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第一章伯爵家の見習い料理人
5伝統
しおりを挟む事情を聞かされたカミュとマークは驚きのあまり言葉を失った。
「古式風のマナーを理解できないなんて信じられないわ」
「しかし、この年齢で古式風のマナーを理解していたのか」
今では王族ぐらいしか古式風のマナーを使わない。
昨日今日で身につかず、宮廷貴族の間では新しいマナーを使うからだが。
名家の何代も続く貴族や、千年以上の歴史を持つ隣国の大帝国などでは昔の伝統を大切にしているために使われているのだった。
(まずいわ。私はイギリス式のマナーを使っただけなのに!)
周りに誤解されているが、前世で学んだマナーを使ったのだが。
そのマナーが伝統的だったとは思わなかった。
「叔父様、リーシェは今まで日替わりで雇った侍女よりもマナーができているわ」
「日替わりにしたのは君だろう」
「ちょっと粗探ししたら泣いて辞めるなんて軟弱よ」
日替わりで侍女が変わったのではなくその場でヒルデガルドが辞めさせたのだが、邸内ではそういう使用人を日替わり侍女と呼んでいたのだ。
「私の好みを全く覚えない、気遣いもできない…もう一度行儀見習いやり直すべきね」
「だから…」
言葉が厳しいヒルデガルドにどうしたものかと思う。
「お嬢様…」
「それに先生の教えるマナーはもう習得したから不要ですわ」
「できるのにやらなかったのか」
「中身が紙よりもペラペラで薄っぺらいのですわ。まるで見た目だけ繕ったるルクレイナ令嬢みたいね」
「ヒルデ…」
以前から対立関係にある令嬢の名前を出す。
社交界では二人が中心となり、派閥争いにまで発展していたのだ。
「あんな人と同列になりたくないわ」
「ヒルデ…」
(侯爵令嬢?)
自分には関係はないと思っていた。
相手は貴族でかなり身分の高い貴族令嬢ならば雲の上の存在だと思っていたが。
「未だにお兄様の傍をチョロチョロして迷惑だわ」
「彼女にも困ったものだ。第一王子の婚約者というのに」
二人がこんな話をしている事など全く知らずにいた。
自分は脇役でしかないし、関与する事はないと思っていたが。
既に重要な人物と関っている事にも気づかずにいた。
「リーシェ。お茶を用意して」
「はい。ただいま」
ただ与えられた仕事を精一杯こなして、何時かアリーシャに会える日を夢見ていたのだった。
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