様…」

通常ならほったらかしにされたら怒るのではないかとも思った。

仕事にかまけるのではなく自分に構えと癇癪を起す令嬢もいる。
侍女仲間で他の邸に仕える侍女から愚痴を聞いたことがあるのでフローレンスは随分と遠慮がちだと思った。


他にも思ったのは…


「お嬢様、お茶ならば私が…」

「ごめんなさい」


お茶を淹れようとするフローレンスをペコーが急いで止めに入る。
伯爵家では一体どんな扱いを受けていたのだろうかと疑ってしまい、極めつけドレスに関しても。


「こんな貴重なドレス…私が着てもいいのかしら」

「お嬢様ぁー」

ルフナは涙目をしながら見ていた。
思えば邸に運ばれた時も制服姿であったが、髪飾りなども飾り気がなかった。

他の令嬢なら制服でもお洒落をしているのに対して制服じたいも使い古された物だったし。


靴や鞄もそうだった。


侍女三人娘は伯爵家で不遇な扱いを受け虐待されたいたのに気づく。
質が悪いことに親達は一切悪いことをした自覚がないのだった、知らないことは罪だった。


「ジャスミン様、どうしたら良いのでしょうか」

「お嬢様は何をするにも遠慮なさって、シプロキサンの品を見ながら申し訳なさそうな顔をされますわ」

「まるで泥棒をした後に罪悪感を持ってしまったような…」

「ご自分がしたいことをするのが罪な様に思われて…あんまりです」


伯爵家では自由が一切なく趣味を持っても取り上げられ、大好きなシプロキサンの歴史に触れる事すら許されなかった。


「鳥籠に押し込められお辛い思いをしていたのでしょう…」

「おいたわしい」

「せめて、もっと我儘になっていただかなくては」

このままでは公爵夫人として振る舞うのは難しい。
どんなに交渉術に優れ、聡明で教高くとも、公爵夫人としての威厳を他家に示さなくてはならないのだから。


「旦那様も我儘を言ってくれないとしょげていましたわ」

「まったくヘタレですわ」

「ですが、色々すっ飛ばしていましたしね?」

「ええ、大体あの女とお嬢様をどうして間違ったのでしょう?最初から私達が調査すべきでしたわ」

実はこの侍女三人娘はクラエス家の三羽烏と呼ばれる程優秀な諜報員でもある。
密偵もお手の物だが、普段は侍女として振る舞っている。



「とにかく今は伯爵家のことを忘れ、我儘になっていただきましょう」

「そうですわ!旦那様は不甲斐ないですもの」

「私達でお嬢様を…いいえ奥様をお支えしなくてはなりません」

「ええ!」


ジャスミンは優秀な部下を持ったなと心から思った。

だからこそ今はフローレンスが我儘になれる様にと努めようと思った。







そして現在――



「お嬢様、もっと我儘をおっしゃってください」

「え?」

侍女三人娘に言われ戸惑うフローレンス。


「旦那様にもっと傍にいて欲しいとか、不満はありませんか?旦那様はあの通りの男ですから言わないと解りませんわ」

「そうですわ。贈り物だってワンパターンだし…」

「薔薇ばっかりですものね?もっと工夫をしなくては…」


ぐいぐいと押してくる侍女三人娘に困りながらも控えめに告げる。


「私は今で十分すぎるぐらいです。こんなに頻繁に贈り物をいただくなんて…」

「「「はい?」」」

「私はどなたかにあんな素敵な薔薇をいただいたのは初めてで…でも、こんなに沢山にの贈り物をいただいて申し訳なくて」


この時、侍女三人娘は眩暈がした。
元婚約者からは贈り物は全くなかったのだと。

誕生日にもプレゼント一つ、ドレス一着も送らず花束すら渡していないことに気づく。


「これ以上良くしていただいたら罰があたります…それにアリシエ様は一日一度は私と時間を作ってくださっています。私は…それだけで」

真っ赤になりながら俯くフローレンスに侍女三人娘はときめく。


「ペコー‥天使がいますわ」

「ええ、なんて可愛らしいのでしょう」

「あのデリカシーの無い旦那様に勿体ない」


実の所、アリシエの一方通行とばかり思っていた彼女達だが、ちゃんと思い合っているのだと解り安堵した。


ただし、互いに両片思いの状態に歯がゆく感じたのだ。


なので侍女三人娘はある計画を目論むのだった。
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