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第一章
24恐ろしき妻
しおりを挟む宰相の知恵袋。
若かりし頃、アリエルはそう呼ばれていた。
王宮内で官僚補佐をしていた頃からとにかく頭が回っていた。
悪意を持つ者を罠に嵌める事も巧みで、あくまで自分の手を汚さず相手に自滅させてのし上がって来たのだから。
「アリエル。お前はなんて恐ろしい事を考えるんだ」
「ありがとうございます」
「褒めてないぞ」
「ほほっ、これぐらいできなくては社交界は生きて行けませんわ。それに私達を甘く見た馬鹿親子には相応の報いを受けさせなくては」
「お母様…」
「カナリア、宰相の妻になるならこの程度で怯んではいけません。腹黒上等です」
(ああ…母上がいる)
エンディミオンはアリエルが自分の母親と同じ笑顔を浮かべているのに気づく。
国を跨いで、母と同じ女性に合うとは夢にも思わなかった。
「どうされました?」
「いや、アリエル様は私の母にそつくりで」
「あら?光栄ですわ」
「はは…」
笑顔が引きつるエンディミオンは思った。
国に帰り母に話すと意気投合してしまいそうな気がした。
「あくまでこれは強制できるものではありません。ですが、エスタ―殿と奥方にお伝えください」
「お父様、こちらの慰謝料に関してはお父様にお任せしますわ」
二人の意思は決まった。
エスターとミリアを隣国に連れて行き、商売をしてもらう事。
そして王族御用達の商会を作ってもらう事だった。
これは同情からくるものではなく二人の功績を見込んでの事だった。
「一週間後、カナリア嬢には我が国に来ていただく事になります。一度顔合わせをそていただかなくてはなりません」
「はい」
「その間に社交界には噂が勝手に流れるでしょう。今回の事で責任を感じて…あるいは最悪の事態になったと」
エンディミオンは社交界での噂を利用し、婚約を結ぶまでオイシス家との接触を避けるように告げた。
「出来る限りオイシス家に関わらず、尚且つ社交界に顔を出さずに隠れてください」
「かしこまりました」
「そうすれば勝手に勘違いして、オイシス家は窮地に立たされるでしょう」
「既に落とされた城同然でこれ以上潰れようがないがな」
つかさず突っ込みを入れるアンデスだが。
「あら?愛があれば何でもできるのでしょう?孤立しても這い上がれば良いのだわ。愛さえあればいいと言ったのは何方かしら」
「アリエル…」
未だに根に持っている妻に胃を抑える。
「ですが、その前に王妃陛下の許可を」
一番大事なのは隣国に嫁ぐという事だが。
「それなら心配いりませんよ。両陛下にはくれぐれも頼むとお言葉を賜りましたので」
「何時の間に」
仕事が早いエンディミオンに驚きを隠せなかった。
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