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第一章
26前夜
しおりを挟む出発前夜。
「国王陛下、王妃陛下…」
隣国に出発する前に人目にでも良いから会いたいと言われ、人目を忍んで王宮に足を運んだ。
「侍女長、女官長。ご苦労でした」
「いいえ」
「もったいないお言葉です」
手引きしたのは侍女長と女官長だった。
二人もカナリアの指導を直接していた者で今回の事で胸を痛めていた。
「本当に良かった」
「カナリア、貴女ならば隣国でも…いいえ、何処の国でも立派にやっていけるでしょう」
二人にとってもカナリアは娘同然のように可愛がっていたので嬉しい事だった。
「カナリア、後の事は気にしなくていいのです。ただ時々で良いからあの子に手紙を出してください」
「王妃陛下…」
「エドバードは優秀過ぎる故に側近泣かせだからな。そなたぐらいしか真面に相手ができん」
人より優れ過ぎているがゆえに、コミニュケーションの取り方が極端だったエドバードを思う。
「はい…」
「両陛下、落ち着きましたらご挨拶に参ります。エドバード殿下にも我が国に遊びに来てくださるようにお伝えください」
「感謝いたしますエンディミオン様」
「カナリアをどうか…」
二人は寂しさもあるが今回の縁談は個人同士の問題だけではなく国同士を結び付ける大事な外交だった。
カナリアがエンゼル王国に嫁ぐことで、互いの国の結びつきを強くするのだった。
「オイシス家にはしっかりお灸を据えるように命じます。それから問題の彼女にも」
「キャスティ商会に関しては考慮しよう」
ある意味ではキャスティ商会も被害者でもあるのでできるだけの情けはかけると言ってくれた事にカナリアはホッと安堵する。
「ただ問題がある」
「問題とは…」
何の心配もなく隣国に行けると思いきや、国王が告げたのはカナリアが子爵令嬢である事だった。
いかに王位継承権を返上したといえど、王族であるのは間違いない。
「ウィスター家は本来伯爵以上の爵位を賜って当然なのです。ですがアンデスに断られていまして」
「はい…パワーバランスを取る必要もありますし。貴族派がどう見るか」
「ですが、隣国の王家に嫁ぐ以上は家格が取り合わないと困るでしょう?ですからこの際ウィスター家にはなんとしても爵位と領地を与えます」
これまで子爵の爵位に甘んじていたのは、出世に興味がないわけではなく。
王家に忠誠を誓うが故だった。
身分が高いと障害が多く、時には貴族派に目をつけられて抱き込まれる可能性がある。
いかに優秀でも子爵家ならそこまで注目されないのだから。
「ウィスター家がどれだけ私達に尽くしてくれたか解ってます」
これはカナリアへの選別でもあった。
その後、ウィスター家は伯爵位を賜ることになるのだった。
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