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第二部.薔薇の花嫁

4.常夏の島

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クラエス領地は国内でも一番広く自然が豊かだった。
少し前まではクラエス領地内の西部は砂漠が多く干ばつの影響でオアシスも枯れて死活問題だった。


今ではその対策をされているので、砂漠付近でも水を得ることができる。
王都は異なり不便さはあるが、その地区ならではの良さがある。


「わぁー…なんて美しい海なのかしら。サファイヤのように輝いて。これがシプロフロキサシンに繋がるマルシェですね!」

「ええ、この海から直接繋がっておりますわ」

浮かない表情をしているフローレンスを元気づけるべく侍女達が計画したが、思った以上に喜ばれて安堵する。


王都で過ごす貴族は嫌厭しがちだった。
何故ならカジノと言った娯楽が少なく自給自足をしており。

シプロキサンの風趣が根強いからだ。
民の服装も軽装で肌を出していることからはしたないという貴族もいるし食事の作法も後進国と変わらないのだが…


「可愛いお嬢さん。よかったらどうぞ」

「待ってくださいミーシャ、この方は」

「ありがとうございます。いただきます」

マンゴウをそのまま差し出され、フローレンスはそのままかぶりつく。


「美味しい」

「だろう?うちの果物は天下一品さ!果物はかじるのが一番だからね!これも食いなケバブだ」

「ミーシャ!待ちなさ…」

果物はまだしもケバブはまずいと思った。
何故なら地元の人間以外は手で食べる行為を毛嫌いするし、サイズが大きいので綺麗に食べられず手も汚れると言われ嫌われるのだが。


「すごく美味しい」

「お嬢さん、見た所他所の人なのにケバブの楽しみ方を知っているね!」

「祖母が大好物だったんです…」

「そうかい!それは嬉しいね!他の領地の奴は見た目が汚いって食わないんだよ!」


ミーシャは豪快に笑う。
太陽の様に朗らかな笑顔で気持ちがいいと感じる。

「こんなに美味しいのにもったないわ…こんなに美味しいものを知らないなんて」

「お嬢さんはいい子だね。見た所貴族のお嬢さんだろうに」

「はい?」

首をかしげるフローレンスにミーシャはさらに機嫌を良くしたのか、果物とケバブをサービスしてくれた。



「随分と気前の良い方ですね」

「私は、フローレンス様の方が気前がいいと」


ジャスミンはフローレンスの柔軟性の高さに驚いた。
そして貴族でありながらもかなりの庶民派であることに気づく。


普通は旅先であっても平民に気軽にされれば怒るし、進められても食べ物を食べたりしない。

「お嬢様、少し警戒心を持ってください」

「そうですわ、ここは治安がいいですが…他の地では毒が仕組まれていたりしたらどうしますの?」



側に控える侍女三人は心配でならなかったが…

「でも、食べた時変な味はしなかったし。後味にも問題なかったわ。無味無臭であっても固形物に入れれば毒を食べるのは困難だし…こんな人通りの多い場所ではまずしないわ」

「は?」

「お嬢様…」

この発言からしてこれまで毒を盛られたことがあるような発言だった。


「失礼ですが、毒を盛られたことがあったのですか?」

「ええ、幼少期に…でも、それ以降は対策をしましたので問題ありません」


きっぱり言うが…


「大問題ですわ!」

「何てことですの!」

「ありえません!」


侍女三人は、伯爵家に関していい噂は来ていないが、使用人も屑だとは思わなかったのでさらに苛立った。


家族の中で孤立しているだけでなく使用人にまで酷い仕打ちをされているなんて許せようか。


少なくとも彼女達は侍女としての仕事に誇りを持っていた。
故に許せなかったのだ。

侍女とは主の秘書であり懐刀でもある。
特に古参侍女等ならあり得ないことなので彼女達の怒りは相当なモノだった。


「私には一人だけ側付きの侍女がいたんです。彼女は乳兄弟でもあって…私に良くしてくれました」

「お嬢様…」

「この地に咲く花の様に朗らかで太陽のような女性でした」


クラエス領地に来てフィリーネのことを思わない日はない。

「その侍女は果報者ですわね」

「え?」

「侍女として主にそこまで愛されて果報者でなくてなんと申しましょうか。ですがご心配には及びませんわ」

「そうですわ!旦那様にお願いしてその侍女の方を呼んでいただければいいのですわ…いいえ、そうしましょう!」

「ですからご安心を!」


ジャスミンはフローレンスの憂いをすべて取っ払う為にもその侍女をクラエス家に迎えることだった。


「でも、よろしいのですか?」

「もちろんですわ。それよりもフローレンス様はもっと我儘を言うべきです」

「え?これ以上?」

今ですら好きにさせてもらって、不自由のない生活を送っているのにと思うが。


「「「いいえ!まだまだですわ!」」」


元気が良すぎる侍女三人が声を上げた。


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